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第89話:ちゃんと生きて帰ってくるのよ

雷纏を発動させて空を駆ける。

最初の頃に比べればかなり魔力消費を抑えられているし体力の消耗もそこまで多くない。

と言っても他の魔法に比べたらまだ多いんだけど。

でも速さを考えればその燃費の悪さも目をつむれる。


「港湾都市が見えた。

良かった。まだ火の手は上がってない。街は無事だ」


手遅れという最悪の事態は回避出来た。

なら後はこれから上陸してくる翼竜達を押し返せれば私達の勝ちだ。

私は道中で受け取って来た花束を手放し、ついでに邪魔な仮面も捨てて戦況を確認した。

私の相手は……あれだね。

上空を走る私より更に高い位置を飛ぶ翼竜の群れ。

それに向けて私は更に加速しながら突撃した。


「ギアッギヤッ」

「ガアッ」


私の姿を認めて騒ぎ始める翼竜達。

でも。


「もう、遅い!」


先頭の1体に接近した私は止まることなくすり抜け様に首をはね飛ばした。


「次!」


空中を蹴り飛ばして方向転換をして横に来た1体の右翼を根元から切り落とした。

この高度から落ちればたとえ翼竜でもひと溜まりもないだろう。


「まだまだっ」


更にジグザグに跳びつつ翼竜達を倒していく。

よし、この速度ならこいつらは付いてこれないみたい。

足を止めなければほとんど一方的に攻撃が出来る。

そうして1分足らずでその場に居た翼竜の撃墜に成功した。


「はあっはあっ」


身体が重い。

雷纏による連続攻撃は私の魔力と体力をゴリゴリと削っていく。

これでもジンさんに預かったこの剣があるから何とかなっている。

この剣の最大利点は、威力もさることながら燃費の良さにある。

まだ未熟な私では雷纏で攻撃するとそのほとんどの魔力を消費してしまう。その点、この剣を使えば剣に使った分だけで済む。

それでも翼竜が一撃なのだから雷纏の凄さ、というよりは過剰攻撃っぷりがよく分かる。


「って、やば!」


一息ついて撃墜した翼竜達を見送ろうと思ったらその先には港湾都市が。

この高度から翼竜の巨体が落ちればそれだけで家は崩れるし人の上に落ちたらひと溜まりもない。

慌てて雷纏を再発動させて追い掛けようとした私の視線の先で、ふわりと翼竜達が受け止められた。

そのままゆっくりと何もない道の真ん中へと軟着陸していく。


「あれは、オン君だね」


レースの救護班の時に見せたオンブラ君の風魔法があの時とは比べ物にならない精度と威力で街を守っていた。

その風が一瞬形を変えて矢印となり西を示した。


(地上のことは任せて下さい)

「うん、ありがとう。行ってきます」


私は小さくお礼をいった後、西の空に突撃を再開した。

飛んでくる翼竜はまだまだ沢山いる。

問題は数もさることながら、全部が私に向かってくる訳じゃないことだ。

むしろ私が相手できるのなんてごく一部。

ほとんどが私の横をすり抜けて行ってしまう。


「くっ、この」

「リーン、上から来るわ!」

「っ!」


聞こえてきた声に咄嗟に横に跳べば、私のすぐ横を直滑降に突撃してきた翼竜が通り過ぎた。

その背中を追いかけるように何本も矢が突き刺さり、翼竜は墜ちて行った。

私を助けてくれた声の主は。


「パンターナさん」

「はぁい、リーン。ひとりで突っ込み過ぎよ」

「うっ。ごめんなさい」


まるで街中でばったり会ったかのような気軽さだけど、その手に持つ弓は今も周囲の翼竜に向けて放たれている。

気が付けばどっちを見ても翼竜が居て私を狙っている。

どうやら焦って一人で敵のど真ん中まで来てしまっていたようだ。

そんな私を追いかけてパンターナさん達もここまで来てしまったらしい。


「無茶し過ぎとか、もっと私達の事も頼りなさいとか、言いたい事は沢山あるけどさ。

今は1つだけにしてあげる」

「えっと、何でしょうか」


首を傾げる私にパンターナさんはスッと西の空を指さした。

そこには翼竜を一回り大きくして身体を真っ黒に染め上げた龍が居た。


「あれは、まさか暗黒龍?」

「違うわ。あれはブラックワイバーン。別名『黒龍もどき』よ。

暗黒龍のように呪う力は無いし、肉体的な強靭さも翼竜より上だけど龍種には全然届かない、酷い謂い方だけど中途半端な存在ね」

「……弱くは無いんですよね?」

「まあね。この翼竜たちのボスになれるくらいなんだから。個体脅威度Bはあるわ。

だから何が言いたいかというと」


そこまで行ってパンターナさんはニィっと笑った。


「ここは私達に任せてあなたはボスを倒してきなさい。

雷神公の後継者を名乗るなら黒龍もどきごときに勝てないなんて言わせないわよ」

「……分かりました。パンターナさんもお気をつけて」

「ふふんっ。安心しなさい。こっちはこんなこともあろうかと今回はフル装備で来てるんだから。

今ならボス魔鳥の群れだろうが翼竜の群れだろうが全部射落としてみせるわ!」


言ってるそばからまた1体翼竜が頭を矢に貫かれて落ちていく。

そっか。パンターナさんは弓使いだったんだ。

短剣の私と違ってかなり広範囲の翼竜を足止め出来るみたい。

近付いてきたのには他の槍や鞭を持った人たちが危なげなく倒している。

この調子なら本当に任せておいても大丈夫だろう。


「じゃあ行ってきます」

「ええ。ちゃんと生きて帰ってくるのよ」


ふふっ。ちゃんと生きて、か。

なんだか港湾都市に初めて来た頃を思い出すな。

あの時も冒険者ギルドに居た人たちに生きて帰ってくることが何より大事だって言われたっけ。

相打ちは50点どころか0点。むしろジンさんがあの世まで追いかけて来て説教されるかも。

……あーうん。ジンさんなら本気で出来そうとか思ってしまった。

これは何が何でも死ぬ訳にはいかない。

残り魔力は2割くらい、かな。

思ったより残ってると言いたいけど格上の魔物相手には全然足りない。

それでも絶対に倒して生きて帰ろう。



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