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人ならざるものに愛を寄せて  作者: 柴野いずみ@『悪女エメリィの逆転劇』発売中
第九章 妖魅、『もののけ大紛争』を引き起こす
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『もののけ大紛争』の幕開け

『もののけ大紛争』と名づけられたこの戦いが、静かに幕を開ける。


 どんな規模のどれだけ危険な争いになるかわからない。向こうが何の手段を持ち、人に危害を加えてもいいと考えているのかどうかなどの真意がわからない中、どんな行動をとるのかはまだ決まっていない。


 ひとまず私たちは、妖怪たちを相談所に残して奥村の家へ向かった。

 もののけを留守番させた意味は、ゾロゾロ大勢で移動すると大変だし、奥村との相対にも不利になる可能性があるからである。その中でもメリーさんだけは連れて来た。


「レイちゃんは本当について来てよかったの? もしかしたら危ないかも知れないのに」


「だからおねえちゃんたちとはなれたくないの!」


 レイちゃんは可愛いだけであり霊視ができるわけでもないので、実質不要。

 だがどうしてもついてくると言い張り、丘子も「レイたんがいた方がいいですってば!」などと言うので、仕方なく連れて来た次第である。

 正直守らなければならない人がいるということは、重荷になるのだが……。


「女の子がいるってことで、多少の油断をさせる作戦ですよ!」


「それって効くのかしら?」


「少なくとも暴力沙汰は減るんじゃないですかね?」


 そうとも限らないのだけれど、今はいいか。丘子と口論するより、他に考えるべきことは数多くあるし。


「不安げな顔をしているね、大丈夫かい?」


 すぐ隣からそんな声が聞こえてくる。

 金髪の外人青年――ウルフィーだ。私は彼ににっこり笑いかけた。


「気にしないで。考えごとをしていただけだもの。……あなた方こそ、タイムリミットは?」


 タイムリミットはもちろん、夜までの時間である。

 夜のどの辺りで狼化するのかは不明だが、おそらく日没直後ではないだろうか。


「恐らく二時間後くらいかな。それまでに済ませられればいいけど」


「もしもアウトだったら、私がなんとかしてあなたを守るわ」


 また、丘子のジト目攻撃を受ける。

 お願いだからそんな目で見ないでほしい。羞恥に赤面してしまった。


「二人とも、いい仲ねぇ。……もう付き合ってるのかしらぁ?」


 さらにメリーさんからの追い討ちを受け、私はあたふたしてしまった。

 何もわからずにレイちゃんが笑っている。幸い、ウルフィーには聞こえなかったらしい。


 私は彼女らの方を向くと、鋭く睨みつける。丘子がチロリと舌を出して小さく肩を震わせていた。


 ……そんなこんなありつつも、辿り着いたは奥村宅。

 私は、思い切ってインターホンを押した。しばらくの間があって、ドアがガチャリと開く。


「はーい、どちら様でしょう?」


 それは私と同じくらいの年頃の少女だった。彼女が奥村少年の姉だろう。


「実佳ちゃん、こんにちはでーす! ちょっと今日は弟きゅんに話を聞きたいことがありまして、友達連れて大勢でやって来ちゃったわけですけど、ご在宅ですかねー?」


「ええ、まあ。いるにはいますが……」


 奥村姉はずいぶん戸惑っている様子。丘子の口ぶりからしてあまり言葉を交わさないような関係らしく、そんな丘子が私たちのような見知らぬ人間と一緒にやって来たら、当然怪しまれるわけだ。


 不審に思われつつもどうやら通してくれるらしい。


「弟は今出かけているけど、すぐ帰ってくると思います。どうぞ」


 そうして、私たち四人と一体、そして人ならざるものの集団は奥村宅へ乗り込んだのだった。



△▼△▼△



「お前ら、どうしてここに!」


 開口一番にそう言った奥村少年は、私に詰め寄った。

 ここはリビング。二十分ほど待たされ、やっと奥村が帰って来たところだ。


 すっと立ち上がり、私は彼を見つめる。


「あなたと話がしたくてわざわざ来たのよ。仲間と一緒に、ね」


「クソ! 攻めて来やがったのか!?」


 舌打ちし、怒りの形相をした奥村。

 その隙にその傍へ駆け寄った丘子がすかさず、彼のポケットから除霊の札を奪い取る。


「これがなければあなたは何もできないんでしょう? 弱いですよね〜」


「なっ!? お前何者だっ」


「騒がないでくれますかね? 実佳ちゃんが来ちゃうじゃないですかぁ。あ、ちなみにあたしの名前は丘子です。以後、お見知り置きを〜」


 丘子は完全に、ふざけて相手をイライラさせる作戦に出ている。

 あまり騒がれると、あの実佳という女子高生が「勉強してきます」と言って向かった自室から戻って来るかも知れない。静かに、そして早めに終わらせよう。


 私は不敵な笑みを見せた。


「あなたたちは人ならざるものを全滅させるつもりなのでしょう? 何のためかは知らないけど。ともかく私はそれを阻止するだけよ? ……さあ、あなたはどうするのかしら?」



△▼△▼△



 手も足も出ない奥村。

 私は彼を問い詰めていた。


 第一に私たちをどうするつもりなのか、組織の構成、そしてどこに拠点を持つのか、等々……。


 得られた情報は少ないが、さすがに多勢に無勢で多少は吐いてくれた。


 まず組織が、一人をリーダーに持つ十人の団体であること。その全てのメンバーが霊視ができること。

 そしてその『妖怪根絶部隊』は、小さな神であれ、悪霊、幽霊、妖怪、何でもかんでも同じ扱いで葬り去ろうとしている。これは以前にも聞いたことだ。


 メンバー同士は直接話すことは少なく、特にリーダーとは顔合わせをしたことはないのだそう。


「リーダーは誰だか知らねえけど別に興味ねえ。小遣い程度で金をもらってるし、労働法には引っ掛からねえからちょうどいいんだ」と奥村は言った。


 彼の家は生活的に困窮しているわけではないが、少し親が厳しく自由にできる金が少ないらしい。そこで、金が喉から手が出るほど欲しかったということだ。


「それに、俺は周りに見える化け物たちもいけ好かねえ。あいつらのせいで俺はぼっちだ。だから、皆殺しにして見えないようにすりゃあ全部が解決する」


「その考え方はどうかと思うわ。何も、周りと違うことを恥と思わなくても」


「綺麗事だよ」


 吐き捨てるように、奥村はそう言った。彼の顔がとても歪んで見えて、私はどこか寒気を感じる。


 できればこの少年を説得して組織のことをもう少し知りたい……いや、できることなら仲間に引き入れたいのだが、どうしたらいいだろうか。


 ――そう考えていた直後、突然奥村が奇行に出た。


「う、わぁっ」


 ものすごい勢いで走り出し、私の体が軽々と突き飛ばされたのだ。

 そしてそのまま、背後に立っていたウルフィーへ乗り掛かる。ウルフィーが目を見開くのが見えた。


「よ、妖魅ちゃん!?」

「おねえちゃん!」


 同時に丘子とレイちゃんの悲鳴が上がる。

 私は地面に倒れ込んだまま、様子を見ることしかできなかった。


 ウルフィーを押し倒し、馬乗りになった奥村。本当ならウルフィーの方が明らかに強いだろうが、不意をつかれたことが敗因だ。

 そしてそのまま少年の手が相手の首へかけられる。……首を絞める気だわ、私はそう思い、固まってしまった。


「お前もっ、お前も化け物だろ外人! ころ、殺し、殺してやるっ。化け狸めっ。そこの女たちと俺をたぶらかそうと思ってもそうはいかないぞ」


「やめろっ」


 男二人が絡み合ってもつれ合って、バタバタと暴れ出した。

 まずい、このままでは奥村の姉が気づいてしまう。


「ワタシ、メリーさん。今あなたの後ろにいるのぉ」


 目の前で起こったことが現実なのか、しばらく私にはわからなかった。


 レイちゃんの手の中で大人しくしていたはずのメリーさんが、奥村の真後へ行き――なんと、彼の頭を蹴飛ばしたのである。


「うごぉっ!」


 突如として頭に衝撃を与えられた少年は呻き、体勢を崩す。

 その間に手が緩んだのかしてウルフィーが奥村を振り切って逃げた。


「ウルフィー!」


 私は慌てて飛び起き、金髪の青年の元へ。

 まるで漫画か何かで見るような争いに急に巻き込まれたウルフィーは、だが、無事のようだった。


「なんとか助かった。日本人がこんなに野蛮だとは思わなかった」


「ごめんなさい、私が油断していたから」


 まさか急に首を絞めるだなんて思っていなかった。これは完全に予想外、私の失態とも言えるだろう。

 ウルフィーは「いいよ」だなんて笑ってくれる。ああもう、今まで殺されそうになっていたなんて思わないくらい素敵。


「イチャイチャしてる場合じゃないわぁ! 早くこの男の子を捕まえてぇ!」


 メリーさんの声で我に返る。

 そうだ、そうだ、そうだった。すっかり奥村のことを忘れかけていた。


 奥村の方へ視線を戻すと、ちょうどショックから戻って立ち上がったところだった。

 次はどんなことが起こるのだろうと、この場の全員が身構えていると……。


「クソ、逃げるしかねえな」


 やはりと言えばやはりだった。

 またもや逃げ出したのである。



△▼△▼△



「クソ、クソクソクソクソ。よくもたぶらかしやがって……。許さねえ、許さねえぞ」


 家から仕方なく飛び出した少年は、そう呟く。


 前回に引き続き今回も逃げるとは、と、自分を少し情けなく思う。けれど状況的に仕方なかったんだと言いわけをした。


 あの化け物は妙だった。呪文も効かなかったし、霊気はあるのに普通の外人に見えた。きっとあいつがあの女どもを率いてるに違いない。あれは一体何なんだ?

 それにあの人形の怪異を早く始末しなければならない。できるだけ早急に、迅速に。


 そんなことを考えながら無線を取り出した彼は、ボソボソと報告した。


「あいつらが襲ってきました。直ちに監視役に指示を飛ばしてください……」



△▼△▼△



 奥村少年の逃走の後、彼を追ったが、結局見つからず。

 呆気に取られつつも私たちが捜索を続けていると、突然、異様な集団が現れた。


「――――――」


 黒服の男が、三人。

 沈み始めた太陽の元で影のように佇み、こちらを眺めるその姿は、とてつもない違和感を放っている。


 私の胸の中で、一気に不安が爆発する。

 彼らが一体何者なのかはわからない。わかるのはあれに追いつかれてはならないということだけ。


 逃げなくては、そう本能が叫んでいた。


「ひとまず相談所に戻りましょう! あいつらに捕まらないように走って!」


 ――こうして『もののけ大紛争』は予想もつかない妙な方向へ進んでいくのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 奥村のような勘のいいガキは嫌いだよ(ハガ○ン(ォィ それはそうと……大局もあまり見ずに行動起こすなんてまぁ……どれだけ屈折した人生送ってきたのかしら(゜Д゜;)
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