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人ならざるものに愛を寄せて  作者: 柴野いずみ@『悪女エメリィの逆転劇』発売中
第七章 妖魅、妖怪根絶やし作戦に抗う
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妖怪根絶やし作戦ですって!?

「妖怪根絶やし作戦ですって!?」


 私はそう、悲鳴のような声を上げて、大きく目を見開いていた。



△▼△▼△



 ひとまず少年を家に連れ帰り、丘子に電話をかける。

「早速何ですかぁ」と言う彼女に、よくわからないながらもできうる限りの状況説明をした。


「……というわけなのよ。できるんだったら私の家まで今すぐ来て」


「まったく。人使いが荒いんですから! まあそこまで露骨に怪しい案件を無視するわけにはいきませんけどねっ!」


 丘子はまもなく到着した。

 そして、部屋に寝かせた少年を見るなり、「うわっ」と叫ぶ。


「これ本当に人間ですかね? 悪霊とかの怨念をかなり強く感じるんですけど」


「さあ。でもわかるのは、丘子さんより霊気に疎いはずの私でさえ、この子からは強く感じるってことね」


 大抵のごく普通の人間は、霊気など発しない。

 何者かに取り憑かれた場合くらいしか、こんなに濃い霊気――それも悪いもの――を発することはない。少年は明らかに、祟られているのだ。


「見たところ中学生ぐらいですよねー。その年数しか生きてなくてこの霊気はちょっと普通ありえないです。何か人殺しでもしてない限りは、こんなことってないんですけど……」


「ひ、ひとごろし!?」


 レイちゃんが飛び上がって、怖がってしまった。

 でももし丘子のその節が正しければ。私も背筋が寒くなるのを感じた。


「ワタシ、突然襲われたのよぉ。それくらいだからぁ、人のものを盗んだり壊したり、そういうことをしまくってたんじゃないかしらぁ、と考えてみるわぁ」


 確かにメリーさんの意見も一理ある。

 少年が、常習的な窃盗犯などであった場合。盗めば盗むだけ人からの恨みは買い、霊も近寄ってくるだろう。しかしそれには一つおかしな点が見受けられた。


「でも『悪霊』とか『憑かれた』とかを口走ってたわ。それが私にはとても不自然に思えて」


 ――と、その時だった。

 顔面を鼻血で赤く染めた少年が、ピクピクと小さく体を震わせ、うめき出す。そしてそっと目を開けた。


「あれ、ここ……?」


「おっはようございまーす! すっかり日は暮れちゃいましたけどねっ!」


 突然かけられる、馬鹿でかい丘子の挨拶。

 少年はおろか、私もレイちゃんもギョッとしてしまう始末だったが、彼女はお構いなしに続ける。


「さてさて早速ですが質問タイムでーす! この質問に答えないと、あなたはひどい目に遭いますよー。いいですね?」


「な、なんだお前?」


「行きますよー。まず、一つ目の質問。あなたのお名前と年齢を言ってください。ほら早く早く」


 丘子の押しはいつも通り強い。いや、今に限ってはわざとさらに強引にやっているようにも見えた。


 少年は気圧され、寝ぼけた目で私の方を見る。「こいつ誰だ?」と言いたげだ。

 私は丘子に任せ、無視した。


 ……少年の名前は奥村というらしい。


 奥村は、ここから五キロ以上離れたところで暮らす中学二年生男子。

 しかし彼は、普通の少年ではなかった。だって――。


「あなたは、『見える人』、つまり霊視少年で間違いないですよね?」


 迫る丘子に、大きく狼狽えたのだ。

 目が泳ぎ、私の方を見る。私は丘子を見つめた。


「どうして」


「そりゃわかりますよ。よっぽどの犯罪者でなければ、こんなのは霊視できる人間しか有り得ない。この道七年のあたしを舐めないでくださいよ?」


 そして彼女の推測は、どうやら当たっていたようで。


「あんたらもか。あんたらも、霊視できるんだろう。だからそんな化け物引き連れてるんだな!」


 メリーさんをまっすぐ指差して、奥村少年が怒鳴る。

 メリーさんは心外そうに言った。


「妖怪とはいえ、女の子に指を突きつけるのは失礼じゃないかしらぁ? それにぃ、ワタシは別に悪さをする妖怪じゃないのよぉ」


「悪くない妖怪? そんなのいるわけねえだろうが。妖怪は、みんなみんな悪い。だから俺たちが、駆除するんだ。チビ、大人しくよこせよ」


「いや。だっておにいちゃんこわいもん。わたし、きらい」


 レイちゃんはメリーさんをぎゅっと掴んで離さない。

 怪我の影響で立ち上がれない奥村は、苛立たしげに髪をかき上げた。


 駆除?

 突然飛び出した聞きなれないワードに、私は大きく首を傾げる。

 奥村を問い詰めるのは、今度は私の番のようだった。


「ねえ。あなた、何者なの?」



△▼△▼△



 そして、冒頭の場面に戻るわけであるが。


「妖怪根絶やし作戦ですって!?」


「そうだよ。俺たちはな、この世界の妖怪を根絶やしにするんだ。人間様の天下を脅かす悪者を全て、な」


 奥村は、『妖怪根絶部隊』なるものが、秘密裏で結成されているのだと明かした。

 そこは日本各地、いや世界各地の霊視者たちが集い、妖怪根絶のために動いているのだとか。そして少年も、半年前にそこの仲間入りをしたばかりだそうだ。


「一日どれだけ駆除したかによって報酬は決まる。内容的には鼠取りみたいなもんだ」


 少年は話しながら、使用済みのお札七枚を見せびらかした。


「今日はすでに七匹。そして、あの人形が八匹目の獲物になる。……そうだ、あんたらも霊視できるなら俺たちの仲間に入れよ。お上が承認してくれたら、妖怪を殺すだけで金が入るようになる。ガッポリだ。いいだろ?」


 前のめりに言われて、しばらく黙り込んだ。

 一体どう答えるのがこの場の最適解なのか。

 本当に現代日本にそんな部隊が存在するのかだとか、奥村がおかしいのではないかとか、色々疑問はある。


 だが私は腹を決め、静かに問いかけを投げた。


「つまりあなたたちは、人ならざるものを皆殺しにしようとしているわけね? 人間のために?」


「そうだよ」


「――馬鹿ね」


 私は、冷たく言い放った。


「私は人ならざるものが好きなの。愛している、そう言ってもいいわ。……最初は嫌いだったし、関わらないようにしていた。でもそれを一人の幽霊が、変えてくれたの」


 もしかしてもしかすると、『彼』に出会っていなかったら私は、奥村の仲間になってしまっていたかも知れない。

 いいや、『彼』――生田だけじゃない。レイちゃんがいて、メリーさんがいて、そして丘子がいて。もっともっとたくさん出会った怪異たちのおかげで、私は変わっていったのだろう。

 だから今、迷うことなく言い切ることができる。


「私だって悪いものは成仏させることもあるけれど、でも何でもかんでも殺せばいいだなんて間違ってると思うわ。だから私はあなたに加担しない。あなたがなおも妖怪を皆殺しにするつもりなら、私はあなたをねじ伏せる」


「あたしももちろん妖魅ちゃんに協力しますよ〜。だってだって、もののけを全滅させられちゃったら最恐の都市伝説には会えなくなるわけですしねー。今までの努力が水の泡になるのだけは御免ですよっ」


 同じ霊視能力を持っていながら、こんなにも言われたのが意外だったのだろうか。

 奥村は目を見開き、そして。


「あんたらは狂ってる。人間のくせに、妖怪に味方するのか?」


「そうよ。何か悪い?」


『妖怪根絶部隊』とやらが、どんな規模で、誰が率いている団体なのかは知らない。

 おそらく公式なものではないので、調べようもないだろう。


 でも私は、どこまでも抗ってやろうと決めた。


 もののけ相談所で触れ合った人ならざるものたち。恐ろしくもあるけど愉快な彼らが私は好きなのだ。

 だから、根絶やしにさせたりはしない。必ず止めてやる。


「そうかよ。あんたらはこれから組織が監視するだろうから、甘ったれたことができると思うなよ」


「監視されても知りませんよ。あたしはただ、最恐の都市伝説を求めてるだけなんですから。その邪魔をするのでしたら排除させていただくってことで!」


 奥村はフラフラと立ち上がる。そして「けっ」とだけ言って出ていってしまった。

 本当にどこまでも勝手なやつだ。


「妖魅さん、逃がしちゃってよかったのかしらぁ? 捕まえておいた方がいいとワタシは思うわぁ」


 メリーさんが、私の肩に腰掛けてため息を漏らす。

 彼女はつけ狙われる方なのだから、先方の勝手にさせるのはいい気分ではないだろう。が、


「確かにそうだけど、でも、彼にだって家族はいるはずだもの。閉じ込めておくわけにもいかないでしょう?」


 私たちのことが外に漏れるという心配はあるものの、やはり仕方なかった。


「おねえちゃん、あのおにいちゃん、いやなかんじ。メリーさんをやっつけちゃおうとするし……」


「レイちゃんの言う通り、私も嫌な感じがするわ。……さて、どうしましょう」


 これから、きっとあの『組織』とやらの、いざこざに巻き込まれてしまうのだろう。

 一体どうしたものだろうか、今すぐにでも考えなければならない。


 私は不安に詰まる胸から、深く長い息を吐き出したのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] うわぁ、中には人間の生活に欠かせないような妖怪も居るでしょうに。 そいつらまで殲滅しようとか……それ、最終的には世界を破壊するのと同義じゃないかね(;'∀') というか、人間よりも長く存在…
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