巨大ロボVS巨大ロボ
『ぐああぁあああ!』
イラードの機体は近くのビルに背中からめり込んで、壁を貫いて、上半身がフロアの床に乗り上げてしまう。
巨神甲冑の身体能力なら、要塞でもないかぎりビルなんて紙切れだ。
でも両足が宙ぶらりんで、上半身だけビルに突っ込んでいる為、体勢上動きにくいというのはある。
そこに生まれた僅かな隙を俺は逃さない。
俺は両手の武器を背中のハードポイントに映しながら、反粒子砲を再構築。巨神甲冑は反粒子を燃料に動くが、それを弾丸としても使える。
武尊の手の平から、反粒子砲に反粒子が注入。世界最凶の威力を誇るキャノン砲が、容赦なくイラードに向けられる。
『!? や、やめ!』
『グッドラック‼』
光の波が巨人を吞みこみ、絶叫した。
イラードは周辺のビルごと消し飛び、衝撃波が収まらずさらに周囲のビルやマンションを歪めていく。
天上高く上がった光の柱が、敵に訃報を知らせるだろう。
製造に莫大なコストがかかり、なおかつ主戦力である巨神甲冑の反応が消えたのを、敵は確認したのだろう。
レーダーに映る敵陣営方角の反応が、徐々に後退していく。
俺も通信で、大隊本部に連絡する。
『こちら第五中隊。敵一個大隊を全滅、お呼び巨神甲冑を撃破』
通信機の向こうで、大隊長が喜びながらも、俺の活躍に嫉妬する複雑な声音が帰って来る。対して武尊のAIは嬉しそうに、
『おめでとうございますセツラ大尉。本日も素晴らしい戦いでした』
「あんがとさん♪」
『それに見事に私を乗りこなして、今日も激しかったです』
意味深な答えに、俺も乗っかる。尻馬に乗っかる。
「ノノとどっちがテクニシャンだった?」
『ふ、ふたりまとめてが良いです』
「複座型に改造希望か? レイに聞いてみよう」
『是非おねがいしま、セツラ様』
AIの声が硬くなる。
「どうした?」
『緊急通信です。ギリシャ方面へ向かっていた第五師団ですが』
第六次世界大戦で、ヨーロッパは東西に分かれた。
ギリシャは俺達のいるアルバニアの南で、東ヨーロッパ側についた国だ。
攻略には第五師団が向かったはずだけど、まさか、
『本日、ギリシャ軍の大規模な殲滅戦を展開。結果、味方の被害甚大。損耗率四割、事実上の全滅です』
一般に、味方の三割が死ぬと全滅、五割が死ぬと壊滅、十割が死ぬと殲滅と呼ぶ。
四割。
あまりに重い数字だ。
師団は五割が後方支援。五割が戦闘要員だから、全体の四割が死んだなら、それは戦闘要員の八割が死んだことに等しい。普通ならばそんな戦闘は有り得ない。
「理由はわかるか?」
『はい、今サエコ様と代わります』
『お久しぶりですセツラ様。状況を説明致します』
後方の中隊基地で、交渉人補佐をしているサエコが通信出る。
普段は冷静な彼女だが、声の奥に僅かな動揺を感じる。
『一番の理由は敵ギリシャ軍の数が予想の三倍だった事です。予想を遥かに超える伏兵中隊。そして敵後方から次々と投入される援軍大隊。圧倒的な数に我が隊は全滅を免れませんでした』
「でも第五師団には巨神甲冑が七〇機もあるはずだろ? うらやましい」
俺が唇を尖らせると、サエコは辛そうに応える。
『内、半数以上をたった一機の巨神甲冑に撃破されました』
俺は尖らせた唇を引っ込めて、思わず声に戦意がこもって、らしくない声音になる。
「おいサエコ。そいつはひょっとしてよ」
『はい。ギリシャ軍の英雄にして最強の女傑。専用巨神甲冑オデュッセウスを操る、フィリディーナ・フィリアージ将軍です』
「……あいつか」
フィリディーナ。ギリシャ軍始まって以来の才女と呼ばれ、最年少で少将の地位へ昇格。その後も前線から離れることなく、本部を守る最強の盾であると同時に、劣勢になるや自ら出陣し、ギリシャ軍を勝利に導いて来た戦女神だ。
その戦いぶりから、専用機の名前はオデュッセウスなのに、本人は戦女神アテナと呼ばれている贅沢な女だ。
西ヨーロッパ軍は彼女に何度も辛酸をなめさせられて、今回は援軍である日本軍が当たってみたが結果はこれだ。
『それとセツラ様……実は』
サエコが言いにくそうに、声を濁らせる。
俺は申し訳ない気持ちになって、サエコちゃんの綺麗なメイド姿を思い出して心をほぐす。
「どうしたサエコちゃん? 俺のベッドなら今夜空いてるぞ♪」
『第三師団長様が第五師団の後任を志願され、セツラ様にフィリディーナ討伐を命じると言っています』
「マジで!? もうそんなところまで会議済んだのかよ!?」
『いえ、今ルイに師団長達の通話をジャックさせているので、あ、今決まりました。第五師団の後任は第三師団です』
「うん、サエコちゃんとルイちゃん最高。愛してる!」
俺は心の中で、グッと親指を立てた。




