第91話:だからこれからも
……頬を撫でる風が気持ちいい。
それに潮の匂いが強い。これは海上に雨が降ってる証拠だ。
ならこっちに雨が来るのも時間の問題かな。洗濯物とか取り込まないと。
ジンさんってば放って置くとすぐ洗濯物ため込むんだから。
あぁでもベッドが私を離してくれない。
この安心のぬくもりと安定感。
なにより目を瞑ってても感じられる私を包む優しい魔力。
(……?)
あれ、これはベッドとはちょっと違うような?
そもそも私いつベッドに入ったんだっけ?
えっと、確かお祭りのレースの途中で翼竜の襲撃があって私はそのボスと一騎打ちをして、それから……。
「はっ、そうだ。魔物たちはどうなったの?みんなは無事??って」
慌てて飛び起きようとしたけど、身動きが取れなかった。
代わりに目を開けるとジンさんの顔がすぐそばにある。
「気が付いたか」
「えっと……」
「まだ動くな。傷の治療中だ」
「は、はい」
私はどうやらジンさんに横抱きにされているらしい。
えっと、どうしてこうなったんだっけ。
「あの師匠。状況の説明をお願いして良いですか?
魔物の襲撃はどうなったんでしょう。街は無事ですか?」
「ああ。お前が見事ボスを倒してくれたから残っていた魔物は散り散りに逃げて行ったよ。
街の被害も大した事無いだろう。
今頃は冒険者を中心に掃討作戦が始まってるところだろう」
「そうですか。良かったです」
無事にみんなを守れたのは良かった。
ほっとしたところで改めて周囲の確認をしてみれば、今いる場所は街の西の海上。
多分ボスと戦ったあたりからそう離れてはいないと思う。
ジンさんは私を横抱きにしつつ私の傷の治療と魔力補給をしてくれてる。
普段は私がおんぶしてるのに立ち位置が逆なのがちょっと面白い。
ただ街に戻る素振りが無いのはなんでだろう。
近くには私達以外誰も居ないし、待ち合わせって訳でもなさそうだけど。
「師匠。帰らないんですか?」
「ああ、そうだな。
リーン。ぼちぼち自力で飛べるくらいまで回復したか?」
「え?えっと、はい。大丈夫だと思います」
ボスに切られた脇腹も肩も血は既に止まってるし痛みもちょっとひりつくくらいで動くのに支障は無い。
魔力もこれからもう1戦しろって言われたら困るけど飛脚術で街に帰るくらいは余裕だ。
「よし、じゃあ先に帰ってるぞ。お前はゆっくり帰って来い。ああできれば雷纏を発動させながらな」
「って、え?」
ジンさんは宣言通り私をその場に放り出すとさっさと街に戻って行ってしまった。
折角なら連れて帰ってくれればいいのに。
それに雷纏を発動させながらって、もしかして実はまだ街になにか危険が残っているのだろうか。
でもゆっくりって言ってたし急ぎって事は無いんだろうけど、じゃあ一体何なのか。
うーん、考えても分からないな。
仕方ないので私は雷纏を使いながら飛脚術で街の方に飛んでいった。
上空から確認した限り、幾つかの家屋は翼竜が墜落したのか一部が倒壊していたけど、地上で激しい戦闘があったような痕跡は見当たらない。
火の手も上がっていないし本当に街はほとんど被害ゼロで今回の災害を乗り切ったみたいだ。
ただ。
やっぱりまだ終わっていないのか広場には大勢の人たちが集まっている。
その中の誰かが私に気が付いたのか大声を上げながら私を指さすとそれに倣ってその場の全員が私を見て手を振ったりしている。
どうやら私を呼んでいるようだ。
よく分からないけど、広場の中央に場所を開けてくれたのでそこに降りていく。
すると拡声の魔道具から王都を出るときにも聞いた声が響いてきた。
『ご覧ください。英雄の凱旋です!!
魔物たちのボスを倒し見事生還した雷姫リーンに皆様盛大な拍手をお願いします!』
「「わああああああああっっ!!」」
「「ありがとう!!」」
「お前ならやってくれると信じてたぞ!」
「リーン様~~」
拍手と共に多くの歓声が私を包む。
ここに来てようやく事態が飲み込めてきた。
それとジンさんがどうして雷纏を発動させながら戻って来いって言ったのかも。
こうして私は雷神公の後継者としてみんなから受け入れられたのだった。
それから。
被害も大した事が無かったこともありすぐに街の復興はなった。
むしろ普段はあまり手に入らない翼竜素材が大量に手に入ったので前以上に街は活気に溢れている。
それは、まあ、良い事なんだけど。
私には一つ大きな問題が起きていた。それは。
「よお、雷姫リーン」
「おはようございます雷姫様!」
「きゃあっリーン様に会えた!今日は素敵な一日になりそう♪」
「リーン様、こっち向いて~~」
「あ、はははっ。……はぁ」
あの時の映像は全国放送だったのでどこに行っても声を掛けられる。
翼竜との戦いの時に仮面も邪魔だと外してしまったのも良くなかった。
お陰で顔までバッチリ知られてるし今更仮面で顔を隠しても手遅れだろう。
「うぅ~師匠。何とかしてください」
「諦めろ。有名税みたいなものだ」
「あ、もしかして師匠がずっと仮面を着けてたのってこの為だったりしません?」
「……さあな」
そっぽを向いて誤魔化すジンさん。
呪いを抑えるだけなら仮面以外にも方法はあったかもしれないのに敢えて仮面を、しかも今も被り続けているのにはそう言った理由もあったのかもしれない。
「ま、そんなことよりも、だ。
これで名実ともに雷神公の後継者になれた訳だが、お前にとってそれは通過点でしかない。
そうだな?」
「はい!」
そうだ。
雷神公の後を継ぐっていうのは名前だけじゃない。その志も含めてだ。
だからこれからも私は冒険者としてひとりでも多くの人を助けられるように全力で駆け抜けよう。
師匠も私の活躍を見守っていてくださいね。
これにて第1部(2部はないかもですが)完結となります。
ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
本当はタイトルにある通りもっと空中戦やら空からの救援を行うシーンを盛り込もうと思っていたのですが、こんな感じになりました。
その辺りは後日談かなとか勝手に思ってます。
あとはオンブラが暗黒龍の力をもっと蓄えて全身を龍の姿に変えれるようになってから里帰りするような話も考えていたのですが、そちらも機会があればということで。
次回作はまだどれにするか決めかねていますが、何かしらは投稿していきますので,
今後ともお付き合い頂けると幸いです。
m(_ _)m




