侵入者
第五中隊の執務室へ向かう途中。やっぱり僕の頭にあるのは、ナミカちゃんとマミさんの事だった。
子供の為にあえて嫌われて、誤解したまま親を嫌って、そんなのってないよ。酷いよ。
でもそれを他人の僕に言うなんて、きっとセバミさん自身もかなり追い込まれているんだと思う。
ナミカちゃんとマミさん。親子二代に渡る悲劇をその目で見て……
「あれ? セバミさんて何歳なんだろう?」
美人メイドの顔を思い出しながら、僕は執務室のドアを開けた。
「みんなおはよう」
「本部への報告お疲れ様です。コーヒーはブラックとブラックどちらいいですか?」
「どうせ缶コーヒーでしょ? 砂糖たっぷりのブラックで」
「そんなことよりもサク殿!」
ルイちゃんが珍しく語気を強めながら僕に詰め寄って来た。
「ど、どうしたのルイちゃん?」
「昨晩、サエコちゃんが襲われたのですよ!」
「え? サエコちゃんが? 襲ったんじゃなくて?」
「サエコちゃんをなんだと思っているのですか!?」
「確かに私が襲ったのですが」
サエコちゃんはキリッとした目で語り出す。
「昨晩、女子寮に帰宅してから、コーヒー用の砂糖を塩と交換すべく執務室に戻ったのですが」
「え? なんの為に?」
「執務室から気配を感じたのです」
無視された……
「中へ飛びこむとアサシンスーツに身を包んだ尋常ではない胸の女がいました」
そこの説明いるのかな?
「私は悪鬼羅刹が如く勢いでホルスタイン野郎に斬りかかり、マシンガンとライフルを撃ちまくりました。本当はハチの巣にしてやりたかったのですが、不利とみるや躊躇わずに逃亡。逃げられました」
「サエコちゃん、侵入者は殺さずに捕まえようね」
「犯人はおそらく他の中隊でしょう」
また無視された。
「それってどういうこと?」
「もしも敵のスパイならば、交渉人の執務室に入る意味がありません。交渉人の部屋に忍び込むのは、同じ交渉人だけですよ」
「まさかナミカちゃんが?」
「いえ、彼女にそんなことをする度胸はありません。それに監視カメラと盗聴機からは、そのような指示を出した様子が見られません」
盗聴機と監視カメラ、まだつけてたんだ……
「じゃあ他の三つの中隊のうちの誰かってこと? でもこんなの初めてじゃない?」
僕が交渉人補佐を始めて一年が経つけど、今までこんなことはなかった。
他の交渉人執務室に忍びこむなんて……悪いけど僕らぐらいのものだろう。
「セツキ様の言っていた人事異動と関係が……」
「人事異動?」
サエコちゃんは真摯な目で、落ち着き払った。




