インチキ霊能力者
「どうしてあなたがここに……」
やっとのことで声を絞り出した私に、老人は微笑む。
「ですから、神のご意志です。お嬢さんをお救いしようという、ね」
私を救う? 神様が?
私は神を信じていない。確かに神的なものは存在するのだけれど、一般的に言われるような全知全能の存在などいず、守り神のような霊的なものがいるだけだと。
だから宗教というのは大っぴらには言えないが鼻で笑っているし、信仰しようだなんて思ったこともなかったのだが。
「もしも神様がいたとして、どういうお告げがあったというんです?」
「お嬢さんが、悪しきものに取り憑かれている。心が綺麗なお嬢さんには、それを穢そうとしてすぐ悪いものが近づいて行ってしまうのですよ」
私は不審の目で老人――ディルを見た。
これが本当に噂の霊能力者なのだろうか? 彼はあらゆる人を霊的な問題から救う、と公表だったのだが、これではまるで宗教の勧誘のようではないか。
日本語を喋っているのもとても疑わしかったが、それは彼が十二カ国語を話せるおかげらしい。
それが彼が有名になったきっかけの一つなのかも知れないなとふと思ったりした。
……ともかく。
「取り憑かれているとおっしゃいますが、私には心当たりはありません。……実は私、あなたにお会いしたくて、はるばる他国からやって来たんです」
「ほぅ」
私は単刀直入に訊いてみることにした。
「あなたは、霊視ができるのですか?」
△▼△▼△
――霊視。
私や丘子、そして例の件の少年などは、その能力を生まれつき持っている。
あらゆる幽霊、もののけが『見える』私たち。しかしその力をどう使うかは、その人間次第である。
私は怪異を助け、丘子は怪異を求めているし、少年の所属する組織のようなものは根絶やしにしようと目論んでいる。
が、この老人は一体何をしたいのだろう? 『神のお導き』のような、まるで宗教のような言葉を言って、何が目的なのか?
だから、確かめたかった。
彼がこちらに味方をしてくれるのか、妖怪を嫌う立場であるのか、どちらなのかを。
「霊視? もちろんですとも。神がワタクシに悪しきものが見える力を下さったのです」
「なら、あれは見える?」
自信たっぷりに答えるディル老人へ向けて問いかけ、私は、そこら辺にウヨウヨしている小さな霊たちを指差す。
けれどディルは首を振った。
「そこには悪しきものは見えません。あなたの中に悪しきものが宿っている。これが神のお言葉です」
眉間に皺を寄せる老人の顔を見ながら、唖然となるしかなかった。
「――え」
あれが、見えない? ということは、ということは。
ディルは、彼は、もしかすると。
もしかしすると、いいや確実に、霊能力者などではないのではないだろうか?
確かに言われてみれば、丘子や奥村少年から感じたような強い霊気をちっとも感じない。日曜日の公園を散歩していそうなごくごく普通の老人、それが私がディルに対して受けた印象だった。
そして、私は嫌でも全てを悟ってしまう。
そうか、そういうことだったのか。
彼は一種の詐欺師だ。『100%の霊能力者』なんてほめそやされているけれど、実際霊とは何の関係もなくて、宗教的な活動によって人々に妄想を植えつけ、そして取り除いたふりをする。
確かに日本でも、そういった霊能力者を気取った者たちはいないわけではない。つまり、そういうことだ。
たくさんの語学を知っているのも外国人にも取り入るためだろう。
「あなたは呪われている。さあ、手をお出しください。今からワタクシがあなたの不幸を全て無に……」
「失礼するわ」
私はそう言い捨てて、こちらへ差し出される老人の手を払い除けた。
正直、怒りしかなかった。世界一の霊能力者などと言っておきながら、根も葉もない嘘だったなんて。
『ディルに頼れば、金は高いがどんな霊的な悩みでも解決する』。こんな戯言をネットで流し、それに賛同を述べた人々にも腹が立つ。
完全に私は、騙されたというわけだ。
仲間になれるかも知れない、そんな期待を抱いてやって来たというのに。
「あの、インチキ霊能力者……!」
考えてみれば、本当に霊視ができる人間が、大っぴらにそのことを明かそうだなんて思うだろうか。よほどの変人でもない限り思わないだろう。
そんなことも失念していた自分も叱責したくなった。しかしそんなことをしたところで何になる? 何にもならない。
結局のところ、私は途方に暮れることしかできないのだった。




