ツトムくん
私がインターホンを鳴らすと、中から中年の女性が顔を覗かせた。
「どちら様?」
「あの。私、お宅のツトムくんに少しお伺いしたいことがありまして」
私服とはいえ、背が低いから女子高生であることは簡単にバレただろう。もしかしたら中学生と思われたのかも知れない。
女性――おそらくツトムくんの母親は不審げな顔をしつつも「ツトムを呼んできますと、再び部屋の中へ消えた。
が、
「ツトムは今、誰とも会いたくないと。すみません」
すぐに戻ってきた母親が、申し訳なさそうにそう言った。
でもこちらとしても事情が事情だし、すぐに引き下がるわけにはいかない。
「失礼ですが、どうしてですか?」
「少し、息子の友達に不幸なことがあったそうで。とても仲良しにしていたから、ショックが大きかったと思うの」
それを聞いて私はピンときた。
ああ、これはレイちゃんのことに違いないと。
「実は私はその女の子のことについて少し聞きたいことがあってお宅の息子さんに。お辛いのはわかりますが、どうしても知りたいことがあるのです。お礼なら何でもしますから、どうかお話させて頂けませんか」
うちにはあまりお金はないけれど、少々のお礼くらいならできる。
それもこれもレイちゃんのためだ。昨日出会ったばかりなのにこんなに必死になるなんて馬鹿みたいだけれど、あの子を助けてあげたいと思ったのだから仕方ない。
頭を下げると、母親はなんとか納得してくれたようだった。
「では、お上がりください」
△▼△▼△
ツトム少年は、七歳になってまもない男の子だった。
レイちゃんほどとは言わないけれど体は小さいし、まだまだおぼこい。
「ぼくに何の用?」
「急にごめんね。ちょっとだけでいいから、お話しさせてほしいの」
私は、部屋の隅で縮こまっているツトムくんへと声をかける。
彼はしばらく黙っていた。突然押しかけてこられたのだから不満も当然か。
「……あのね、あなたレイちゃんを知ってる?」
その質問をした途端、幼い少年の表情が大きく変化した。
何か棒で殴りつけられたような、そんな痛々しい顔。何か胸にズキッとくるものがあった。
「なんで、レイのことを」
「知っているのね。私もレイちゃんの知り合いなのよ」
これは嘘ではない。ただし、幽霊になったレイちゃん、という注釈はつくけれど。
「レイちゃんの姿が最近見えないの。何かあったのかと思ったのだけれど、レイちゃんの家の場所がわからなくて。そうしたら前、レイちゃんがツトムくんのことを話していたのを思い出して、来てみたの」
半分嘘で半分本当。
その言葉を受けて、ツトムくんは疑わしげな目を向けてくる。
しかしやがて唇を引き結び、下を向いた。
何か言いたくないことがあるのだろうと私は直感する。しかし、さらに踏み込んだ。
「お願い。私、レイちゃんが心配なのよ」
「……わかったよ」
堪忍したのか、小さく頷く少年。
俯きながらではあるものの、ツトムくんはゆっくりと話し始めたのだった。