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決着の後に

「おい、起きろよ」


 瓦礫の山の下、俺の前で、フィリディーナはうっすらと目を開けた。


「むっ……ここは? !? セツラ!?」


 がばりと上体を起こして、フィリディーナは俺を見上げた。


「よっす」


 右手の指二本を額から飛ばして、俺はフランクに挨拶。


「おい、これはどういう!」

「はいはい、さっきまで気絶していた人は落ち着いて。知りたい事は全部教えるよ。あれから二時間経ちました。ギリシャ軍は被害甚大。まだ戦闘は続いているけど指揮系統は滅茶苦茶で白旗上げるのは時間の問題。ていうか施設の三割はもう占拠状態にある。責任者のお前が白旗を上げれば、これ以上の死人はでねぇよ」


 フィリディーナの目から闘志や戦意、その他一切の力が消えうせた。


「……貴公は、その為に私を」


「う~ん、まぁ。総大将は総大将でもお前はカリスマ性と人気が凄いからさ。殺しちゃうと仇打ちの為にって余計に敵が盛り上がるかもしれないだろ? それよりもお前には味方になってもらった方がいいかなって」


「人質か?」

「身の安全は保障するから、そういう悪意のある表現はやめてくれよ。まぁ一番の理由は別にあるんだけどな」

「別の理由?」


 フィリディーナが俺をいぶかしむようにして見る。


「あんたぐらいの美人が死んだら人類の損失だしな。ていうか死んだら俺はあんたとイチャラブする機会を永久に失う」

「…………は?」


 フィリディーナが眉根を寄せて、首を傾げた。


「だーかーらー! 人生なんてどう転ぶか解らないし美人を殺さずに置いとけばワンチャンあるかもだろ? 俺は軍人だから仲間を守る為に敵兵は全部殺すけど、殺さなくていい理由付けが出来る時は殺さないんだよ、美人限定で」

「美人限定など、貴公は……!? なんだその体は!?」


 今俺の胴体部分はスーツが溶けて、下の皮膚もただれて酷い状況だ。


「お前のハルバードが軍事甲冑の装甲にも届いていたからな。肉を切らせて骨を断った代償だよ」

「貴公、何故そこまで……」

「言っただろ。あの反粒子一〇〇ミリグラムは俺の交渉人、妹の結婚相手、俺の未来の弟が勝ちとったものなんだ。無駄にはできない。その為なら、あれぐらいの平気平気♪」


「……敵わないな、いいだろう、全面降伏をしよう」


 フィリディーナは、諦めたように息を吐いた。


「おっしじゃあ」

「ギリシャ国のな」

「? どういうことだ?」

「どうもこうもないさ」


 フィリディーナは自嘲気味に笑う。


「元々、ギリシャは西ヨーロッパに対して降伏をする予定だったのだ。今まで戦いはギリシャ軍の連戦連勝に見えて、実は国力を無理に戦争へ投じた強引な勝利。結果、国力は衰え国内の経済は混乱の一途。圧倒的な物量戦術で西ヨーロッパ軍と日本軍と戦いもうギリシャは限界を越えた。各地の防衛の兵は最小限。今日この軍港に、残る全ての戦力を投入している」


「じゃあ」


「ああ、元からこの戦いは、如何に有利な条件で講和に持ちこむか、それを目的にしたものなのだ。我々の勝利、もしくは優勢に引き分ければ、な。だがまさか敗北するとは思わなかったよ。これでギリシャも終わりか……」


 戦女神の顔に哀愁が浮かんで、俺はその肩を抱きしめた。


「終わりじゃないよ」

「おい、貴公は何を、胸の傷に障るぞ」


 弱々しく抵抗するフィリディーナを抱いたまま、俺は耳元で囁く。


「まだ戦闘は続いている。俺がお前と交渉して講和したことにすればいい」

「待て、それではせっかくの日本軍の完全勝利が」

「桐生セツラはフィリディーナ少将と決闘。勝利したセツラはフィリディーナを殺さず講和を持ちかけた。フィリディーナ少将は部下達を助ける為、これを受諾、じゃ、ダメか?」


 フィリディーナは抵抗をやめて、俺に体重を預ける。


「……本当に、変わった奴だ。どうしてそこまでする? 貴公は美人ならば誰かれ構わず助けるのか?」


「お前が窮屈そうだったからな。お前には死ぬ前に、自由な騎士ライフを味わって欲しい」


「窮屈? 私がか?」


「ああ。味方の奇襲を聞いた時、戦いを焦ったりな。お前は俺と互角に戦える数少ない同類だからな。仲良くしようぜ♪」


 俺の腕の中で振り返って、フィリディーナはくすりと笑った。

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