時代が変わっても……
「報告終了。早く戻って裁判の準備しないと」
朝の八時。僕は今、イタリア半島の西ヨーロッパ軍基地に来ている。
日本軍はあくまでも東西に分かれたヨーロッパのうち、西ヨーロッパの援軍として参戦している身だ。
今回、ギリシャ攻略の為の一大作戦を行うにあたり、僕はセツラ隊長に関する報告をしにきていた。
フィりディーナ少将とセツラ隊長の一騎打ちはもう決定事項だ。それを外部の人が
『本当にその人物で大丈夫なのか』という確認をする為に呼び出さないでほしい。
しかもこんな形式的なことを、立体通信じゃなくて僕本人から直接聞きたいなんて。
現代では、自分の全身立体映像を送り合って、直接会っているかのようにして話すことができる。
これで人と直接会う機会がぐんと減ると思われたのだけど……
手書きの手紙にかわってプリンターやメールが出て来た時と同じというか、
新しいものは批判される運命というか、
つまり、直接会わず立体映像を送りつけるなんて相手に失礼。手を抜いている。楽をしようとしている。という価値感が生まれた。
手書きの手紙が心がこもっていると言われるように、直接会うのは誠実さ、本気さの証で真剣な証。
立体映像で済ませるのはそれほど気持ちが入っていないと見る人が結構いる。
年配の人になると、とくに顕著だ。
「やれやれ」
これでセツラ隊長に電離分子高周波を渡すよう推薦状でも書いてくれるなら来た甲斐もあるけど、ただ形式的にセツラ隊長の凄さ、戦歴を伝え終われば『もう帰っていいよ』だ。
僕はちょっと不機嫌になりながら建物から出ると、そのまままっすぐ門を目指す。
今日は寮から直接ここに来たから、早く高速艦に乗って海上基地に戻って執務室に顔を出さないと。
「そこの貴方」
高圧的な声に振り返ると、ナミカちゃんのお母さんで、二階堂グループの総帥、二階堂マミさんが立っていた。
綺麗な黒髪に、深窓の令嬢を思わせる白い肌。紺色のビジネススーツを着て、隙の無い雰囲気は『女傑』という単語がしっくりと来る美人さんだった。
「あら貴方。たしかナミカの同僚の」
「第五中隊交渉人代理、鷺澤サクです」
うわぁ、僕この人、苦手なんだよねぇ……
だってなんか怖いんだもん。
「では貴方、私を日本軍第二方面隊本部へ案内しなさい」
「え? それならLLGでローカルネットに繋げば」
「どうして私が場所を調べないといけないの?」
「えー…………」
あれだ。この人的には移動っていうのは目的地に行くんじゃなくて、目的地に連れて行ってもらうことなんだ。
セレブの恐ろしさを知りながら、僕は苦笑いを浮かべる。
「わかりました。ではこちらに……それと二階堂さん」
「何かしら?」
「顔色が良くないようですが、もしかして疲れてませんか?」
「…………戯言はいいわ」
マミさんは、手で僕に急ぐよう促した。




