剣道十段以上 空手柔道十段以上
「何よこれ!? こんなの有り得ないわよ! あんたこれ偽造でしょ!?」
ナミカちゃんは発狂したように叫んだ。
他の交渉人は知っていたんだと思う、目を逸らして、裁判長は小声で『噂以上だな』とか言っている。
セツラ隊長の体力測定結果。各種戦闘技能系大会の優勝記録。有名選手、兵士を招いた御前試合結果。そして戦場における敵撃墜数。
誰がどう見ても偽造にしか見えない、まるでどこぞの小学生の作った『ぼくのかんがえたさいきょうしゅじんこう』の設定資料集だ。
「話を戻しましょう裁判長。この通り、こと戦いに関してセツラ隊長に敵うものはいません。あとはフィリディーナ少将と同等の武器さえあれば、確実に勝利を」
「異議あり! 総合力は上でもやはり刀剣類ならば刀剣道九段の山本清三曹長の方が」
「うちの隊には刀剣道十段の天道ウサミ中尉、ついでに空手柔道十段の須鎌マイコ中尉がいますが二人ともセツラ隊長に勝った事は一度もありません」
「へ?」
ナミカちゃんが間抜けな顔をするので、僕はとある動画を再生した。
道場の畳みの上で、道着姿のマイコさんと、刀を持った剣道着姿のウサミさんが立っている。
対するセツラ隊長は、左手に刀を持って、右手は素手だ。
二人が同時にセツラ隊長に襲い掛かる。演技じゃない、常人の動体視力じゃ追い切れない、神速の剣と拳の嵐……を、セツラ隊長は片手でそれぞれあしらい続けている。
試合開始から一〇秒後、ウサミさんの刀が根元から斬られて、マイコさんは腕を掴まれ背中から綺麗に畳みに投げ落とされた。
「はい一本。俺の勝ちね。やっぱ二人同時じゃないと練習にならないなぁ……」
「「自慢か!?」」
動画はそこで終了。
ナミカちゃんが呆気に取られている間に僕はトドメを刺す。
「それに、第一中隊が相手にするのは数は多いでしょうが普通の雑兵達ではないですか。巨神甲冑用の、それも対軍ではなく対単用兵器が必要とは思え」
「流石はセツラ大尉ね!」
急にナミカちゃんが復活して、声を上げた。
え? 何急に。
「フィリディーナ少将との一騎打ちを指名されるだけあって、本当に素晴らしいわ。本当に超人、神の落とし子だわ。彼に勝てる生物なんているわけがない、まさしく史上最強の生物だわ」
「ま、まぁね」
「じゃあ、電離分子高周波刀なんてなくてもフィリディーナを足止めできるでしょう?」
「!?」
ナミカちゃん、一体何を。
「裁判長。セツラ大尉の超人性はご覧の通りです。彼ならば電離分子高周波刀なんてなくても、あのフィリディーナ少将を足止め、いえ、討ち取ることができるでしょう。なればこそ、新兵器はセツラ大尉を無傷で敵陣奥まで運ぶ我らが受け取るべきだとは思いませんか?」
「う~ん、確かにセツラ大尉なら、これ以上の強化は必要ないかもしれませんねぇ」
「待って下さい裁判長、それは!」
「他の隊は、何か異議はありますか?」
第二第三第四中隊の交渉人は首を横に振った。
「ではこれで二審を終わります。鷺澤サク交渉人、反論は三審で。これにて閉廷致します」
っ、まさかセツラ大尉の超人性を逆手に取られるなんて。
その時、僕のすぐ横でサエコちゃんが囁く。
「サク様。カードを切る決断を」
僕は息を吞んだ。それはつまり、ナミカちゃんの経歴に引導を渡せ、という事だった。




