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僕って上司っぽくないよねぇ

 というわけで、第五中隊隊舎の交渉人事務室に戻った僕だけど。


「…………」


 先輩の机に座る勇気があるはずもなく、僕は自分の『交渉人補佐官』の机に座りながら、目を滑らせる。


 セツキ先輩の机を中央にして、コの字型に配置した机の下底が僕なら、向かいの上底はメイドの猿渡サエコちゃんの机だ。


 名字で猿渡って呼ぶとめちゃくちゃ怒るから名前で呼ばせてもらっている。


 僕同様、先輩が軍事学校生の中から引き抜いて来た子だ。


 髪はベリーショートだけれど、何故か本物のウィッグで横髪だけ胸の下まで垂らしている。改造メイド服は肩周りにフリルが多くて、胸元には胸全体を覆い隠す程に大きくてボリュームのあるリボンがあしらわれている。


 小柄で可愛らしい印象があるけれど、切れ長の大きな目は長いまつげに縁取られていて、よく見ると結構な美人さんだ。


 今は自分の机の上で、暗殺用武器、暗器の手入れを眉ひとつ動かさずにしている。


 うわぁ、あのナイフ切れ味良さそう……


「死ねぇサク!」


 サエコちゃんがナイフで虚空を一閃。


「フッ、つまらぬものを殺してしまいました」

「なんで僕なの!?」


 サエコちゃんはゴミを見る目で、


「は? 何をおっしゃるのですか? サクとは貴方ではなく、我が家の試し切り用人形の名前ですよ? 昨日三八二五号の墓を作りました」

「殺し過ぎだよ!」

「繕っても繕ってもすぐダメになってしまう手のかかる子です」


 サエコちゃんの口から、バカ息子を持った母のような溜息が洩れた。


「もっと違う名前にしてよ!」


 すると真顔で、


「サクという名が最もテンションが上がるのです」

「上げないで!」

「セツキ様が抱き枕にサクという名前をつけているので見習ってみました」

「じゃあ抱き枕に僕の名前つけてよ!」

「え!? 貴方は私に自分の名前をつけた抱き枕を抱かせようというのですか!? なんという変態鬼畜下衆外道下劣野郎なのでしょう。ルイ、今の発言、録音しましたか?」

「してるのですよー」


 『抱き枕に僕の名前つけてよ!』


 部屋の隅で、多重展開した投影ウィンドウに埋もれる大丸ルイの方から僕の声がする。


 なんで君はいちいち録音するかなっ。


 彼女も大丸、という名字が嫌いらしく、ルイちゃんと名前で呼ばせて貰っている。うぅ、女の子を名前呼びって恥ずかしいなぁ。


「それで変態鬼畜下衆外道下劣野郎様、略してサク様。欲求不満ならばエロ動画のデータをあげますので、これ以上、私を視姦するのをやめていただけませんか?」

「してないよ!」

「え? 先程からずっと私を視姦していたではないですか?」

「ただ見ていただけだよ!」

「フッ」


 サエコちゃんの目が勝利に光る、口元が怪しく笑う。


「つまり見ていたのは認めるのですね? 理由を詳しく聞かせて貰えますか?」


 うわぁ……やっぱこの子、苦手だなぁ……

 でもどうしよう、ナミカちゃんの主張を論破する証拠探してきて、とか頼んだら絶対何か言われそう。

 僕の中にサエコちゃんが現れ、一〇〇の言葉を尽くして罵ってくる。


「えーっと、コーヒーいれてもらってもいい?」

「は? なんで私が?」

「サエコちゃんメイドでしょ!?」

「メイドの仕事は御主人様とお客様と、ペットのお世話をする事です。家畜の飼育は業務外でございます」


 ぼ、ぼくは……ぼくはペットですらなかったのか……

 頭の中で、何かが崩れ去る音がした。


「そもそも私はメイドではありませんし」

「えぇえええ!? そうだったの!?」


 今年一番の驚きだよ!?

 メイド服にメイドエプロン、メイドカチューシャをしたサエコちゃんはしれっと、


「だってここ日本軍の駐屯地ですよ? メイドなんて雇っているはずがないでしょう?」


 どうしよう。正論過ぎて言い返せない。


「じゃ、じゃあその格好は?」

「セツキ様のモチベーションを上げるための衣装です。私はあくまで日本軍第三師団第四大隊第五中隊所属兵站裁判交渉人第二補佐官猿渡サエコ曹長。それが私の肩書きです」

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