セバスじゃなくてセバミさん
「変な事で時間使っちゃったなぁ……」
マミさんを本部へ連れて行って、近くの出口から外に出ると、駐車場の近くに出た。
軍用車が並ぶ駐車場を眺めると、その中に一台だけ、やたらと目立つ車があった。
黒塗りの高級車、コクロウ。
マミさんが乗って、メイド長のセバミさんが運転する車だ。
運転席を見ると、中にはメイド姿の女性が座っていた。
セバミさんが僕に気付いた。
無視するのもなんなので、僕はコクロウに向かって歩いた。
セバミさんも外に出て、僕へ上品な所作で頭を下げた。
「これはサク様。お久しぶりです」
うんうん。同じメイドでもサエコちゃんとは雲泥の差だなぁ。
「この前会ったばかりじゃないですか。それとさっきそこでマミさんと会いましたよ。本部への案内を頼まれたので、送らせてもらいました」
「感謝致します。できれば何かお礼をしたいのですが」
「お礼なんていいですよ」
「しかし」
申し訳なさそうな顔をするセバミさん。本当にできた人だなぁ。
「善意は謝礼をもらった瞬間、善意でなくなります。それは取引です」
「……ふふ」
セバミさんの頬が緩んだ。
「奥様の言う様に、貴方のような方がお嬢様の夫なら私も安心です」
「僕はセツキ先輩の彼氏ですから」
「男女というものは、結婚するまではどうなるかわからないものですよ?」
「僕は先輩を裏切りません!」
「一途なのですね、ますます気に入りました。流石奥様、人を見る目は一流です」
セバミさんは含みのある笑みを浮かべて、嬉しそうな声でそう言った。
そういえばマミさんって、僕とナミカちゃんを結婚させようとか思っていたよね。
なんだか引っかかる。
マミさんのイメージからすると、ナミカちゃんは政略結婚の道具にするんじゃ。
「娘を政略結婚なんてさせませんよ」
「え? 僕、口に出してました?」
「顔を見ればなんとなく解ります」
「そうですか、なんか恥ずかしいです……」
そして僕は、
「あの、ナミカちゃんとマミさんって仲悪いんですか?」
「え?」
何聞いてんの僕は!?
「すす、すいません変な事聞いて! 今のはどうか忘れてくだ」
「奥様は、お嬢様を愛しておられますよ」
「え?」
今度は僕が聞き返す番だった。
「子供は褒めて伸ばすよりも叱って伸ばした方が将来成功する。奥様はそれをよく知っているのです」
セバミさんの声が重たく沈む。
「奥様には、五歳年上の姉がおります。奥様の母、先代様は長女である姉を溺愛しました。それはもう見ている方が恥ずかしくなるような溺愛ぶりで、長女様は明るく利発で誰からも好かれる女性に育ちました。反面、母親に依存し、困ったことがあれば先代様に相談。前向きな反面希望的観測が多く。優しい反面騙されやすい方でした」
わかるような、わからないような。でも僕はそっちのほうがいい気がするなぁ。
「ひきかえ、奥様は非常に厳しく育てられました。自由は与えず英才教育を与え、一番以外は認めません。一番になってもギリギリの勝利ならば叱責。一番は当然で賞賛の言葉はありません。奥様は冷静で聡明で誰をも従える方になりました。この世の誰も信用せず、価値があるかないかだけで冷静に判断し、価値が無くなれば情に流されず切り捨てました」
それは、僕は好きじゃない。
ビジネス的には成功かもしれないけど、僕なら娘にそんな子に育って欲しくない。




