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軍神VS軍神

「俺はさ、あんたを討ち取りに来たんだ」


 栗色の瞳が、同情の念を抱いた。


『可愛そうな男だ。いくら腕が良くても、上官に恵まれなければ真価は発揮できない。せめて貴公の隊に腕の良い兵站裁判交渉人がいればよかったものを』


「それは聞き捨てならないな」


 俺の胸に、サクの、未来の弟の泣き顔が浮かんだ。


「この一〇〇ミリグラムはよ、一人の男が自分の信念を貫いて勝ちとった涙の一〇〇ミリグラムだぜ。俺の為にたった一〇〇ミリグラムじゃない、一〇〇ミリグラムももぎ取ってくれたんだ。そして、この刀を」


 だから俺は、自然とフィリディーナに歯を見せて笑った。


「だから胸を張って断言するぜ、あいつは、鷺澤サクは俺にとって最高の交渉人だってな!」


『……仲間に恵まれたな……貴公の交渉人は!』


 フィリディーナが再び加速。過激な空中決闘が再開する。


『セツラ様、海上で退路を築いていた第二第四師団撤退。同時に第三師団第一第二大隊も撤退を開始しました。他の大隊はしんがりをつとめています』


 AIの報告。連中マジで逃げやがった。俺の中隊を含めて、第三師団の大半が包囲殲滅戦になる。


 生き残る方法はただ一つ。

 ここでこいつを、フィリディーナ少将を討ち取る!


『いかに通常出力の相手と言えど容赦はせんぞ! 私とて少将の身分。貴公を速やかに撃墜し、眼下の日本兵を駆逐する必要がある!』

「させるかよ!」


 俺らは互いに刃をぶつけ合い、俺はフィリディーナに食い下がる。


 甲冑の出力は待機出力(アイドル)最小出力(ミニマム)低出力(サイレント)通常出力(クルーズ)戦闘出力(ミリタリー)最大出力(マキシマム)の順に強くなる。


 通常出力の俺と、最大出力で戦うフィリディーナの運動性能差は大人と子供のソレだ。


 人工筋肉のパワーはいい。


 筋力なんてなくても、合気道の要領で相手の攻撃を受け流せる。


 けれど瞬発力とブースト出力、スピードが低いのはまずい。


 どれだけの技量があっても、相手に触れられないのでは技量を発揮できない。


 だから俺は技量でスピードをカバーする。


 まず相手の攻撃を完全に読み切り、未来予知に近い先読みで相手よりも先に動き始める。


 続いて人工筋肉一つ一つのスピードは負けても、刀を振るのように必要な全筋肉を同時に収縮、その方向にターンブーストを切って、重心移動で機体重量を乗せて地球の重力も味方につける。


 さらに最小限の動きで、刀に最短距離を進ませフィリディーナの攻撃をさばきつつカウンターの剣撃を浴びせる。


 フィリディーナのハルバードが、俺の刀が、互いの装甲を削り合う中、俺は巧みにフィリディーナを誘導。


 二〇階建ての大きな施設の近くへと誘導した。


「行くぜ!」


 ここで俺は一瞬だけ最大出力にして、フィリディーナと鍔迫り合いながらオデュッセウスを押し込んだ。


『何!?』


 俺らは施設の壁を突き破り中へ転がり込む。

 予想通り、施設の一階は巨大なホールになっていて、巨神甲冑でも立ち上がれる。


『なるほど、室内なら空と違い三次元機動による自由な飛行戦闘が出来ない。ここならば性能差を少しでも埋められるわけか。だが甘い!』


 フィリディーナがハルバードを横に薙いだのが再開のゴングだ。

 互いに地に足をつけて、足捌きも動員した近接戦闘で殺し合う。

 技量の入る余地がさらに生まれて俺は防御はそのままに、攻撃の手を増やせた。

 俺らの戦いの余波で床に片っ端からヒビが入り、壁に亀裂が入っていく。


『っ、やるな桐生セツラ! 最高に燃える戦いだ‼ ギリシャ軍内に、いや、今まで戦ったどの敵よりも貴公は強い‼ だが……』


 俺の耳に、第一師団がギリシャ軍基地を背後から奇襲し始めたという報せが入る。

 フィリディーナの顔が一瞬、辛そうに歪んだ。


『終わらせてもらうぞ!』

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