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裁判とは

 裁判とは、罪人を裁く場では無い。

 多くの人が誤解しているが、刑法とは法律のごく一部に過ぎず、法律の多くは民法である。

 故に裁判の多くは刑事裁判では無く、民事裁判なのだ。


 相続問題。

 離婚問題。

 賠償問題。

 弁償問題。

 慰謝料問題。


 勘違いしてはいけない。

 裁判とは罪人を裁く場では無い、落とし所を見つける場なのだ。

 そう、そして……こんな落とし所も。



「それでは、これより兵站裁判、第三審最終弁論へ入る。今回の支給物資、荷電粒子砲七〇機、反粒子五〇〇ミリグラム、巨神甲冑八機、歩兵一〇〇人の処遇について決める」

「はい裁判長!」


 法廷の場で、第五中隊交渉人、桐生セツキが挙手する。

 モデルように高い背にすらりと伸びた美脚が目立つ少女だった。

 まだ一八歳とは思えない威厳と美貌を漂わせ、自慢の長く艶やかな黒髪を右手でかきあげてシャンプーの良い匂いを漂わせる。


「先程の第二、第四中隊の発言には重大な欠陥があります」

「なんだと!」

「証拠はあるのか!」


 第二中隊と第四中隊の交渉人が机を叩く。裁判長の男性が『まぁまぁ』となだめる。


「桐生交渉人。その根拠は?」

「はい裁判長。まず第二中隊は負傷者六七人と申告していますが」


 セツキの視線が、第二中隊の交渉人を鋭く射ぬく。


「うち、重傷者は何人ですかなぁ?」

「え、いや……」


 相手交渉人の顔が、あからさまに青くなる。


「わたくしの調査では重傷者は数名、大半は軽傷者であり再生ポッドに入るまでもなく通常の治療で問題なく、また前線に出られないというにはあまりに大げさと思われます」


「そんなことはない! 我が第二中隊の勇者達は敵と勇敢に戦い名誉の負傷を」


「つまりこの六七名は重傷で今だ生死の境を彷徨い、貴女方は友の仇を取るべくどうしても荷電粒子砲三〇機、五〇人の補充要員と巨神甲冑四機、反粒子一二〇ミリグラムが必要だと?」


「そ、そうだ、そのとおりだ!」


『明日の兵站裁判勝つぞー!』

『いえーい♪』


 セツキが起動させた投影ウィンドウ。そのボイスウィンドウからは馬鹿騒ぎをする若者達の声が流れる。

 まるで忘年会のような騒ぎっぷりだ。


「いやーすばらしい……国防の為に命を賭し勇敢に戦い名誉の重傷を負い生死の境まで彷徨う友の枕元でこれだけのスチャラカ騒ぎを起こせるなんて、本当に神経がたくましいというかワイルドというか、ダイナミックな思考をお持ちですねぇ」


「うぅっ」


 第二中隊の交渉人は押し黙り、俯いてしまう。


「続いて第四中隊ですが、これを」


 セツキの投影ウィンドウには、第四中隊中隊長が部下とおぼしき男達からお金を受け取っている映像が克明に映っている。


「彼は給料日のたびに部下へ自分の武勇伝を聞かせ、それの講習料だと言って現金を脅し取っております。第四中隊さーん。中隊長が軍法会議にかけられている間は後方支援でもしててもらえまますかねぇ?」


「ぬぐぅ……」


 第四中隊の交渉人も、歯ぎしりをして握り拳をふるわすが、何も言えないようだ。

 第三中隊は二審の時点で物資は最低限でよしと判断されて、というかセツキの裏工作によって判断されて退出済み。

 裁判官の目は自然と、残る第一中隊の交渉人、二階堂ナミカに向いてしまう。


「わ、我が第一中隊は虚偽の申請も犯罪も犯しておりません!」


 ナミカは顔を真っ赤にして、ツインテールを振りみだした。


「えぇそのとおりですよナミカさん、貴女は何もしていません。貴女も貴女の隊も貶められるような事はなにもしていない善良そのもの。貴女のアイデンティティであるツインテールのウェーブ具合も完璧、朝からケーキバイキングに行く程お腹の調子もいい」


「なな、なんでそれを!」


 机をこどもっぽく叩きながらナミカは動揺する。


「ですが裁判長」


 セツキは席を離れ、裁判長のいる正面の席へと歩み寄る。

 セツキは甘えた声で言う。


「果たして第一中隊にそれほどの戦力が必要でしょうか?」

「と、いうと?」


 裁判長の優しそうなおじさんは、首を傾げる。


「我が第五中隊の進行先には難民孤児達のいる孤児院があります」


 マザコンの裁判長の眉が、ぴくりと動く。

 セツキは嘘泣きをしながらハンカチを取り出した。


「裁判長! この孤児院の子供達は母親との再会を心待ちにしております。今もどこかの避難所にいる母親もお腹を痛めて産んだ可愛い我が子に会う日をどんなに待ち望んでいるか!」


 幼い頃に闘病中の母の介護をしていた裁判長の目に涙が浮かぶ。

 セツキのハンカチは目尻に添えるだけ、ボロボロとこぼす偽りの涙は拭かずに感動を誘うアクセサリーとして利用しながら彼女は語る。


「わたくしは第五中隊の名誉や武功などどうでもよいのです! ただ今もいつ敵に見つかり襲われるかも解らない中、恐怖に怯える幼き無垢な子供達に一日も早い安心と安寧を享受してもらい母と再会させてあげたいだけなのです! その為にはどうしても我が隊には一機でも多くの巨神甲冑が! 一ミリグラムでも多くの反粒子が必要なのです! 裁判長殿! 孤児院の幼子達には母の愛が必要なのです!」


 幼い頃に母親を亡くし、叔父の家に預けられた子供時代を過ごした裁判長は、顔を歪めて涙を流しながら感動で打ち震える。


 セツキは泣き顔を隠そうとうつむいたフリをして胸元のボタンを二つはずす。

 自他共に認める豊かな形良い爆乳が見事な谷間を作った。

 右手のハンカチを目尻に添えながら左腕で下乳を持ちあげて胸を強調しながら、


「公明正大なる裁判長におかれましては、どうぞご賢明な判断を」

「判決!」

「ぬぇえええええええええ!?」


 裁判長が叫び、ナミカが悲鳴をあげる。


「第五中隊には荷電粒子砲四〇機、巨神甲冑六機、反粒子三〇〇ミリグラム、歩兵四〇人を補充する!」


 ナミカはもう、KO寸前のボクサーのように震えるばかりだ。


「そそ、そんな……あうぅ……」


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