講和交渉
俺の腕の中で振り返って、フィリディーナはくすりと笑った。
「通常出力でなお私を負かした男に言われても、嫌みに聞こえるぞ。私は今まで自分を超人だと思っていたがなるほど、貴公は神人だな。日本の軍神殿」
「そうでもないさ。じゃあ師団長と相談するよ。それと話す内容だけどよ」
俺はフィリディーナに喋る内容を詳しく提案。承諾してもらい、それから通信を開く。
投影画面に、師団長の顔が映った。
「師団長殿、こちら第四大隊第五中隊中隊長桐生セツラ。ギリシャ軍フィリディーナ少将との講和交渉の場を持てました」
『何!?』
「私がギリシャ軍少将、フィリディーナ・フィリアージだ。そちらの桐生セツラ大尉に講和を持ち掛けられている。私は今回、政府より日本軍の実力如何によっては手を組む権限を与えられている」
『どういう意味だ?』
「つまりこの基地だけではなく、ギリシャ国は日本、しいては西ヨーロッパ側と講和を結び、そちらの陣営に加わるという事だ。すぐに戦闘をやめさせて欲しい」
『ギリシャ国との講和だと!? おい桐生、何故そんなおおごとになっている!?』
「私の判断だ。私はこの桐生セツラ大尉に決闘で敗北した。このものとならばくつわを並べても良いと思ったまでだ」
フィリディーナの瞳が怪しく光る。
「言っておくが、これは譲歩だ。東ヨーロッパ連合よりも西ヨーロッパ連合についた方が得だと判断したので、無条件で手を組んでやっても良いとな。嫌ならばいいが、今後このような場は設けないと心得られよ。その時はギリシャ国が温存してある全軍を以ってお相手しよう」
「受けた方がいいですよ師団長。こいつすげー気前よくてさぁ。オデュッセウスごと日本軍に電撃移籍してくれるって言うんだぜ」
「うむむ、では上に駆け合ってみるがどう言われるか」
俺は付け加えるように。
「頼みますよ。ギリシャ一国を味方につけた部隊として第三師団大出世のチャンスなんですから」
『出世?』
師団長の表情が固まる。
「フィリディーナ、お前が降伏するのって俺ら第三師団と戦ったからだよな?」
「そうだ」
「背後を突いてきた第一師団は?」
「私が残存戦力を指揮すれば勝てると踏んでいる、慌てる事は無い。私は第三師団所属である第三師団第四大隊第五中隊の桐生セツラに負け講和を決めたのだ。おっと、そういえばセツラを私と戦わせると決めたのは確か師団長殿でしたな、流石の采配、敵ながら恐れ入ります」
師団長から、チッチッチッチッチッピッーン という音が聞こえた気がする。
『待っていろ桐生! この命に代えても必ず上層部を説得してみせるぞ! 平和と日ギ友好の為にな! うぉおおおおお! 出世ぇえええ!』
通信終了。
「ふぅ、師団長は乗せやすくて本当に助かるぜ」
「案外、あくどいのだな」
「お互いにな」
俺らは笑顔を交わし合い、それから俺は、彼女に告白する。
「なぁフィリディーナ、一つお前に謝らないといけないことがあるんだ」
「な、なんだ? まさか私をたばかったのか? よもやこの基地が落とされるというのは偽りで」
俺は土下座をキメた。
「人工呼吸と心臓マッサージしましたごめんなさい!」
「…………え?」
「あの、お前を掘り起こした後、お前生きてしていなくてさ。パイロットスーツの生命維持装置が壊れていたみたいだし、それでその」
俺はフィリディーナの、ウサミ級の爆乳メロンを手で差した。
「思い切り胸に心臓マッサージしてから人工呼吸しちゃった、ごめんちゃい♪」
顔をあげると、彼女は呆気に取られていたけど、すぐに優しく笑って、自分の胸と唇に指先を添える。
「構わないさ、ファーストタッチとファーストキスが貴公なら、悪くは無い」
「ありがとうフィリディーナ、じゃあこの勢いでもう一個。あのさ、俺らのスーツって防弾性能として強い衝撃受けたら硬化しちゃうだろ? だから心臓マッサージしようとしたら硬化してきて邪魔するからよ……脱がしちゃってごめんなさい!」
俺はまた瓦礫の地面に額を叩きつけた。
今度は、顔を真っ赤に染めあげるフィリディーナ。
「み、見たのか?」
「ああああでも信じて! 上だけだから! 下まで降ろしてないから! 素晴らしいバストラインと張りと艶と肌触りと綺麗な乳首と乳輪は目を血走らせて網膜に焼き付けたけど下半身は俺の理性の全てを総動員して我慢しました! 信じて下さい! 俺は我慢しました! ていうか我慢したことを今、猛烈に後悔しています! お慈悲を頂けるなら裸見せて下さい!」
俺は三度目になる土下座をキメた。そこには、女性の裸見たさに頭を下げる軍神の姿があった。
「本当に見ていないのだな?」
頭を下げた俺の後頭部に、フィリディーナの美声が降りかかる。
「はい、イエス・キリストとブッダとアマテラスに誓って見ていません。見たいけど!」
「……見たいのか?」
「血の涙が出るほど見たいです!」
俺が顔を上げると、フィリディーナが顔を引きつらせる。
「貴公! 本当に目から血が出ているぞ!」
「だって悔しいんだもん! なんで俺はあの時、紳士になっちまったんだ! くそぉ! くそぉ! くそがぁあ! どさくさに紛れて見ちぇばよかったのにちくしょう!」
俺は瓦礫を殴り続けながら血涙を流した。
「かわいい」
「え? なんだって?」
「いや、ファーストキスとタッチではなく、まさかファーストラブ持って行かれるとはな」
フィリディーナは、俺の胸に額を当てた。
「貴公の横に並びたいものだ」
フィリディーナは、俺の胸の火傷にキスをした。




