妖怪たちのお出迎え
「おかえりなさぁい」
待ち構えていた赤毛の人形の少女は、表情は変わらないけれど笑っているように見える。
そして彼女の背後には、無数の人ならざるものたちがいた。
「メリーさん、ただいま。仲間を集めてきてくれたのね」
「そうよぉ。もぉ、すっごく大変だったんだからぁ」
ろくろ首、猫又、犬の置き物に魂が宿った妖怪……。たくさんの妖怪がこちらを見つめている。
皆、私たちがかつて救った者たちだ。
まさかここまで集まるとはと私は正直驚いていた。
「びっくりしました? あたしも、今朝メリーさんがこの子たちを連れて帰った時はギョッとしちゃいました。まあでも、それだけ妖魅ちゃんに恩返しがしたかったんじゃないですかねー」
「恩返しね……」
妖怪が恩返しをするなんて感心だ。
……などと思っていると、突然声がした。
「うわぁっ」
振り返ると、驚いた顔のウルフィーがいる。ああそうか、メリーさんのことは話していなかったっけ。
「彼女はメリーさん。人形の怪異よ」
「初めましてぇ。ワタシ、メリーさん。よろしくねぇ?」
――そうして一連の自己紹介が終わった後のこと。
私はひとまず外国であったことや、狼青年と出会った経緯を語った。
……もちろん、彼に想いを寄せてしまったことは内緒にしておいた。
それでも丘子の怪しむ目線が痛い。というより、もう見抜かれている気がするのだが。
「ふーん。まあいいです、最初のターゲットとは違うとはいえ、半妖を見つけ出したのは大きな収穫ってことにしときましょう。あたしも興味深いお話が聞けたわけですしね!」
ウルフィーは正しくいえば、霊視できるわけではない。
しかし半分妖怪のような存在のため、妖怪を目にすることはできる。つまり結局は霊視と大差ないというわけだ。それ以上に、人ならざるものと言葉がより通じやすいという利点さえある、有力な人材だった。
「もののけが百は集結したわけですし、こっちの戦力は十分と考えて間違いないでしょう!」
確かに数では足りるだろう。
しかし、問題はまだ山ほどあった。
第一に、私たちはこれから何をするのかがはっきりと定まっていないこと。
第二に、ウルフィーの滞在期間が限られていること。今のビザは短期間だし、行動は早めでなくてはならない。
「どうするの?」
「大丈夫。そこら辺は、あたしに任せてくださいっ。とりあえず、作戦会議でも開きましょうか!」
「かいぎー? なんかおもしろそう!」
レイちゃんがはしゃぎ出す。
私とメリーさん、ウルフィーは顔を見合わせて首を傾げる。
相変わらずマイペースな丘子は、相談所のテーブルへと私たちを手招きしたのだった。
△▼△▼△
「まず例の少年ですけど、住所を割りました!」
――丘子が自信満々にそう宣言した。
人ならざるものたちがわあわあ騒ぎ出す。「ぶっ殺せ!」とか言っているやつまでいるので怖いのだが。
「住所を割ったって、どうやって?」
「奥村って名前に聞き覚えがあったんですよね。まあ珍しい名字じゃないですけど。それで調べてみたら、あたしのクラスメイトの女子の弟だったんですよね〜。ほんと世界は狭いものでして」
そういうわけで霊視少年の居場所がわかったようだ。
本当に彼がそこにいるのか? という疑問はあるが、中学生であることを考えてどこかの拠点に引きこもっているという可能性は低いだろう。
つまり狙うは、その家だ。
「突入しようかなーとも思ったんですけど、念のため妖魅ちゃんを待ってました。ちょうど妖怪たちも集まったわけですし、ウルさんという強力な戦力もある。今が突撃時期ではないでしょうかっ!?」
ウルさんという呼び方にはドン引きだが、言い分としては正しいだろう。
周りを見回すと、メリーさんや他のもののけたちからの反論はなかった。
レイちゃんも大賛成で手をあげている。事情がわかっているのか怪しいけれど。
「ウルフィー、大変なことに巻き込んでしまってごめんなさい。協力してくれる?」
「心配しなくても大丈夫だよ。そのために日本へ戻ってきたわけだろう?」
「それもそうね」
丘子からのジト目に気づかないふりをして、私はウルフィーに心からの笑みを見せる。
たくさんの妖怪に囲まれて怯えたりするのではないか、という懸念があったため、すごく安堵していた。そして心の底から力が湧いてくる。
――まるで物語の主人公にでもなったみたい。馬鹿ね、私は。
何はともあれ反対する者はいない。こうなれば決まりだ。
私は妖怪たちをぐるりと見渡す。
「では早速始めましょう。……『もののけ大紛争』を巻き起こしてやるんだから」
私の言葉に、数多の人ならざるものたちが一斉に歓声をあげた。




