お母さん探し
次の日は私の学校が休みだったので、お母さん探しをすることにした。
昨晩、「私に任せて」なんて格好よく言ったものの、問題は多い。
まずレイちゃんは、自分の苗字を知らなかった。
「むぎた、むねた……? わすれちゃった、よくおぼえてないよ」
この年頃なら自分の苗字くらいわかると思うのだが……。麦田やら宗田、大体そのあたりということで考えておく。
そして、彼女の家はマンションの一室であるらしいが、そのマンションの場所もはっきりわからないんだとか。
「だいたいあっちかな? えっと、こっちだったきもするし……」
あっちへ行ったりこっちへ行ったり、半ば道に迷いながらレイちゃんが辿り着いたのは、高級マンション群だった。
「そうだ、ここここ!」
やっと帰ってこれたのが嬉しいのかはしゃいでいるレイちゃん。でも、
「お部屋の番号はわかる? 大体どこのあたりにあるの?」
「――しらない」
即答だった。
「あちゃー」と言いながら、私は思わず頭を抱える。
麦田さんだか宗田さんだかのお宅は、いちいち探していたらきっとキリがない。
お母さん探しは難航している。さて、どうしたものか……。
その時、レイちゃんがマンションの一室を指差した。
「あっ、ツトムくんだ! ツトムくん、ツトムくんっ!」
精一杯に手を振る姿は可愛いが、しかし相手からの返答はない。
当然だ、レイちゃんが見えているのは私だけなのだから。
「レイちゃん、ツトムくんはお友達なのね?」
「うん。いつもよんだらへんじしてくれるのに、なんできょうはなにもこたえないの?」
レイちゃんは不満そうな顔をしている。
私は「今日はたまたま気づかなかったのよ」と誤魔化した。
生田少年の時と違い、レイちゃんには彼女が幽霊であることを明かしていない。
六歳の女の子には「あなたは幽霊なのよ」なんて言うのは非情だと思ったからだ。本当は言った方がいいのだろうけれど。
ツトムとやらに話を聞きたいところだが、レイちゃんと彼を引き合わせるわけにはいかない。考えに考えて、レイちゃんにはマンションの入り口で待っているように言うことにした。
「すぐ戻ってくるから待っててね」
「うん、おねえちゃん」
もうすっかり慕われてしまっている。まるで妹のようだ。
それはともかく、今はツトムの部屋に向かおう。
もしかするとレイちゃんの死の真相、そしてお母さんの居場所がわかるかも知れないのだ。
しかしレイちゃんが成仏したら寂しいなあと私は思う。
まだたったの一日ではあるけれど、まるで妹のように彼女のことを想っていた。
「生田くんの時であんなに懲りたでしょうに。私って馬鹿なのかしら」
私は一人でくすくすと笑った。