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人ならざるものに愛を寄せて  作者: 柴野いずみ@『悪女エメリィの逆転劇』発売中
第六章 妖魅、もののけ相談所を立ち上げる
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狐憑き

「……実はここ二ヶ月くらいでしょうか。ツトムの様子が、少しおかしくて」


「何か最近変わったことはありませんか?」と問うた私に、ツトム少年の母親が話し始めた。


 ちなみに、今は相談所の中である。簡易的に取り付けた椅子に掛け、話を聞いている。


「なんと言うのかしら。最初は、学校での様子が変だと学校の先生から聞かされたんです。いつもはおとなしいツトムが、突然、まるで発狂したように暴れ出したらしくて。すぐにケロッと元に戻ったみたいなんですけどね」


「ツトムくんにその理由は聞いたんですか?」


「もちろん聞いたわ。でも……その時の記憶がないらしくて」


 母親が困り顔で言った。

 私も首を捻る。突然暴れ、そして治り、記憶を失う。これは……かなり怪しい。


「それでそれで?」割り込んできた丘子が、ぐっと身を乗り出す。


「それからまた数日あって、今度は家で同じ様なことが起こりました。手当たり次第に物を倒しては、家の中を駆け回るのです。近所迷惑だし、どうしようかと困ってしまって。でも五分もすると、ぴたりと収まって、いつものツトムが戻ってきました。やはり、何も覚えていませんでしたが……」


 それからしばらく、私と丘子で母親の話を聞いた。

 そしてわかったのは、精神病院に行っても「原因不明だ」と言って薬を渡されたこと、それでも全然症状が改善しなかったこと。

 つまり、人間の科学では解明できない『何か』がこの案件には絡んでいる。私も丘子も、そう確信した。

 その時。


「――きゃっ」

「いやぁ!」


 レイちゃんとメリーさんが、同時に高い悲鳴を上げた。


 何事かと慌てて駆け寄ると、先ほどまでレイちゃんと何やら話し込んでいたはずのツトムくんが、白目を剥いてものすごい勢いで走り狂っている。


「うわ、ツトムくん!」


「ツトム! すみません、ツトム!」


 母親が慌てて止めに入るも、幼い少年がひとたび腕を振るうだけで弾き返されてしまった。

 まるで何かが乗り移ったかのように暴れ続け、やがて突如、動きを止めた。


「……ぁ。ぼく、また」


「つ、ツトムくん? だいじょうぶ?」


 恐る恐る、レイちゃんが彼に近づいていく。

 どうやら正気を戻したらしいツトム少年は、レイちゃんの方を見た。


「ごめん。レイ、ぼく病気みたいなんだ。怪我はなかった?」


「うん。わたしはへいき。メリーさんにまもってもらったし」


「そうよぉ。もぅ、びっくりしたわぁ」


 私は子供たちを眺め、考える。

 先ほどのことは、母親の話の通りだった。おそらくツトムくんには暴れている時のことはわかっていない。だから余計に、自分が怖くて仕方ないのだろう。

 よく見ると彼の小さな体がぶるぶる震えていた。


「お人形さん、レイを守ってくれてありがとう」


「ワタシ、メリーさん。仲良くしてねぇ?」


 そんなやりとりが交わされている間、丘子はというとずっと黙り込んでいた。

 スマホを高速でタップし、何かを調べ漁っている。そして急に大声を上げた。


「わかりました!」


「な、何が?」


 ツトムくんの母親が驚いた様子で尋ねる。

 私は丘子に目で促した。


「はいはい、ちゃんと説明しますから。……さっきのあれ、やっぱり狐憑きですよ」


「狐憑き?」


「そうです。ツトムきゅんのマンションの近くに、稲荷神社ありますよね?」


 ツトムきゅん?

 私は思わず顔を覆った。

 イタタタタタ。厨二病全開はやめてほしい。こちらまでむず痒くなるから……。


 丘子のテンションに呆気に取られる母親は、やっとのことで頷いた。


「それで、そこの噂とか調べてたんですけど。やっぱありましたよ。そこの神社のお狐様、ちょっとイタズラ者で。神社へやって来た子供に取り憑いちゃうことがあるんですって」


「お稲荷さんなんか本当にいるの?」


「いるに決まってるじゃないですか。どうしてメリーさんが実在してお狐様がいないと思うんです?」


 言われてみれば確かに。

 ただの怪談と言ってもいい都市伝説の妖怪がいるのだ、古くから伝わるお稲荷さんがいないはずはないのである。


「とにかくとにかくっ、その神社へ行って直接話をつけるのが早いですよ! みんなで行きましょう!」


 そういうことで話はまとまった。

 メリーさんだけは留守番をし(不満たらたらだったが)、私に丘子、レイちゃんとツトムくん、そしてツトムクンの母親の五人で稲荷神社へ向かったのだった。



△▼△▼△



 神社へ着いてからは、落語か何かでも見ている様な気分だった。


 丘子の降霊術(?)で現れたお稲荷さんに、色々と身振り手振りで訴えかけ。


『人間の言うことなんか聞いてやらん』と言ったお稲荷さんを、丘子がお札を使って色々揶揄ってみたり。


 そこからどちらが霊界に詳しいかなどの勝負に転じ、結局丘子が勝利した。


『ぐぬぬ、悔しいっ』


「ふっふっふ。そんじょそこらの妖怪には負けませんよー」


 どうやらそこで交渉が成立したらしく、お稲荷さんはツトムくんへの一部憑依をやめた。


 一部憑依というのは、完全に乗り移っていたわけではなく、ツトムくんの体を借りて外界を見てみたかった、程度の軽い気持ちでやったことなのだという。

 憑かれた側としてはお参りに来ただけだというのに、いい迷惑だ。


「これから二度と同じことをしないでくださいよ! またあたしが懲らしめに来ますから!」


『わかった。わかったから』


 お稲荷さんはもはや頭が上がらないという感じだった。

 私はふと思う。人外に勝つ丘子は、もはや人外以上の何なのだろう……?


 一方、ツトムくんは元気になった。


「なんかぼく、軽くなった気がする。おねえちゃんたち、ありがとう」


 私と丘子以外には先ほどまで何が起こっていたかはわかっていないだろうが、ツトムくんに感謝を述べられて、私たちは笑顔になった。


 レイちゃんは「よかったね!」と言って少年を抱きしめ、一緒にどこかへ走っていく。


 やはり仲良しなのだなと私はどこか微笑ましくなった。



△▼△▼△



「今回は本当にありがとうございました。おかげでツトムが元通りになって、助かったわ」


「いいえ。私としても、人助けができて嬉しいです」


 私はそこまでのことはしていないが、喜んでもらえて何よりだ。

 丘子もうんうんと頷く。


「そうそう。初めましてのお客さんがあなたたちでよかったですっ! 妖魅ちゃんとレイたんともお知り合いだったみたいですしね! 何かあったらまた来てください!」


「ツトムくん、またね」

「レイ。しばらく会わなくてごめんな。また近々、遊びに行くから」


 そうして、ツトムくんの『狐憑き事件』とでも呼ぼうこの案件は、無事に解決した。


 親子と別れ、帰ると、メリーさんに出迎えられる。そして恨めしそうな目で見られた。


「あなたたちだけ楽しいことして、いいわねぇ。ずるいわぁ、ワタシだって狐の神様を見たかったわぁ!」


「そんなこと言ったって、留守番は必要なんですから。それにメリーちゃんは目立つので、お外に出てはいけません!」


「ぶー。丘子さんのケチ」


 まあそんなこんなあったが、もののけ相談所の初日はこうして終わっていく。

 これからどんな相談がやってくるのかと、私はそんなことを思うのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 留守番は辛いねぇメリーさん(;'∀') 声送る、だけじゃなくて視覚共有の能力に目覚めればねぇ(;'∀')
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