ゴミを見るような目で見ないで
目を覚ました時、僕は脱衣所のベンチに寝かされていた。
目の前にあった大きな瞳が離れる。
「ようやく目を覚ましたねサク様。鼻血を出し過ぎて気絶するほど女性の裸を堪能したご気分はいかがですか?」
サエコちゃんの目が冷たい。
バスタオル姿のサエコちゃんが、ゴミを見るような目で僕を見下ろしていた。
いや、サエコちゃんに言わせれば、僕はゴミ以下だろう。
ふと顔を上げると、僕の腰には知らないタオルがまいていた。
「!?」
ぼーっとした頭が、一瞬で覚醒する。
「こ、これは」
「まる出しはいかがなものかと思い、私とルイで巻きました。ルイは今飲みモノを買いに行っていますが遅いですね」
いやあああああ! 僕は無限の喪失感を味わいながら両手で顔を隠した。
「うぅ……もうお婿に行けない」
「サク様はセツキ先輩に貰われる予定なのでご安心を。しかしサク様も運がありませんね。ルイではなく私なら気絶せずに済んだものを」
珍しく、自虐的なことを言うサエコちゃん。僕がルイちゃんの裸で気絶したせいかな?
「そんなことないよ! 僕はサエコちゃんの裸でも絶対に気絶したよ!」
のぼせたようにだるい体で、仰向けに倒れたまま、僕は必死にフォローする。
「情けは相手を傷つけますよ? 自分に女性的魅力が欠けている事は承知しています」
「それは違うよ、だってサエコちゃんは」
お風呂に入るからだろう。今のサエコちゃんは横髪のウィッグもはずして、ショートカットの地毛だけになっていた。
「すごく髪がキレイだもん!」
サエコちゃんの頬が、一瞬で赤く染まった。目にも、いつもの冷静さが無い。
「あ、貴方は何を言って」
「だってサエコちゃんの髪ってすごい艶やかだし、手触り良さそうで僕、触りたいし頬ずりしたいしえーっと、髪にやらしいことしたいよ!」
「貴方は髪フェチですか!? この変態!」
サエコちゃんは取り乱しながら僕を怒鳴りつける。
「美人は何を着ても似合うって言うけど、髪の綺麗な人はどんな髪型も似合うって、サエコちゃんが教えてくれたんだよ。僕、サエコちゃんの学生時代のロングヘアー大好きだけど、今のショートカットも大好きだもん!」
とうとうサエコちゃんの顔が、爆発しそうなほど赤くなって、両目を釣り上げた。
「付き合いきれません!」
背を向けるサエコちゃんに、僕は手を伸ばした。
「あ、待って」
おぼつかない僕の手が、サエコちゃんの手、ではなくバスタオルの裾をつかんだ。
「「え?」」
はらり、と落ちるタオル。
振り返るサエコちゃん。
僕の目の前に、サエコちゃんが広がった。
「のわぁああああああああああああああああああああああ!」
「いやぁあああああああああああああああああああああん!」
有言実行。
僕は僅かに残った血を全て鼻から放出して、命を絶った。
その直前、ドアの隙間から楽しそうにこっちを観察するルイちゃんが見える。
鷺澤サク 享年一六歳 死因:出血多量
サ……サエコちゃんも…………すごい……




