帰還
家のドアを開けると、すぐさま女の子が飛び出してきた。
「おかえりなさい、おねえちゃん!」
それは言うまでもなく、私の妹……ということになっている幼女、レイちゃんである。
「レイちゃんただいま。予定よりずいぶん遅くなってごめんね」
「もう~。わたしとってもしんぱいしたんだから!」
頬をリンゴのように赤く染めて怒る彼女はとても愛らしい。
実家に帰ったような安心感――いいや実際に実家に帰ったわけだけど、ともかく大きな安心感に包まれた。
「ねえねえおねえちゃん、そのひと、だあれ?」
安堵しているところにレイちゃんからの質問で我に帰った私は、背後の青年を指差した。
「彼はウルフィー。私が外国から連れ帰ってきたのよ」
「連れ帰ったという言い方はどうだろう。せめてついてきてもらった、くらいに行ったほうがいいと思うよ」
そう言って笑うのは、狼青年ウルフィーだ。もっとも、昼間である今は誰が見ても人間にしか見えないだろうが、私には相変わらずの霊気が感じ取れる。
今は日本に降り立ち、空港から帰還したところだ。時差があるため、数時間飛行機に乗っていたがまだ充分に明るい時間だ。
私は彼を伴って家に上がり、お母さんに帰宅の報告をする。
「彼氏?」などと言われたがなんとか誤魔化して、一旦私の部屋へ。
荷解きをしながら、話をせがんでくるレイちゃんに、私はこう言った。
「話は後できちんとするわ。だからひとまず、丘子さんのところへ行きましょう」
「おかこおねえちゃん、おねえちゃんのことすっごくおこってたよ。おそすぎるって」
あの丘子のことだから、都市伝説探しで私のことなど忘れているかと思っていたが……、そこまで馬鹿ではなかったらしい。
滞在期間を五日程度延ばしたのだから迷惑をかけていて当然だった。私は謝らなければならないなと思いつつ、レイちゃんとウルフィーと一緒にもののけ相談所へと向かったのだった。
△▼△▼△
「ああ、やっと帰ってきましたね! やぁぁぁぁぁぁ!」
ノックするなり、そんな声が聞こえてきt。
そして直後、頬に鋭い痛みが走る。
「いたっ……」
何が起こったのかわからずに頬を押さえていた私は、すぐに理解した。
おかっぱ頭の少女――丘子に突然、叩かれたのだ。
「な、何するのよ!」
「あぁ~スッキリしました。人を引っ叩くのは初めてですけど、スカッとしますねぇ」
軽い調子でそんなことを言う丘子は、まるで先ほどのことなんかなかったかのように平気な顔をしている。
私の背後で、ウルフィーとレイちゃんが驚いて固まっていた。
「妖魅ちゃんってばどれだけ人を待たせるつもりだったんでしょう。結局、合わせて一週間掛っちゃってるじゃないですか! こっちの気苦労も考えてくださいよっ!」
「わかってるわよ。でも急に暴力振るわれる謂れはないんだけど……」
頬が赤く腫れ上がってきた。痛いが我慢するしかない。
「長い間に留守にして悪かったわ。でも代わりに、いい人を連れてきたの」
「へえ~。もしかしてそこの半妖ですか?」
彼女が指し示した先、そこいるのはもちろんのこと金髪の青年だった。
レイちゃんは「半妖?」と首を傾げている。私もその表現はいかがなものかと思った。
「なかなかのイケメンに見えますけど、おそらく化け狸とかですよね! あたしも化け狸とか狐とかは見たことなかったんで、結構びっくりしちゃってますけど」
「正確に言うと違うかも。彼、狼男なのよ」
「狼男? それって、あの西洋の伝説のですか!?」
丘子がグィッと身を乗り出してきた。
呆気に取られつつも、「あ、ああ……」と答えるウルフィー。事前に霊視少女の友達がいるという話はしておいたが、初対面では度肝を抜かれるのも当然だろう。だって慣れているはずの私でも驚かされるくらいだもの。
「丘子さん、落ち着いて。とりあえず相談所の中へ入ってゆっくり話さないと」
「うわあ! 本物ですか!? ちょっと話を聞いてみたいかも! 了解でーす!」
私の提案を聞いて、いそいそと丘子は私たちを中へ通す。
そして一週間ぶりの相談所に足を踏み入れた私は……息を呑まずにはいられなかった。
だってそこには、狭い部屋の中にびっしりとひしめく妖怪たちの群れがいたのだから。
「おかえりなさぁい、妖魅さん。ちゃぁんと妖怪たちを集めてきたわぁ」
相談所の中央――というより空中、そこに人形の少女が陣取り、こちらを見下ろしている。
私は安堵に頬を綻ばせた。「メリーさん」




