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ウルフィー

「順を追って説明しよう」と、青年は話し始めた。


 第一に、ここはどこなのか。彼の答えは、山の片隅にある洞窟だということだった。

 そしてなぜ日本語が話せるのか。それは、日本人と北欧人のハーフだからであるらしい。見た目はまるっきり外国人なのだが。


「僕はハーフだという多少の偏見と、それに……まあ、事情があってね。そういう目から逃れるために、この山の中で引きこもって暮らしているのさ」


「そうなの」私は、ふぅ、と息を吐いた。


 言葉を濁すことから、やはり怪しさが伺える。

 やはり目の前の青年から感じる違和感は、確かなものだった。


 だから私は訊かずにはいられなかったのだ。本当に言っていいのか、最後までその答えはわからなかったけれど。


「ねえ、あなた……霊視能力者なの?」



△▼△▼△



 私の言葉にウルフィーは、ピクリ、と体を震わせた。

 やはり、と私は思った。私の目と青年の緑色の目が合う。彼の瞳は、少し怯えているように見えた。


「……霊視って、なんのことだい」


 今度言葉に詰まるのはこちらの番だ。

 この先、どう続けたらいいのだろう。もしも仮に彼が霊視と無関係だった場合、自分が霊視少女であることを明かすだけの最悪な結果になってしまうし。


 でもここで引いていいのか? この機会を掴めれば、もしかすると本来の目的を果たせるかも知れないのである。迫る以外の手はなかった。


「私、霊能力者を探して日本からここまで来たの。でも当てにしていた人は偽物で……。実は私は『見える』の。だから思った。あなたが、そうなんじゃないかって」


 ウルフィーは戸惑っていた。

 彼としては、突然土砂崩れに遭っていた女を助け上げたら、霊視者ではないかなどと詰め寄られているのである。不可解極まりないだろうとこちらもわかっていたし、それを承知の上でのこの無謀な作戦なのだ。


 ――しばらくの沈黙の後、彼はどこか悲しげに言った。


「僕は、霊視者じゃない。すまないが」


「本当に? でも!」


 霊気が! と言いそうになり、私は慌てて言うのをやめた。

 だって、たまたまかも知れない。たまたま取り憑かれていたりするだけかも。……それはそれで問題だけれど。


 浮上した疑惑を、私は一旦収めようと思った。

 でも私は言ってしまったのだ。自分が、霊視ができることを。


 もしもバラされてしまったら? もしも世界中にこのことが広まったら? もしも、もしも、もしも、もしも……。


「無事そうなら、悪いが帰ってもらいたい。いいかな?」


 だから突然そんなことを言われて、拍子抜けしまった。「……え?」


「本当なら一晩匿ってあげたいところなんだが、そうはいかないだろう? もうすでに君が気を失ってから二時間は経っているし、雨は小降りになっている。山の麓までは送って行くから」


 彼はいやに強引だった。

 まあ、助けてもらっておきながら文句を言うわけにはいかないのだが、明らかに先ほどの話題をうやむやにしてしまいたいという色が見える。


 私はその時、またもや失望した。きっと、彼は『見える』人に違いないのに。放っておくのか? このまま放っておくのが正しいのか?

 しかしその問いに答えを出すことはできなかった。だから、作り笑いを見せて。


「……わかったわ。ありがとう。暗くなる前に帰らないとね」



△▼△▼△



 ――尻尾が現れた。


 唐突すぎて、なんというか説明がつかない。正直私も混乱しているのだ。


 落ち着け。まずは落ち着かなければ。

 まずは一度、状況を整理しよう。


 私はあの後、結局何も言い出せずに洞窟を出た。洞窟は木々に隠れるようにしてあったから、出るのには少し手間取ったけれど。


 そして崖崩れや地滑りに注意しつつ、ゆっくりと山を降りていた。ウルフィーは焦っているようだったが、地面が悪かったので早く降りるわけにもいかなかったのだ。


 そしてもうすぐ麓という頃に、突如、彼が叫んだ。「あっ、しまった」


 それからはもうわけがわからない。全身の毛が逆立ったかと思えば口からは巨大な牙が覗き、三角の耳が立ち、そしてふさふさの尻尾がズボンの隙間から現れた。


 私はギョッとして、思わず固まってしまった。

 だってそこには、金色の狼――否、狼男が立っていたのだから当然だ。


「グガァ、ガァ! み、見られ……!」


 狼が喋っている。先ほどまで青年が発していたはずの、少し硬くてでも優しい声で。

 急激な変化についていけない私。でも狼が、ウルフィーが、咄嗟に駆け出そうとしたその時に思わず尻尾を掴んでいた。


「待って!」


「離してくれ! 離せ!」


「離してなんかやらない!」


 怒鳴り返す私は、走り出す狼に引きずられて再び山を登り始める。

 勢いは止まらない。ただでさえ泥だらけのままの服が、木の枝などに突き刺さって破ける。それでも私は手を離さなかった。


 ――なぜだろうか。

 後で振り返ってみれば、不可解すぎる行動だと思う。


 突然妖怪になった青年を追った心理はわからない。

 わからないというのは、理解し難いという意味だ。だって、だって。

「助けてあげなくちゃ」とそう思ってしまったのだから。

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― 新着の感想 ―
[一言] び、敏感な尻尾を!! やりますなぁ妖魅ちゃん(〃ノωノ)
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