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第87話:逃げるのか戦うのか

空が割れる。

その異常現象は間違いなく凶悪な魔物が現れた事を示していて、何より空を飛んでいた私は何が起きているのかすぐに確認出来てしまった。

それは10年前に実際に起きた、今でも吟遊詩人達の語り種となっている災厄。

昼間なのに西の空が黒く染まっていく狂気。

染めているのは霧でも雲でもない。夥しい程の翼竜の群れだ。

それが明確な敵意を持ってこちらに向かって来ていた。

まるで10年前に討伐された復讐だとでも言うように。

そこまで確認した私は急いで地上の町に降り立った。


「皆さん大変です!翼竜の群れが西から来ます。急いで避難……あれ?」


私が声を掛けるまでもなく、町中にサイレンが鳴り響き、大勢の大人たちが大声を上げて通りを走り回っていた。


「大型弩弓の準備急いで」

「戦えない老人や子供たちは防空壕へ!」

「チンタラしてんな!走れ走れ!!」

「火の始末を忘れるなよ」

「これは演習ではない。繰り返す。これは演習ではない」

「慌てるな。俺の計算ではまだ1時間は余裕がある」


えっと……。

一体何が起きてるんだろう。

町の人全員が自分が何をすべきかを分かっているかのように迷いなくキビキビと動いている。

それは小さい子供たちだってそうだ。

普通なら突然災害が発生したらパニックになりそうなものなのに、誰一人泣き出さず自分たちに出来る事をせっせとやっている。

まるで今日のことを予期してずっと前から何度も練習してきたかのようだ。

と、驚いている私に通りすがりのおじさんが声を掛けてきた。


「おう、リーンちゃん。まだこんなところに居たのかい」

「え、あ、いえ。それより皆さん逃げないと」

「はっはぁ。心配ありがとうよ。

だけど見ての通り、俺たちだってこうして災厄に立ち向かうためにずっと準備してきたのさ」

「ずっと?」

「おおよ。5年以上前から時々『災厄はまた起きる。今度は守れないかもしれない』って悔しそうに言って去って行く奴がいてな」


それジンさんだ。間違いない。


「可笑しなことに誰もそいつの言葉を最初から疑っていなかったんだ。不思議だよな。ははっ。

そして町の皆で話し合ったんだ。逃げるのか戦うのか。

結果として守られるだけとか情けない。むしろ今度は俺達が守る側になろうぜってことになった。

そこからずっと翼竜を仮想敵に定めて防衛と迎撃の訓練を全員でずっと続けてきたんだ。

だからよ。

俺達の事は気にせず、リーンちゃんはリーンちゃんのやるべき事をやってくれ」


おじさんはニカッと笑って私の肩を叩いた後、急ぎ通りの向こうへと走って行った。

そうか。

ジンさんはそんなに前からずっと準備してたんだ。

それに今回港湾都市に残ったのもいつでも迎撃に出れるようにするためだったんだろう。


「守られるだけとか情けない、か。ほんとそうだ」


10年前。私はただただ守られるだけの存在だった。

でも今は違う。

私は誰だ。ただのか弱い女の子ではないでしょ。

災厄を前にしてただ見ているだけなんてありえない。

私は。


「私は雷神公の後を継ぐ者なんだから」


瞬間、雷纏を発動させた私は一気に西の空へと飛び出していった。


……


一方。

王都からも異常現象は確認出来ており、何よりレースのために各地に設置していた観測の魔道具のお陰で誰の目にも状況は明らかだった。

祭を楽しんでいた人達は慌てふためき我先にと逃げ出していた。

それを見た国王が急ぎ部下に指示を出す。


「第1騎士団は王都の守りを堅めよ。

第2第3第4騎士団は魔物鎮圧の為に装備を整え次第出撃。

王都守備隊は国民の避難誘導を行え。

またもしこの期に火事場泥棒するような者がいたら厳罰に処すと告知しろ」

「ははっ」


兵士達も突然の事態に急ぎ対応を始めるが規模が大きい分、初動に時間がかかる。

それを見越したように王都から荒くれ者の一団が出撃した。


「む、あれは……」

「冒険者です。身軽さでは彼らに分がありますから」

「そうか。だが彼らに甘えてはならんぞ」

「心得ております」


そう答えた側近は広場に設置された巨大スクリーンに視線を向けた。


「レースの中継の為にと設置させた撮影の魔道具が役に立ちましたな。

お陰で現地の状況が手に取るように分かります」

「ふっ。そもそもこのレースが魔道具を設置するための口実に過ぎんのだ。

レースも祭も全ては今日の為に用意されたのだからな」

「陛下のご慧眼には感服致します」

「……それより王子達に陣頭指揮を取らせろ。

現場を学ぶまたとない機会だ。

ただし邪魔になるなら蹴り飛ばして構わんと将軍達に伝えておけ」

「ははっ」


一通り指示を出し終えた後、国王は西の空を一瞥してから城へと戻っていった。

なにせこれだけの人員を動員したのだ。

今頃文官達がせっせと書類の山を積み上げて居ることだろう。


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