実は生霊だった
ツトムくんの話を聞いて、私の考えは大きく変わった。
今まではレイちゃんを幽霊だと思っていた。あんな姿をしているし、私にしか見えない。以前の生田のこともあったから、思い込んでしまっていたのだ。
しかし――。
「まだ生きてるなら話は違う」
私はツトムくんからさらに色々なことを聞き出した。
そしてもう一度お礼を言い、そっとマンションの一室から出る。向かうはレイちゃんのところだ。
そしてレイちゃんは、マンションの入り口付近で所在なさげにしていた。
「レイちゃん」
「おねえちゃん!」
レイちゃんの顔がパッと明るくなる。
ダメだ、私は今までずっと一人っ子だったけど小さい子は好きな方だから、思わず愛でたくなってしまう。
ダメダメ、それは全部後にしなくちゃ。私は唇を噛み締めた。
「レイちゃん。私、ツトムくんから色々と聞いてきたの。辛いかも知れないけど、説明していい?」
「うん。いいよ」
「なら言うわ。――あなたとあなたのお母さんは、事故に遭ったのよ」
私はレイちゃんに、聞いた話を全て明かした。
彼女たちが買い出しの途中で事故に遭ったこと。
母親を失ったこと、その時にレイちゃんの魂が体から抜け出して、今彷徨っていること。
レイちゃんはなんだか納得したような顔をした。
「そっか。そうだった、おもいだした。うしろからくるまがビューンってきて、おかあさんがはねられて……わたしも」
「実は私ね、幽霊さんとかお化けとかが見えるの。みんなが見えてるわけじゃないんだけど、私は特別。だから私にはレイちゃんの姿が見えるのよ」
「じゃあ、わたしゆうれいさんなんだね。おかあさんがいってたよ、ゆうれいさんはまだいきてるかぞくをみまもるんだって。でもわたしにはかぞくはもういない。おかあさん、しんじゃったから」
今にも泣き出しそうなレイちゃんに、私は大きく首を振る。
そして、言った。
「あなたの体はまだ生きてるわ。今も、病院にいる」
「え?」
「事故の時、体から魂が抜けちゃって、レイちゃんは生霊ってやつなの。このまま放っておいたら明日には体のほうが死んじゃって、レイちゃんは幽霊になってしまう。だけど、」
私は力強く笑って見せた。
「今なら間に合うわ。急ぎましょう」
△▼△▼△
ツトム少年の情報を頼りに病院に辿り着くと、確かに彼女はそこにいた。
血まみれではないけれど、体に包帯をぐるぐる巻かれて人工呼吸器に繋がれた女の子。顔を見るだけでわかる、彼女がレイちゃんなのだと。
生霊の方のレイちゃんは驚いていた。
「ほんとだ、かがみでみるわたしとそっくり……!」
「そう、これがあなたの体なのよ。……心の準備ができたら、体に触るの。いいわね?」
幼い少女はこくりと頷いて、まじまじと自分の寝顔を眺める。
まるで魂の抜けたような寝顔。
……もっとも、『ような』ではないのだけれど。
「わたし、もしいきかえっちゃったらどうしよう。おかあさんはさきにてんごくにいっちゃったし、おとうさんも。わたし、ひとりはやだよ……」
「大丈夫、私がついていてあげるわ。だから心配しないで。あなたのお母さんもお父さんも、あなたに生きてほしいって、そう思ってるわ」
生憎、もう昇天してしまったのかして、レイちゃんの両親の幽霊とは会えなかったが、誰しも親というものはそうだろう。
虐待しているなら話は別だが、レイちゃんは愛されていたようだし。だから、きっと。
「わかった。……おねえちゃん、ありがと。わたしおねえちゃんにたすけられちゃった」
「いいのよ。私も人助けができて嬉しいわ」
人ならざるものたちに、私は今まで関わってこようとしなかった。
が、生田の件でその心情は大きく変わっている。ああ、救えてよかった。本当に心からそう思うのだ。
「おねえちゃん、だいすき」
キラキラした笑みを浮かべながら、半透明の体のレイちゃんが、本体にそっと触れる。
眩い光が漏れ出して、瞬きの後には霊のレイちゃんが消えていた。そして――。