表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/64

都市伝説

 ――翌朝。

 日曜日の朝は、なんだか気だるい。本当なら朝の九時くらいまでゆっくり寝たいのだけれど……。


「おねえちゃん、おはよう!」


「妖魅さぁん、起きるの遅いわぁ」


 七時半になった頃、そう言うレイちゃんとメリーさんに叩き起こされた。


 レイちゃんはまだしも、起きたらすぐ目の前にメリーさんがいるといい気分ではない。

 綺麗な人形とはいえ、彼女はもののけなのだ。


「……二人とも、もう少しゆっくり寝かせてちょうだい」


「ダメだよ、ようみおねえちゃん、きょうはメリーさんのさがしてるおんなのこをみつけにいくんでしょ?」


 私はレイちゃんの言葉でそれを思い出し、「やばっ」と言ってベッドから転がり落ちた。


 そのまますぐに立ち上がると、大慌てで部屋を出る。

 のんびりしてはいられない。今日は、聞き込み調査をする日なのだから。



△▼△▼△



 メリーさんの言う『みっちゃん』がどこの誰だかわからない以上、探しようが難しい。

 けれど私は、犯人は事件現場に戻ってくる、という話を思い出した。別に犯人でもないし事件現場でもないけれど、メリーさんがこの街に『みっちゃん』の気配を感じたからこそ、この街までやって来たのではないかという推測だ。


 と言っても、私の推測など探偵でもないしあてにならないのだけれど。


「みっちゃんの写真とかは持っている? 聞き込み調査に使いたいのだけど」


「残念ながら、ないわぁ。でもワタシ、一眼見れば『あ、みっちゃんだ!』ってわかると思うのぉ。だから大丈夫よぉ」


 みっちゃん自体を探すわけではなく、「こんな女の子知りませんか」と言いたい、ということだったのだが、どうにも会話が通じない。

 私は諦めて、メリーさんをレイちゃんの手に握らせた。


「レイちゃん、メリーさんをしっかり持っててあげて。それでメリーさんは絶対に喋らない。何があっても。いいわね?」


『見える人』ではなくても知覚できてしまう妖怪のメリーさんは、街中で話しているのを見られでもしたらビッグニュース。というか、私が怪しまれる。

 私はあまり目立ちたくないのだ。


「うんわかった。わたし、しっかりメリーさんをつかまえておくね」


「別にワタシを捕まえなくてもいいじゃないのぉ。わかったわぁ、大人しくするわよぉ」


 そうと決まれば早速聞き込み調査を開始しよう。

 まだ静かな日曜の朝、私たちは外へと繰り出した。



△▼△▼△



「あの。メリーさんという人形を知りませんか? これです」


 私は、メリーさんを見せて回っていた。

 もし『みっちゃん』がいれば反応してくれるだろう。『みっちゃん』自体を探すよりこの方法の方が簡単だと思ったのだ。


 しかしメリーさんを知る人は一向に見つからない。

 もう三百人くらいには聞いただろうか? 時刻は昼の時間をとっくに過ぎている。


「おねえちゃん、ぜんぜんみつからないね」


「そうね。やっぱりこの街にはいないんだわ。だからと言ってどこを探したらいいの?」


 日本全国で「この人形を知りませんか?」なんて聞いて回ることは到底できない。

 その時、私はふと思いついた。


「そうだわ、SNSで『みっちゃん』を探せばいいのよ」


 方法は今と同じ。「この人形を知りませんか?」と言うだけだ。

 しかし今は便利な時代である、スマホ一つあれば全国、いや全世界に発信できるのだ。私はあまりSNSをやっていないのだが、そんな私でもすぐにできるだろう。


「何せご老人でも使いこなせるんだものね。……と、まずは調べてみよう」


 公園のベンチで一休みしている間、私はスマホを取り出した。


 レイちゃんが画面を覗いてくる。メリーさんも興味津々だった。


「なにしてるの?」


「あのね、ちょっと待って……」


 スマホで検索をかける。

 もしかするとメリーさんを探しているという人の噂があるかも知れない、そう思い、まずは『メリーさん』という単語を調べて――、私は、驚愕した。


「えっ」


『メリーさんの電話』。

 目に飛び込んできた言葉に、私は信じられないと瞬きする。

 けれど確かにそう書いてある。私は恐る恐るで、そのWebページを読んだ。


 はっきり言おう、メリーさんは都市伝説から飛び出してきた存在である。というより、メリーさん自体が都市伝説として語り継がれているらしい。


 ある日、女の子の元に『ワタシ、メリーさん。今、ゴミ捨て場にいるの』と電話をかけてくるところから、怪談は始まっていた。

 電話が切れる。不気味と思い女の子が怖がる。また電話。


『ワタシ、メリーさん。今、駅の前にいるの』


 どんどん近づいてくる距離、繰り返される電話。

 そして最後に、『ワタシ、メリーさん。今あなたの後ろにいるの』


 ここで話は終わる。続きは、ない。


 都市伝説を読み終えて、ゆっくり顔を上げた。すぐそこにメリーさんの端正な顔。


 私は今まで人ならざるものに関心を抱かないよう生きてきた。幼い頃妖怪の本を読んだり幽霊の本を読んだものの、長年の間そんなものとは触れていない。

 だから都市伝説など知らなかった。けれど知った今、わかった。


「メリーさんってずいぶん昔に捨てられたんじゃないの?」


 都市伝説がここまで広がるには相当の時間がかかる。十年やそこらは経っているだろうと思われたのだ。

 メリーさんは困ったような顔で頷いた。


「そうねぇ。かなぁり昔だったかしらぁ? よく覚えてないわぁ」


 ということは、だ。

 メリーさんは何十年も『みっちゃん』を探している。

 当時十歳だった女の子はすっかり成長して、今頃おばさんかお婆さん。


「これじゃあ、探しようがないじゃないの」


 一年や二年、五年程度なら時が過ぎているくらいならまだしも。

 すでに数十年も経っているのだ、当の『みっちゃん』が生きているかどうかすら怪しい。生きていたとしてもメリーさんのことなんか気にしているはずがない。


 初めて私は、今日一日がどれほどの徒労であったのかと知った。

 もはやSNSで拡散する気にすらなれず、スマホを閉じる。


「帰りましょう」


 次の策を練らなくてはならない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] おぉう、作中にそんな都市伝説は無い、のではなくて妖魅ちゃんが知らなかっただけなのか(゜Д゜;)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ