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部下を動かしたい

 売店の帰り、僕は重たい足を引きずりながら交渉人事務室へ戻る。


 途中で他の後方支援、一般的な事務仕事をしている人達の仕事場を通ったけど、みんな僕にあわれむような目を向けていた。


 気が重い。


 でも、第一中隊交渉人ナミカちゃんの主張を崩せって言われても僕だけじゃ無理だろう。


 この一年で分かった事は、とにかくサエコちゃんとルイちゃんが恐ろしく優秀だっていうこと。


 セツキ先輩はいつだってそうだった。


 どうやってそんな情報手に入れたの? と聞きたくなる情報を手に入れて、


 何をどうしたの? と聞きたくなるような裏工作で相手を陥れてきた。


 セツキ先輩の自身の力は当然だけど、あの二人の貢献度は決して低くない。


 問題は、どうやって僕の頼みを聞いてもらうかだ。


 あの二人はセツキ先輩のことが大好きで上司というよりも、完全に主君として仰いでいる。


 公証人ではなく、桐生セツキという個人に忠誠を誓うあの二人に、僕が交渉人代理として認めさせるにはどうするか。ここが難しい。


「ただいまー」


 交渉人事務室に戻ると、サエコちゃんは僕にはいれてくれなかったコーヒーを飲みながら投影ウィンドウでドラマを見て。ルイちゃんはアニメキャラのフィギュアを作っていた。


 業務時間なのに、この二人は……

 普段から自由人だけど、セツキ先輩がいないとますます自由になった気がする。

 僕はまず、ルイちゃんに歩み寄った。


「ルイちゃん。チョコバー買って来たよ」

「あー、そこにおいといて欲しいのですよ」


 僕のほうを見もしないで、ルイちゃんは何かよくわからない器具でフィギュアに色を塗っている。


「そ、それでねルイちゃん、ちょっとお願いがあるんだけど」

「んー、なんですか? ここをもっと明るく、んー、いい艶です」


 僕はを玉砕覚悟で、まずは行動する。


「これ、第一中隊の相手の予想戦力が三〇〇機っていう証拠資料なんだけど」


 僕が投影画面を開いて、ナミカちゃんの提出したソレを見せる。


「これが偽物である証拠が欲しいんだ。お願いできないかな?」

「いいですよ」

「いや解っているよ、僕はあくまで代理人でセツキ先輩じゃないし、代理のくせにいきなり上司ヅラするのはそりゃあおもしろくないかも……って、いいの!?」


 僕は驚き過ぎて、素っ頓狂な声を上げる。


「まぁそれでお給料もらっている身ですしねぇ」


 背後からサエコちゃんが続く。


「裁判に負けたせいでサク様が左遷されようがゲイ上官の肉奴隷になろうが私には関係ありませんが」


 え、僕裁判に負けたら肉奴隷になるの?


「貴方の敗北により、セツキ様のお兄様が戦場で敗北することだけはあってはなりません」


 ルイちゃんは色塗り用の器具を置いて、フィギュアから視線をはずす。


「というよりも、セツキ殿が代理人にわたしやサエコちゃんじゃなくてサク殿に選んだ時点で、わたしとサエコちゃんがサクの指揮下に入るのは当然ですよ」


 サエコちゃんが席から立って、ルイちゃんの隣に立った。


「「というわけで、交渉人代理、指示を」」

「ふ、ふたりとも……」


 僕は感動して、めがしらにジーンときてしまう。


 普段は僕を見下してパシリにして罵倒して殴って軽んじてないがしろにして踏みつけるけど(自分で振り返ってみると悲しい)、ちゃんと僕を交渉人として認めてくれている。


 僕は感動の涙をこらえて、二人に言った。


「ありがとう! じゃあ二人とも、ナミカちゃんの主張を論破する証拠を集めてくれ!」

「「どうやって?」」

「へ?」


 僕は素になって目が点になった。

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