再会
「お願ぁい!」
メリーさんがそう言った、その直後のことだった。
「妖魅にレイちゃん、誰かお客さんでも来てるの?」
突然、居間から母親が顔を覗かせたのである。
私はギョッとし、慌ててメリーさんを隠そうとした。けれど間に合わなかった。
お母さんがぐんぐん歩いてくる。
そして、メリーさんに気づいてしまった。
「何、その人形。……っ」
「あ……」
お母さんが突然レイちゃんの手からメリーさんをひったくった。
レイちゃんは驚いて、「な、なに!?」と叫んでいる。
わけがわからないでいると、メリーさんが小さく声を漏らした。
「みっちゃん、なのぉ?」
「――メリーさん。メリーさんね! メリーさんなのね!」
呆然とする私とレイちゃんをよそに、お母さんとメリーさんは盛り上がり始めた。
「ワタシ、メリーさん。みっちゃん、ただいまぁ。ごめんねぇ、ごめんなさぁい」
「メリーさん。メリーさん……。あの時のあれは夢じゃなかったのね。こっちこそごめんね、何年も何年も放っておいて……」
どうやら、あれらしい。
私の母親、光枝がメリーさんの言う『みっちゃん』なのだ。そして二人は、偶然にも再会した。こんなに呆気なく。
「一体さっきの覚悟は何だったのかしら……」
お母さんとメリーさんはひとしきり再会を祝い合っていた。
そして、「仲直りしましょぉ?」とメリーさんが小さな手を差し出す。
「またワタシと友達になってぇ、みっちゃん」
「うん、うん……」
△▼△▼△
後で母親に話を聞いた。
彼女はどうやら幼い頃、祖父、つまり私の曾祖父から外国製の人形をもらったのだそう。それがメリーさんだ。
しかし引っ越しの時、もう古いからと言って勝手に両親に捨てられてしまい、それからしばらくしてメリーさんがやって来た。
「ワタシ、メリーさん。今あなたの後にいるのぉ」
恐怖で窓から投げ捨ててしまい、数日間錯乱したことがある……らしい。
私は全然知らなかった。もしかすると彼女のオカルト的な経験のせいで私が『見える人』になったのではないかなどという疑惑が浮上したが、それは置いておくとして。
それからお母さんも、メリーさんを探した。けれど見つからず、もうすっかり諦めていたのだ。
「それを妖魅が見つけてくれるなんて。ありがとう。でも妖魅はどうして、メリーさんが喋ったのに怖がらなかったの?」
「え? あの、それは……」
「おねえちゃんはね、ゆうれいさんとかおばけがみえるんだよ! ね、おねえちゃん!」
ドギマギしているうちに、レイちゃんが口を滑らせてしまった。
言わないように言いくるめてあったのに……。レイちゃんはすぐ「あっ」という顔をしたが、間に合わなかった。
まあこれが私が『見える子』だと母親に知られてしまった瞬間である。
後で散々口論になったことは苦い記憶となるのだが、今はメリーさんが幸せになれたことを喜ぼう。
こうして、『メリーさん事件』と私が勝手に名づけたこの騒動は収束した。
それからというもの、我が家の片隅にはいつもメリーさんがいる。あれ以来メリーさんは普通の人形として過ごすことを決めたらしいが、時たま私に話しかけてきたりするのだった。