生まれる時代は間違っていない
「何を言っているんだよウサミ。俺程生まれる時代で当たりを引いた奴はいないぜ」
人類史上、否、宇宙開闢以来、おそらくは最強である魔人は子供のような笑みを浮かべた。
「今の時代、戦闘スペックは甲冑の性能が決める。俺の馬鹿げた身体能力も、狂った肉体強度も意味を成さない。純粋な戦闘技術のぶつかり合いだ。もしも甲冑が発明される前の時代に生まれていたら、俺は戦う相手がいなくて孤独死してたよ。じゃあ俺シャワー浴びるわ」
セツラがジャージとシャツを脱ぐと、ウサミは体の芯が熱くなった。
セツラの超人体。
限界以上に発達した筋肉は凝縮されていて、八パーセントしかない体脂肪がそれをカモフラージュするように筋肉のスジを誤魔化している。
まるで力の、エネルギーの塊に皮膚をかぶせたような熱量を、ウサミは空気越しに肌で感じた。
彼の体を何と表現すればいいのか、かつてウサミは悩んだ。
強い。そんな生易しいものではない。
硬い。それでは打撃に弱そうだ。
重い。それでは鈍そうだ。
岩のようだ。鈍重な感じする。
鋼のようだ。惜しい気がする。これも鈍重な気がする。
強くて硬くて、でもしなやかで速くて、そうだ、もっともセツラをよく表している単語は、日常生活で使うニュアンス、雰囲気の意味も込みで『強靭』だ。
強靭な皮膚はあらゆる攻撃を遮断する。
強靭な筋肉はしなやかに伸びつつも、力を込めれば鋼より丈夫に、そしてロケットエンジンのような馬力を発揮する。
強靭な骨はいかなる衝撃でも決して折れることが無く支え切る。
世が世ならば、中世時代に生まれれば腕っ節一つで天下人になり世界の王になれただろう。古代に生まれていれば、信仰の対象になり、人類の神になれただろう。
でも彼は、突然変異とも言える超人体質で生まれた桐生セツラは、何の悲劇か、誰でも超音速で空を飛び、建物の壁を素手で壊せる魔法の鎧、軍事甲冑全盛期の時代に生まれた。
一人一台携帯電話を持つのが当たり前の時代に、テレパシー超能力者が生まれた所で、誰からも尊敬されないのだ。
ウサミは同情しつつも、あまりに雄度の高過ぎる、超人体の背に見とれた。
「ほんと、いい時代に生まれたよ。戦闘センスだけなら、いつか負けることができるかもな」
ネコの惑星に、ただ一頭生まれて来たライオンは、機体に胸を躍らせた。




