表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人ならざるものに愛を寄せて  作者: 柴野いずみ@『悪女エメリィの逆転劇』発売中
第六章 妖魅、もののけ相談所を立ち上げる
39/64

口裂け女のご相談

 ――またある日のこと。


 相談所が開店してから、すでに二週間が経っていた。

 先週の土日は誰も来ず、結局女子トークで盛り上がっただけ。


 今日は誰か来るだろうかと思っていたちょうどその瞬間、ドアが叩かれた。


「すみません。どなたかいらっしゃいますかしら?」


 若い女性の声だった。


「妖魅ちゃん、ちょっと行って来てください」


 今、オカルト系番組のネット配信で目が離せないらしい丘子に代わり、私が外に出た。


 ……そこに立っていたのは、またもやごくごく普通の人間だった。


「あらまあ、すみません。アタシがあまりに醜いものですから……」


 そう言って肩を落とすのは、二十歳前後の女性。

 赤いコートを着たその姿はどこからどう見ても、ごく一般的な女性に見えるだろう。しかし彼女からは、強い霊気を感じた。


 あと一つ目を引くのは、口元のマスク。冬でもないのにどうしてつけているのだろう? 夏風邪でも引いているのだろうか?


「私は妖魅です。あなたは?」


「名乗るより事情を説明した方が早いでしょう。すみません、中へ入ってもよろしいですか? すみません」


 やたらと「すみません」を繰り返しながら、女性が相談所へ入って来る。


 この女性は何者なのか? 私は慌てて、女性を机へと案内した。



△▼△▼△



 丘子は相変わらずネット配信に夢中なので、私一人で対応することになった。

 今日はレイちゃんがツトムくんと遊びに行ってしまっていて、すっかり彼女のお人形であるメリーさんも同じだ。


 なので、今日は私と丘子だけだというのに丘子が使えない。あとで散々文句を言ってやろうと心に決めた。


「ではお話を聞かせてください」


「すみません、では話します」


 女性は、マスク越しにもよく通る綺麗な声で語り出した。


 それによると、彼女の正体は妖怪の口裂け女らしい。

 私は詳しくはよく知らなかったが、どうやら都市伝説の一種として、こんなものがあるそうだ。


「アタシ、綺麗?」

 夕方、学校帰りの小学生にそう尋ねかけてくる女がいる。

 口元はマスクで覆い隠されているが、女は美人だった。

 そして子供がそれに「綺麗」と答えると、女はマスクを外して口を露わにする。口は耳元まで裂けているのだ。

「これでも綺麗?」

 子供は逃げ出す。

 また、「綺麗じゃない」と子供が答えた場合は、包丁を手に追ってくるのだそう。

 とても恐ろしい話である。


「そして、その口裂け女がアタシなんです。すみません、子供たちを脅かしていたのは本当です……。でも、包丁を持って追いかけたりなんかしませんよ? それは、勝手に人間が作り出した嘘ですから……」


 今は有名な妖怪だが、元々彼女は人間だったという。


「アタシは美人だって有名で、自分でもうっとりするようなくらい綺麗だったんです。

 ある時、軽い手術を受けようと整形外科に行きました。でもそれが間違いで、うっかり口を耳元まで切られてしまって……。とてもとても醜くなってしまったアタシは、耐えきれずに自殺しました。

 けれどそれからもやっぱり無念が残って、この世を徘徊しているんです。……すみません。もう何十年も何十年も。アタシのことが都市伝説になっても、ずっとずっとです」


 聞けば聞くほど気の毒な女性だ。

 腕の悪い整形外科医に捕まったせいで自殺してしまうなんて。さらにそれが、妖怪になってしまうなんて。


「早く成仏したい。したいんです。そう思って彷徨っていたら、ふとここに来ていたんです。もののけ相談所と書いてあったので、なんとかしてくださるかなと。こんな醜い妖怪ですみません……。どうか、お願いできますか?」


 口裂け女は、幽霊が悪いものに染まって妖怪になってしまったものだ。

 しかしその割には素直だったし、私は彼女を可哀想に思った。


「わかったわ。じゃあ、お手伝いしましょう。あなたの成仏、お任せください」



△▼△▼△



 口裂け女の無念、それは一体何だろう。


 醜くなってしまったこと? それだとしたら、綺麗だと言えばいいのだろうか?


 それは恐らく違うだろう。お世辞で「美人だ」と言ったところで、何の解決にもならない。

 彼女にはまだ裂けた口を見せてもらっていなかった。「きっと失神してしまわれますよ……」と、見せたがらなかったのである。


 丘子はこちらのことなどまるで気にしていない。手伝ってほしいのに、「今いいところですから〜」と聞かないのだ。


「後で泣いても知らないんだから」


『せっかくの機会だったのに、なんで教えてくれなかったんですか〜。妖魅ちゃん、見損ないましたよ!』

 そう泣き叫ぶ丘子の顔が目の前に浮かぶようだった。

 実際三メートルと離れていない距離に口裂け女がいるのに気づいていないのは、自業自得だろう。


「それはいいわ。……とりあえず、聞きださないとね」


 私は口裂け女に、思いつく限りの無念を教えてほしいと言った。


 しばらく考えた後、彼女は、


「家族にアタシをアタシと思ってもらえずに、死んでしまったこと……。顔が違うので、帰ってきても別人だと思われたんです。だから……家族にアタシのこと、知らせたい、です」


 私は深く頷いた。


 丘子を残し、私は相談所を出る。

 そのまま女性を引き連れて、口裂け女の家族が住まう家へ向かったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] BJ先生!! なんとかなりませんか!?(ォィ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ