主観で喋るな!
休憩を挟んで第二審。内容は勿論、僕とナミカちゃんの直接対決の様相をていした。
他の隊の交渉人は一応席にはいるけど、たぶんこの人達が口を挟む余地はないだろう。
「まず僕が言いたいのは、果たして山本清三曹長の腕に疑問があるというところです」
「なんですって?」
ナミカちゃんの目付きが険しくなる。
「僕らのセツラ大量はフィリディーナ少将と戦う、という動かしようの無い事実があります。フィリディーナ少将は卓越した指揮統制能力もさることながら、武人としての実力、彼女個人の戦力で幾度となく西ヨーロッパ軍を敗戦に追い込みました」
僕は裁判長だけでなく、他の交渉人達も見回して目くばせをした。
「そもそも僕ら日本軍第二方面隊が、南ヨーロッパ方面隊になったのは彼女が原因でしょう? この第六世界大戦が始まり、ヨーロッパは東西に分裂しました。東ヨーロッパを束ねる主要国の一つであるギリシャを落とそうと西ヨーロッパ軍は何度も進軍しました。ですがその度にフィリディーナ少将率いる軍に、いえ、フィリディーナ少将に敗北致しました。軍事甲冑に乗れば一〇〇〇の軍事甲冑を撃墜する一騎当千。巨神甲冑に乗れば一〇〇の巨神甲冑を撃破する一〇〇人力! こちらはこれほどの相手と単身戦うのですよ!?」
そこまで言って、僕はあえてクールダウンする。
「えー、調べたところによりますと、フィリディーナ少将の専用巨神甲冑。オデュッセウスは相手のエネルギー残量や稼働具合を知ることができる最強のサーチ能力を有している可能性が高いとか。さらに武器は電離分子高周波刃を持った専用ハルバード、ペネロペ。ならば刀ではありますが、こちらも同じ電離分子高周波刃でなくてどうします?」
僕はすばやくナミカちゃんを注視する。
「対してそちらの山本清三曹長は剣の達人だから刀が欲しいといいますが、剣の達人だなんて主観によるものです。そんないくらでも取りつくろえる根拠を主張されても納得できません!」
「ふっ、墓穴を掘ったわね」
途端に、ナミカちゃんが勝利の笑みを浮かべた。
「ではこれから私が、山本清三伝説をご覧にいれましょう!」
ナミカちゃんはスポットライトでも当たっているように、両手を大きく広げた。
投影ウィンドウを何枚も展開して、法廷の中央に送り込んで行く。
そこには山本清三のメモリアルが載っていた。
剣道着姿の少年や青年、どれも賞状やトロフィーを持っている。
「山本清三。剣道場の家に生まれ幼いころよりあらゆる剣道大会を総ナメにして、小学三年生にして全国小学生剣道大会優勝。中学高校も一年生の頃から全国大会で三年連続優勝。現代に蘇った剣聖としてその名を馳せ、かの宮本武蔵同様、素振りの悪力と風圧で青竹をバラバラのササラにしてしまう達人です」
「道場剣術と実戦の合戦剣術は違うよ」
「それはもちろん」
ピンと指を立て、ナミカちゃんは続ける。
「彼は一五歳から真剣を使った刀道を始め、その道でも達人と呼ばれ、剣道刀道両方で九段を取る実力者です。軍に入隊後はそうですね、甲冑剣術の指導員を務めたと言えば解り易いでしょうか? 本人の希望で前線に出てからはこの通り」
新たに展開された投影ウィンドウには、今までの各撃墜数が載っている。
それぞれの日付の横の数字はどれも二ケタ以上。三ケタも撃墜数も珍しくは無い。
数字が証明している。山本清三曹長は、紛れも無く稀代の達人だった。
時代が時代なら、間違いなく歴史に名を残しているだろう。けど、
今度は僕が勝利の笑みを浮かべた。
「ナミカちゃん。超人自慢を始めたのが君の敗因だよ!」
「は? 何言っているのよ。山本清三は各財閥の祝いの席で、奉納試合を務める程の男よ。もちろん、私の誕生日にも試合を奉納してくれたわ。それに引き換え、桐生セツラなんて名前、聞いた事も」
「入隊して日が浅いナミカちゃんは詳しく知らないだろうね。何せ、山本清三なんていう雑兵が最強だと思っているんだから」
「あんた何言って」
僕は、セツラ隊長のデータをみんなの前で展開した。
「何よこれ……」
ナミカちゃんの声は、震えていた。




