妖魅はいずこに
「おかこおねえちゃん、おねえちゃんが、ようみおねえちゃんがかえってこないの!」
メリーちゃんに連れられてやって来ましたるは妖魅ちゃんのお家。
いやあ、正直ここへ来たのは初めてなんですよ。一度あたしの家に妖魅ちゃんとレイたんを招いたことはあるんですけど、なんか妖魅ちゃんが来てほしくなさそうで。
ほんっと、妖魅ちゃんったら水臭いですよねぇ。
まあそれはともかく、あたしが到着してすぐ、レイたんがそんなことを言い出すわけですよ。
「え? ちょっと待ってください? 色々詳しくお願いできます?」
レイたんは、今にも泣き出しそうです。可愛い顔が台なしですよ? まだ小さいから仕方ないですけど。
レイたんはあたしとメリーちゃんを家に上げて、拙い言葉で一生懸命に話してくれました。
それによると、どうやら妖魅ちゃんは夕方に買い出しに出た後、戻ってこないそうで。
「それでぇ、妖魅さんの気配も感じないのよねぇ。まるで遠くにいるみたいなのよぉ」
とメリーちゃんが補足。
そこで、あたしはやっと思い出したわけですよ。
ドアがドンドン鳴って外に出た時のことを。
「ああ、そういうことでしたか……」
あのお弁当はつまり、妖魅ちゃんが買って来ていたもので。
そして途中、なんらかの怪異に襲われてあたしに助けを求め、でも届かずに連れ去られてしまったと。
「ははぁ。……これってやばくないですか!?」
妖魅ちゃんはあんまりオカルトに明るい人じゃないんですよね、幽霊とか助けてるくせして。
だからお札とかは持ってないはずで、つまり、一人じゃ退治できないわけで。
「メリーちゃん、妖魅ちゃんがどこだかわかります?」
「だからぁ、ワタシにもわかんないんだってばぁ。みっちゃんの娘ですものぉ、わかってたらすぐに助けに行ってるわぁ」
みっちゃんって誰なんですかね。まあ今はそれはいいか。
ともかくですよ、妖魅ちゃんを助けないとやばい! 相手が単なる人さらいって可能性もありますけど、状況的に見てお弁当落としてたら人間の誘拐犯はそれも拾うでしょう。
人さらいの怪異……。結構色々いますよねー。
あたしも今までそういうのに対峙してきたことは二度か三度ありますけど、結構あいつら手強いんですよ。素手じゃとてもじゃないけど倒せません。
ああ困った、どうしましょう。
その時、レイたんのお腹がぐぅと鳴りました。
「あ……」
そういえばレイたん、妖魅ちゃんが帰ってこないものだから夕飯食べてないんですよね。
腹が減っては戦もできぬ、とりあえずあたしの家に連れ帰って考えるとしますか。
ついでにメリーちゃんも連れて行こうっと。
△▼△▼△
あたしの家で夕飯のあまりを食べさせてあげると、レイたんはちょっぴり元気になりました。
本当だったらあの時のお弁当を食べさせるべきだったのかもですが、もうすでにあたしの腹の中だったのですみません!
メリーちゃんは何も食べず、そこら辺をふよふよしています。くれぐれもお母さんに見つからないようにしてくださいね。一度家を出たことはまだバレてないんですから。
「でもこれは長丁場になるかも知れませんね……」
明日まで待っている余裕はありません。明日の遅刻を覚悟で臨まなくてはならないでしょう。
あたしはぎゅっと唇を噛み締めます。気合い入れてくぞー!
とりあえずスマホでささっと検索。
『人さらい 妖怪』
これで出てきた妖怪の候補と、状況証拠から考えていきます。
まず天狗とか狐ですが、これは考えにくいかな。
天狗ならスマートにさらってしまうから助けを求める時間なんてないでしょうし、狐は人に完全に化けるので気づきにくいです。そのまま人間としてナンパします。
隠し神というのもありましたが、これは子供限定なので、妖魅ちゃんには当てはまらないのではないかと。
そうやって絞っていくと、一つの怪異に行きつきました。
――『玃猿』。
これはとってもとっても、とーっても恐ろしい化け物なんです。
なんたって、女性をレ〇プするんですから。猿の仲間なんですけどオスしかいないらしく、人間の女性をさらって……なんだそうです。
さすがのあたしもこの妖怪とは出会ったことがありません。中国発祥と言われていますけど、もしかしてそっちの方に連れ去られちゃったりしたんですかね?
「玃猿、ねぇ。聞いたこともない妖怪だわぁ。お猿さんに食べられちゃうなんて、嫌よぉ」
「よ、ようみおねえちゃんたべられちゃうの? わたしもいやだー」
ほらほらメリーちゃん、おかしなこと言うからレイたんがまた泣いちゃったじゃないですかぁ。
日本で玃猿のいそうな場所、ですか……。
あたしは本気で頭を巡らせましたよ。それこそ、受験勉強の時以上です。
そして閃きました、ああ、あそこだって。
あたしたちの街から三十キロくらい離れたところに、猿が出るので有名な場所があります。
それこそ化け物レベルででかいやつも見かけられるんですけど、国の調査員たちが探しても全然見つかんないんですよね。
で、そこのことを調べたら、女性の誘拐事件の記事が載ってました。これで全てのピースが合いますね。
やだっ、あたし名探偵!
「もたもたしてる時間はありません。行きましょう!」
「で、でもぉ。もう暗いわぁ」
「ダメです、一刻の猶予もないんですから。レイたんは待っててください、明日までには必ず連れて戻ります」
さすがに小さい子を連れていくのは大変かと考えたんですが、レイたんってば「わたしもいく」って言い張るんですよ。
まあそこまで言うならあたしは止めやしません。元はと言えば勝手にさらわれる妖魅ちゃんのせいですし。
「眠くても我慢できるんだったらいいですよ?」
「うん、できる」
「じゃあ行きますか! メリーちゃんにレイたん、ファイトですよー!」
「ちょ、ちょっと待ってぇ!」
さてさて、あたしたち三人の『妖魅ちゃん救出大作戦』の幕開けでーす!
正直、あたしは新たな都市伝説と巡り会えると思ってワクワクが止まらないのでした。




