ハムスターのにらみ合いですか?
裁判長が、手元の投影画面を読み上げる。
「それでは今回の補給物資。反粒子一〇〇〇ミリグラム。量産型軍事甲冑アシガルの修理パーツ三〇機分。高機動型軍事甲冑センゴクの修理パーツ一〇機分。巨神甲冑用電離分子高周波刀。他、各種重火器の弾薬の処遇についてですが、第一中隊、二階堂ナミカ交渉人、弁論をどうぞ」
「はい」
ナミカちゃんは背筋を伸ばして立ち上がると、強気な表情で言葉を並べ始めた。
「まず裁判長にご理解頂きたいのは、今回の作戦の性質上、多くの物資を必要とするのは第五中隊ではなく我々だと言う点です。これをご覧ください」
ナミカちゃんが法廷の中央に、巨大投影画面にして展開したのは、今回の作戦の配置図だ。第四大隊は僕ら第五中隊を中心にして、その周囲に第一~第四中隊が配置されている。
さらにその回り、特に前面に他の大隊が配置されている。
これは僕ら第五中隊、厳密には、セツラ隊長を敵陣深くまで送り届ける為だ。
「大切なのは中の守りではなく外の守り。外側の隊が強ければ全てを守れますが、内側の部隊を優遇すれば、外側の隊が被害を受けます。内部で我らに守られる存在である第五中隊は、他の隊が撃墜されて始めて戦闘をする身。まず優先すべきは第五中隊周辺の隊、それも正面を守る我々第一中隊であるという点を理解して頂きたく思います」
裁判長も大きく頷く。
「なるほど、それはもっともです」
「そして!」
ナミカちゃんは僕のほうをちらりと見てから強調する。
「今回の争点である電離分子高周波刀を受け取るべきは我が隊です。前回も話した通り、我が隊には剣の達人、山本清三曹長がいます。こと剣に関しては、彼の右に出る者はいないでしょう。他の新兵器なら、セツラ大尉に譲ることもやぶさかではありませんが、電離分子高周波刀だけは譲れません!」
言いきってから、ナミカちゃんは腰を下ろした。
続く第二第三、第四中隊は、とにかく弾薬と軍事甲冑の修理パーツを要求。自分達も第五中隊を守る立場だから第五中隊よりも多くの弾薬を貰って当然。そういう主張だった。
「では次、第五中隊、鷺澤サク交渉人、どうぞ」
「はい。ナミカちゃん、じゃなくて第一中隊の主張はもっともですが、忘れてはいけません。僕ら第五中隊の役目はギリシャ最強の大英雄、フィリディーナ・フィリアージを足止めすることだと。セツラ隊長を敵陣奥まで届けるのは確かに大切ですが、一番大事な肝心かなめのセツラ隊長本人を強化せずにどうするのですか? 山本清三曹長が巨神甲冑に乗り獅子奮迅の活躍。見事セツラ大尉を敵陣奥にまで届けさぁ対決。でも武器のせいでフィリディーナ・フィアージを長く足止めすることができませんでした。なんてことになれば目も当てられません」
僕はセツキ先輩を真似して、ややまくしたてるようにしてポンポン喋った。
「決してセツラ隊長が弱いわけではありません。それはセツラ隊長がフィリディーナ少将の相手を命じられたことからも一目瞭然です。ですがフィリディーナ少将の専用巨神甲冑オデュッセウスは英雄の機体として、国からの特別な支援を受けるスペシャルマシン。機体や専用武装の性能は間違いなく一級品。比べてセツラ大尉の巨神甲冑は可能な限りカスタムしていますが、補給パーツで行った常識的な範囲です。ならば少しでも機体性能差を埋めるために新兵器を持たせるのは当然ではありませんか?」
「異議あり! フィリディーナ少将が出陣して始めて戦うセツラ大尉ではなく、最初から常に長い間戦い続ける清三曹長が長時間にわたって使ったほうが、新兵器の有効利用になります。我々と第五中隊とでは戦闘時間が違うのです! それとも戦闘が短いことを考慮してもなお、セツラ大尉に持たせる理由があるとでも?」
負けじと攻め立てるナミカちゃんに、僕は反論。
「勿論あるさ。第二審ではそのへんについて徹底的に闘論するつもりだよ!」
僕とナミカちゃんの間に、バチッと火花が散った。
僕の隣でサエコちゃんが一言。
「ハムスターの睨み合いですか」




