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私のガラスの靴を忘れないで  作者: 雨上がり
3/10

Nouveau nom

「母上。」

「お誕生日、おめでとう。」

皇后は優しく姫の髪を撫でる。

「知り合いのみなに挨拶しましたか?」

「はい。」

「でしたら、パーティの始まりを待ちましょうか。ところで、あの子は?」

「そちらにいます。」

「あの子...まだ幼いが、独立しなければ。」

「母上、ご安心ください。妹くんは幼いとはいえ、きちんと自分の意思を持っています。」

「そういえば、あの子の騎士を決める時期でしたよね。」

「私もその年頃で騎士を決めました。異論はありません。」

「君はあの子と仲がいいんだから、聞いてあげましょう。」

「わかりました。」


ピアノの音に乗せて、バイオリンの旋律が流れ始めた。

そして人たちの目線も会場の中央に立ってる、今日の主役に集まる。

「ご来場いただき、ありがとうございます。みなさんもぜひ、一緒に踊りましょう。」

微かな微笑みは、姫の魅力を表した。

「姫君、最初の踊りを誘ってもよろしいでしょうか?」

「...ぜひ、スケラ子爵。」

姫にパートナーができたと見届けたあと、人々の目線はあの人に。

「最初の踊り、一緒にしませんか?伊吹様。」

「...!ええ!喜んで!」

手を伸ばした伊吹は、目線に浴びながら、王子の目の前に立つ。

「大丈夫、楽しみましょう。」

「はい...!」


そして、隅っこに立ってる二人も、会場の中央を見ている。

「よかった...」

「どういうこと?」

「王子様のパートナーは、私の知り合いです。」

「そう。」

「踊らないのですか?」

「パートナーがないと、踊れませんよ?」

「その美貌を持つあなたなら、パートナーがないと心配する必要はないと思いますが?」

「選択肢がないとは言ってません。」

末の姫は微笑んだ。

「私が望むパートナーは、果たして私の手を取って、そこに連れて行ってもらえるほどの勇気を持ってるのかしら?」

「そのパートナーは...?」

「さぁ?」

「...わかりました。一曲、一緒に踊りませんか?」

「よろこんで。」

刃は手を伸ばし、その幼くて柔い、そして強い意思を示す、小さな手を握りしめ。

彼女を連れて、前へ。


「...あなた、踊れますね。意外。」

「小さい頃は少し学びました、ワルツだけですけど。」

「上流では、それだけで十分です。」

末の姫は笑った。

「意外なのは、男性の踊り方ができますから。」

「男女の踊り方はそう違ってはいません。それに、私はずっと男性の踊り方を学んできました。」

「それはどうして?」

「お姉様たちの練習相手になるためです。」

「君自身は?」

「自分で練習できますから。」

「そう。」

刃の笑顔に、末の姫は微笑んだ。

上流の社会で偽る理由に気付いた。

相手を、自分を、傷付きたくないから。


音楽が止まって、踊ってる人々も立ち止まった。

「これは意外ですね」

刃の後ろから、ある男性の声がした。

「...?」

刃は理解できない。

なぜ王子は彼女たちに声かけるのか。

「妹くんの舞を見えるとは。」

「兄上...!」

「とても素敵でしたよ。」

「...ありがとうございます。」

「しかし急になぜ?それにこの方は…ウェイター?」

王子と目線を合わすのを恐れて、刃は頭を下げた。

「兄上、そしてみなさん。」

末の姫は声を上げて、人々の注目を集めた。

「この場を借りて、ひとつ発表させていただきます。」

無謀で、わがまま。

でも、ついてくれるよね?

君の目にあるその真摯に、賭けた。

「この少年は、私の騎士になります。」


「姫様の騎士に...!?」

末の姫自身以外の全員は、驚いた顔をした。

そして、もう一人の主役も。

「少年よ、正式な儀式はまた日を改めて、ここで、私の騎士になることを誓ってくれませんか?」

「...」

姫の騎士になれるって、とても光栄なこと。

刃も当然、引き受けたい。

だが彼女には、切り捨てないものがある。

その迷いを気付いたように、末の姫はさらに言い出す。

「君が私の騎士になると同時に、私は君に新たな名前をあげます。君は私の騎士となれ、すべての過去と縛りを捨てましょう。」

この人に断られたら...

末の姫は、自分の賭けの無謀さを知ってる。

だが、この出会いは貴重で、外せない。

彼女にシンデレラのように、離れさせはしない。

「...姫様は僕の出身と過去にいやがらず、僕を選びました。僕はあなたの騎士となって、身を持ってあなたを守り致します。。」

「よい。では、ここで君に新たな名前を与えよう。(つるぎ)。」

「剣...?」

「君は私の剣となって、私のためにいばらを切り裂き、不安や恐怖を立ち切りなさい。」

「...!イエス・ユア・ハイネス。」

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