偽物だらけ
翌日夜七時、校門前にて。
その日は熱帯夜で、すっかり日は落ちているというのにあたりが蒸し暑く感じられる。私たちはそんな中、丘子を待っていた。
「おねえちゃん、たのしみだね」
「……そうね」
レイちゃんはキラキラ目を輝かせているが、私はとてもそんな気分にはなれない。
第一、一般人である彼女を連れてくるのには今も反対だし、学校の七不思議が安全であるのかどうかも怪しいものだ。万が一何かあったら……と思うと恐ろしいのだ。
が、もはや引き返すわけにもいかないし、私としては細心の注意を払うことくらいしかできないだろう。
そんなことを考えていると、やっと丘子がやってきた。
「お待たせです〜。ちょっと遅くなっちゃいました!」
「遅すぎ。こんな暑い中、どんなに待たせるつもりなの?」
「妖魅ちゃん、妖怪が怖いからってそんなにぷりぷりしないでくださいよぅ。あたしだって怖くないわけじゃないんですからねっ」
そう言う丘子は嬉々としている。ちっとも怖がっているようには見えない。
しかし私は彼女に何を言っても無駄と諦めた。
「もたもたしてる時間はないですよ、ささ、行きましょう!」
マイペースな丘子に引き摺られ、私たちは校門を乗り越えて真っ暗な学校の中へ入る。
私は無意識にレイちゃんの手をぎゅっと握りしめていた。
△▼△▼△
「それでは七不思議探検に出発です!」
威勢よくそう言って丘子はずんずん先へと駆けていく。
どうしてそんなに浮かれていられるのだろうと思いながら、私とレイちゃんは必死で彼女の後を追って進んだ。
七不思議というからには、七つの怪異が出るという噂があるらしい。
私たち三人は順々にその真偽を確かめに行くことにした。
まず『廊下の泣き女』。
学校の廊下、そこには昔この学校でいじめを受けていた少女の幽霊がいるという話だ。
私たちは廊下を隈なく探し回ったが、そんな怪異は見当たらなかった。
そして二番目の『粘土細工たちのパレード』は、美術室の一角に飾られた粘土細工たちが歌って踊り出すというもの。
レイちゃんはビクビクしていたけれど、結局そんなことは起こらずじまいで。
三番目、『輝く目の肖像画』。
これは音楽室に飾られているかの有名な作曲家の肖像画の瞳が怪しげに光るというもの。しばらく見つめていたものの不審な点は見つからないし、言わずもがな光るようなこともなかった。
四つ目、『首なしバスケ』。
夜の体育館にて、首のない少年が自分の首でバスケットボールをしているといういかにも怪談らしい怪談。だが、現実には何も見えない。
これもはずれだ。
五つ目は『夜の学校を徘徊する人体模型』。丘子曰く、これはよくある話らしい。そしてその実、大抵は眠い人が見た幻覚なのではと言われている。
実際にそんなのがいたら恐怖どころではないだろう。当然だが、人体模型は普段通りにじっと立ってくれていた。
六番目の『てけてけ』。
残念ながら出現場所がわからず、丘子が大声で呼んでも出てこない。おそらくいないのだろうと思われた。
つまり全部偽物だ。
もちろん学校の七不思議なんていうのが本当だとは思っていなかったけれど、私は心から安堵していた。
けれど、丘子はまだ諦めていないようで……。
「今回こそはっ、今回こそは最高の都市伝説に違いないっ! 七番目です! 七番目が日本一、いや世界一の最恐都市伝説なんです!」
この満ち満ちたる自信はどこからくるのだろう……?
高らかに叫ぶ彼女は狂信的な目をしていて、まるで化け物だ。
レイちゃんは「おもしろいね、おねえちゃん!」と笑っているけれど、私は都市伝説なんかよりずっと丘子が怖く見えた。
さすが、オカルトに染まりすぎて妖怪からすらも『都市伝説』と呼ばれる少女なだけある。
などと考えていると、
「ねえねえ、ななばんめのななふしぎ、なになの?」
レイちゃんが純粋無垢な顔で尋ねかけてきた。
当然のことながら、ここまでエセな怪談ばかりだ。残り一つだって、『七番目の七不思議はない』とかの話かと予想していたのだけれど、丘子の答えは全然違っていた。
「それがですねそれがですねっ。『わからない』んです! 素敵ですよね!」
年頃の女の子らしくはしゃぐ丘子の言葉に、レイちゃんが首を傾げた。
同時に、私の背中にサァーっと言葉にできない悪寒が走り抜けていく。これはもしかして、もしかするのではないだろうか?
私は思った。――ああ、今すぐ帰りたいな、と。




