買い物からの帰り道……
丘子との恐怖の学校探検から、丸一ヶ月以上経っていた。
その日は母親が留守にしていたので、私は夕食を買いに一人で買い物に出ていた。
すでに外は暗く、街灯だけがぽわんと光っている。
買い物を済ませての帰り道。
夜は人ならざるものたちが多い。
あちらで蠢きこちらで蠢き。大抵は小さな虫のようなものだが、たまに物体に心が宿った妖怪――メリーさんのようなもの――がいたりする。
そういえば、生田やレイちゃんとも、これくらいの時間に出会ったっけ。
最初は救いたいという気持ちだけだったのが、生田には叶わぬ恋心を、そしてレイちゃんには家族同然の愛情を抱いてしまった。
またいつか、そんな出会いがあるのかも知れない。
そんなことを考えていた時のことだった。
突然、声がしたのだ。
『お嬢さん、ちょっといいかね?』
声の主を見て、私はギョッとする。
そこに立っていたのは巨人だった。いいや、よく見ると人ではない。
おぞましい化け物だった。
「――――」
なんと答えていいかわからず、黙っていると。
『今ちょうど嫁探しをしていたんだ……。貴女は、こちらが見えるのだな?』
その声に、背筋が凍った。
私はそいつがなんという名前なのか知らない。ただ一つだけ言えることは、『人ならざるもの』であるということだけ。
なんとなく予感はしていたもの、まさか本当に今日遭遇してしまうとは……。
「私を、どうするつもりなの」
『決まっている。貴女を、花嫁として迎え入れるのだ』
あまりにも突拍子もなさすぎて、夢かと思うくらい。
周りには人はいないし、助けを呼んでも誰も来ないだろう。
私は咄嗟に逃げ出した。
いくら何でも、毛むくじゃらの化け物は話が別だった。会話は通じるが、『花嫁』なんて言われたら逃げる他選択肢がない。
「誰か、誰か!」
ひとけのある道に出ようかと思ったが、むしろそれは危険なのではないか。
この『人ならざるもの』はあまり好ましいものではない。一目でわかった。
逃げて、逃げて、逃げ続けた。
小学校前まで来る。すぐそこに、丘子の家があるはずだった。
「丘子、丘子さん!」
すぐ背後には獰猛な獣。私は丘子の家に着くと、その扉を激しく叩いた。
「出てきて!」
けれど中から応えはない。
焦燥感が胸を焼く。早く、早く早く早く早く早く。
しかし、間に合わなかった。
『――花嫁さん、捕まえた』
最後に見えたのは、獣の大きな顔と腕、そして背景の夜空。
軽々と体が宙に浮く。悲鳴を上げる間もなく、私の意識は暗転した。
△▼△▼△
「あれ、誰もいないですねぇ」
晩御飯を食べていたら、玄関ドアがドンドン叩かれる音がしたので来てみたんですけど、誰もいません。
今の時代、ピンポンダッシュみたいなものがあるんですかね。馬鹿らしい。
それとも幽霊が来たのかとも思いましたけど、どこにもいませんし。ただの悪戯でしょう。
と、思ったのですが。
ドアの前に、一つだけ変なものを見つけました。
「なんですかこれ?」
それは、スーパーで売っているようなパックのお弁当でした。
中身は傾いてましたけど新しいようです。こんなところに誰が落としていったんでしょう?
不思議に思いつつも、考えても仕方ないでしょう。
あたしはラッキーとばかりに弁当パックを手にしました。これは横領になりませんよね? なりますか?
まあいいや。
ささ、玄関口で突っ立ってても意味ないですし、部屋に戻りますかね。
晩御飯冷めちゃう、急がなくちゃです!




