囚われのお姫様の救出劇
やって来たのは、猿が出ると有名な町の付近の森林地帯です。
あたしたちはあれから、タクシーを拾ってやっとのことで辿り着いたわけですよっ。もう出費が厳しいのなんのって。
でもおかげで三十キロの距離も一時間弱でこれましたけどね。
夜も遅くなってきて九時を回っちゃいました。夜の林って結構不気味でワクワクしますけど、レイたんはビビっちゃってて可愛い!
メリーちゃんが、「はっきりはわからないけどぉ、妖魅さんの気配がするわぁ」って言ってます。
これはあたしの推理が外れてなかったってことですね!
森林地帯に入ってしばらくしますと、かなり鬱蒼として来ました。
いかにも妖怪が好きそうな感じですよねー。墓場と暗い森、これがオカルトスポットなんですよ。
まあそれはさておき、囚われのお姫様はどこにいるかと探しておりますと、レイたんがあたしのスカートを引っ張って来ました。
「おかこおねえちゃん、あっち。なにかいるよ」
あっ、確かに、レイたんの指差す方向で何かが動いてるように見えます。
よーく見ると、木々がざわついてるんですね。風もないですし、明らかに不自然です。
「あそこっぽいわねぇ。行ってみるぅ?」
「もちろんですよ!」
そしてその怪しい場所へ行ってみると、案の定いましたよ。
真っ暗でよくは見えませんが、焦げ茶色の毛むくじゃら動物。いいえ動物じゃありませんね、あれは明らかに化け物――玃猿ですっ!
いやー、結構迫力ありますねー。かなりでかいですし、顔も凶暴な感じしてますよ。これってあたし好みかも!
勝手に一人ではしゃいじゃってる間に、レイたんが叫びました。
「あっ、おねえちゃん!」
毛むくじゃらに隠れてよく見えませんけど、確かに妖魅ちゃんの姿が見えた気がします。
そっかぁ、レイたんは玃猿のこと見えないんですねー。だから怖がってないのか。
納得納得。
「妖魅ちゃん、大丈夫ですか!?」
返事はないと思いますけど、一応。
あたしはお札を取り出して、玃猿の方へ駆けていきます。妖魅ちゃんの身柄があっちにある以上、下手な真似はできませんしね。
メリーちゃんも動き出しましたよ。
「ワタシ、メリーさん。今あなたを助けに来たわぁ、妖魅さん」
さてさて都市伝説メリーさん、どんな奮闘を見せてくれるのでしょうか?
よっしゃあ、じゃあ張り切ってお姫様を救出しちゃいますか!
△▼△▼△
「メリーさん!」
叫び、私はまた身を起こそうとして、しかし叶わずゴワゴワに頭を打ちつける。
助けに来てくれるだなんて、思ってもいなかった。だからそれは本当に嬉しい。
でもこの化け物に、彼女たちはどうやって立ち向かうのだろう。
いくら丘子がいるとはいえ、この猿はかなりでかいし、顔やら腕、鋭い鉤爪などを見る限り、凶暴そうだ。
それに今は私の身柄も拘束されているわけであって、一筋縄ではいかないだろうと思えた。
『――誰だ、貴様たちは』
そもそも猿が言葉を話すのはおかしくはないだろうか、などと私は考える。
いくらもののけとはいえ、大抵動物の形をしているものは言葉を解さないものが多い。
言葉を人間の如く操れる怪異は、かなり格が高いのではなかろうか? 丘子と違ってそこら辺に詳しくないのでなんとも言えないが。
「あたしはオカルト大好き女子高生、そしてそこの妖魅ちゃんの大親友、丘子です! 今すぐ妖魅ちゃんを離してください、強姦猿!」
『突然何を。この娘は、儂の花嫁なのだぞ』
くぐもってはいるが、丘子と猿の化け物が掛け合っている声がする。
そして、またスマホに着信音があった。
どうでもいいことだが、着信音がしただけで電話を取ってもいないのに声が流れ出すのはどうしてだろう? やはり人ならざるものの力?
謎だが、今は掘り下げないでおこう。
「ワタシ、メリーさん。妖魅さん、聞こえるかしらぁ?」
「聞こえるわ」と大猿に聞こえないよう小声で返す。
「無事みたいねぇ。良かったわぁ。それでだけどぉ、なんとか隙を作るからぁ、うまいこと逃げ出してちょうだぁい」
「もちろんそのつもりだけど……」
そのタイミングで電話が切れ、また外からの会話が聞こえてくる。
『それになぜ貴様にも儂が見えている。儂が見える娘こそが、選ばれた娘だというのに』
「それはあたしが霊視少女だからですよ。そして妖魅ちゃんもそうです。……あっ、そうだ。だったらあたしを花嫁にすればいいんじゃないですか?」
『――どうして』
「だってだって、妖魅ちゃんはあなたのこと嫌がってるんでしょ? でもあたし、あなたみたいな妖怪さんがだーいすきなんですよねぇ。だから、一度お嫁さんになってみたいなぁって」
私を助けるためとは言え、丘子の言葉が嘘に聞こえないのが怖い。
猿と丘子の交渉は続いたが、やはり猿は私がいいらしかった。それどころか、選ばれし花嫁ではないのに儂が見えるのは気に食わんと言って、丘子を襲い始めたようだ。
「おかこおねえちゃん!」
レイちゃんの悲鳴。
丘子は一体どうしているのだろう。ゴワゴワの毛で視界を塞がれている私には、全然わからない。
そこへ、メリーさんから着信。
「埒が明かないからぁ、ちょっと手荒な手に出るわぁ」
「何、手荒な手って?」
「いいからぁ、妖魅さんはすぐに逃げてねぇ」
そこでまた切れる。
直後、大きな異変が起こった。
『なんだ、誰だ!?』
大猿が急に怒り出し、身を大きく捩ったのだ。
その瞬間に巨大な腕の拘束が緩む。私は慌てて飛び起きて、腕の中から転がり出た。
『な、何っ』
毛むくじゃらを抜け、飛び出す。
猿の巨腕が追い縋ってきたが、私は振り下ろされるそれを寸手のところで避けた。
そして、待っててくれているレイちゃんの方へ向かってまっすぐ――。
「危ないっ!」
丘子の声がして、ハッと振り返る。
すぐ背後には、猿の大顔と、鋭い牙が迫っていた。
『逃さない。逃さない……』
「『霊氷の札』!」
瞬きの後、猿の化け物の顔が歪み、そこに氷の柱が何本も何本も突き立っていた。
△▼△▼△
「ワタシ、メリーさん。今あなたの後にいるのぉ」
玃猿にそう呼びかけて、メリーちゃんがにっこりと笑います。
電話はしてないので多分生の声だけですね。メリーちゃんの醍醐味は電話にあるのに、ちょっと残念です。
まあそれはいいとして、急に玃猿が大暴れを始めちゃいました。まあ当然っちゃ当然ですよね、小さい妖怪が突然現れたんですから。
それにメリーちゃんは小さいですけど、霊力は大きいですし。
その間に妖魅ちゃんはうまいこと逃げ出して、妖怪の腕の中から出てきます。
ありゃりゃ可哀想に、真っ裸です。自分では気づいてないんでしょうけど、かなーり恥ずかしいですよ?
玃猿に脱がされたんでしょうね。おのれ玃猿、どこまでR18ギリギリなことをやらかしてくれるのか。
それからすぐに、妖魅ちゃんは玃猿に追われ出しました。おっと! 玃猿の大腕が降り注いで、妖魅ちゃんがぴょんぴょん跳ねていますっ。可愛いっ。
でも、
「危ないっ!」
今度は猿野郎が体勢を変えて、牙で妖魅ちゃんを狙おうとしています! あたしの友達を喰らおうだなんて、いい加減許しませんよ!
あたしは、奥の手を使うことにしました!
その名も、『霊氷の札』。
これはお札の中でも結構レア中のレアで、ランクが高い妖怪を倒すためのものなんですね。
玃猿はまあそこまで強くないっぽいですけど、今の非常事態も考えて仕方ないかなーということで。人命第一ですっ!
『ぐおおおおおおお』
除霊の氷柱に串刺しにされた玃猿が何やら叫んでますね。ざまぁ見やがれってんですよ。
そしてそのまま、ふわーっと消えやがりました。
「逃げたな! 今度会った時は許さないですよっ!」
今度会うのは地獄ででしょうけどねー。
裸の妖魅ちゃんは、レイたんのところまで辿り着きました。もうこれで安心ですね。
はぁ疲れた。
でもでも、今回の玃猿はなかなかじゃないですかね? 妖怪自体はそこまでですけど、この騒動はハラハラ感があって楽しかったです! まるで物語みたいで素敵でしたよっ。
さて、囚われのお姫様……じゃなかった、妖魅ちゃんに服でも着せてあげますかね。




