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人ならざるものに愛を寄せて  作者: 柴野いずみ@『悪女エメリィの逆転劇』発売中
第六章 妖魅、もののけ相談所を立ち上げる
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開店早々のお客様

 朝早く、私は小屋の戸を叩いた。


 いよいよ開店の日。レイちゃん、そしてメリーさんを引き連れて、相談所へやって来たのだ。


「はーい、どうぞどうぞ!」


 中ではすでに丘子が待っていて、ニコニコしている。

 私たちはそっと相談所の中へ入った。



* * * * * * * * * * * * * * *



「怪異を呼ぶ呪文は唱えておきました。これですぐに見つけてもらえると思います!」


「悪い化け物は来ないわよね?」


「来ないとも限りませんねー。でもでも、もしそういう時は除霊の札を使えばいいだけですし、気にすることありませんよっ!」


「おねえちゃん、あそぼう」


 開店したての相談所に、皆のきゃいきゃい声が響く。

 まあ、すぐに誰か来るということもないだろう。今日は一応丸一日ここに滞在することになっているが、先週丘子が言っていた通り普通に過ごすだけで構わない。


 私はレイちゃんに絵本を渡してあげた。丘子の影響なのか私の影響なのか、最近レイちゃんは妖怪に興味を持ってしまい、妖怪図鑑ばかり見ているのだ。


 一方丘子は、私にスマホを見せては「こんな都市伝説があるんですけど」などとオカルトの話を始め出す。


 これがいつもの光景だ。別に、開店したからと言って特別なことは何もない。


「つまらないわねぇ。ワタシ、一旦みっちゃんのところに帰るわぁ」


 メリーさんはしばらく黙っていたが、退屈したのかそう言って帰って行こうとした。

 ……その時だった。


「コンコンコン」


 なんと、ドアノックの音が聞こえたのである。


 丘子はオカルト話を止め、勢いよく顔を上げた。「お客さんですっ!」


「ほんと!?」


 レイちゃんもメリーさんも、すぐさま入り口へ飛んでいった。


 まさか、と思ったが、私も彼女らの後を追ってドアの方へ。

 そしてドアを開けた向こう、そこに立っていたのは。


「え……?」


 ごくごく普通の、土曜日の散歩に出ているような親子の姿がそこにあった。



* * * * * * * * * * * * * * *



 初めてのお客様は、一見するとオカルトの無縁の親子。

 三十代そこそこと思われる母親と、レイちゃんと同い年くらいの少年だった。


 しかし私は、その親子に見覚えがあった。それは……。


「ツトムくん!」


 レイちゃんが男の子の方に飛びついて行った。

 そう、男の子はレイちゃんの友達であり、私の家にも何度か遊びに来たことのあるツトム少年だったのだ。

 そして女性はその母親である。


「れ、レイ。どうしてここに」


「ツトムくんこそ! しばらくあわなかったから、しんぱいしてたんだよ」


「……ごめん」


 ツトムくんは俯きがちにそう答えた。

 なんだか元気がないように見える。どうしたんだろう?


「あの〜。どういうご関係かは知りませんけど、ちょっといいですか?」


 そこへ無粋にも丘子が割って入った。


「お二方はなぜここへいらっしゃったんです? 何かお悩みでも?」


「あの……。え、悩み?」


 問いかけられたツトムくんの母親は、ドギマギしてしまっている。

 そりゃそうだ、と私は思った。私とレイちゃんとの思わぬ再会に加え、何者かもわからない女子高生、それに空中に浮かぶ人形がすぐ目の前にいるわけだし。


 メリーさんもまさか人間のお客様だとは思わなかったらしく、困惑した様子である。


 まずはなんとかこの状況を落ち着けないと。


「ええと。……改めましていらっしゃいませ、お客様。ここはもののけ相談所です」


 私は接客業の人をイメージし、丁寧に頭を下げた。


「もののけ相談所……?」と怪訝な顔の女性。

 ツトムくんは、まだレイちゃんと戯れている。


「お久しぶりです。実は、今日から私、ここの……そう、相談員をやっていまして」


「それでそれで、あたしは妖魅ちゃんの大親友、丘子でーす! ここは化け物とか怪異とか、そういうことに関する相談を受け付ける場所なんです! ここへ来たのは天のお導き、何かオカルト的に困ったこと、ありませんか!?」


 丘子が前のめりすぎて、私が言おうと思っていたセリフを取られてしまった。


 相変わらずあたふたしているツトムくんの母親は、やっとのことで話し出してくれた。


 話によると、どうやら彼女たちがここへ来たのは不本意だったようだ。

 少し公園にでも行こうかと散歩していたら、なぜだかここへ行き着いてしまったという。そして不審に思いつつも小屋の戸を叩いてみたら、中から私たちが飛び出してきたというわけだ。


「だから、あの。そこのふわふわ浮かんでいるお人形さんは何かしら?」


「ああ、これは……」


「ワタシ、メリーさん。喋るお人形なのぉ。お客さぁん、ワタシのことはいいから上がりなさいよぉ」


 なんとかフォローしようと思ったのに、あろうことか喋りやがった。

 ああもうこの馬鹿!


 明らかにメリーさんが怪しいのは誰が見てもわかること。しかしそれ以上女性は追求してこなかった。

 そのまま、丘子とメリーさんに「さあさあ」と急かされ、相談所の中へ。


 レイちゃんも同じようにしてツトムくんを先導していった。


 ――私は騒がしい彼女らに、「まったく」と悪態を吐きながら、ふと考え込む。


 一体あの親子は、どうしてここへ迷い込んできたのだろう? それにツトムくん親子はどこか様子がおかしいように見えたし。


「……はぁ。とにかく、話を聞いてみるしかないか」

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― 新着の感想 ―
[一言] この久しぶりの再会……いったい裏で何があったのか(゜Д゜;)
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