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第86話:そんなこと言ってる場合ですか!!

【オンブラ視点】


祭前日の昼過ぎ。


「それじぁあ行ってきます」


リーンさんがレース出場の為に港湾都市を飛び出して行くのを僕と師匠は揃って見送った。


「……別に一緒に行っても良かったんだぞ?」


師匠はため息混じりにそう言ってくれた。

なにも心配せずに楽しんできなさいと。

その気遣いは嬉しいけど、僕は頭を振った。


「見送るよりも迎える方が好きですから」

「今のお前ならスタートを見届けた後で先回りしてゴールするところを迎える事も出来るだろう」

「この翼で空を飛んでですか?

それは折角のお祭りに水を差すというものでしょう」

「まぁそれもそうだがな」


僕の背中に生えた黒い翼。

最初こそ満足に動かせなかったけど、今なら自由自在に空を飛ぶことが出来る。

なので寄り道をしながら飛ぶリーンさん達より先に港湾都市に戻って来ることは可能だ。

でも暗黒龍を彷彿させる黒い翼を町の人達が見たら何事かと不安を覚えてしまうだろう。

だから僕はリーンさんと一緒に行かないことにしたんだ。

それに実は理由はそれだけではない。


「……」

「何か見えるんですか?」


リーンさんを見送った後、じっと西の空を見つめる師匠。

僕もそれに倣って西の空を眺めてみたけど、別に何があるわけでもない。

師匠は空から目を離すと僕の頭に手を置いた。


「何でもない。

それより祭は明日だ。

リーン達が戻って来るのは昼過ぎになるがレース以外にも屋台とかは出るからな。

俺達はそっちで楽しむ事にしよう」

「はい」


それは子供は心配しなくていいと聞こえるんだけど、師匠の事だから問い詰めても教えてはくれないだろう。

そして翌日。

街の広場に設置された巨大スクリーンにリーンさん達の様子が映し出された。


『さあ、蒼天杯、まもなくスタートです!』


スターターの合図で一斉に飛び出すリーンさん達。

今回のレースはお祭り色が濃いので他を妨害する人は居ないのでまるでダンスのように揃った動きで綺麗だった。

まぁ、リーンさんだけは翼で飛ばないので違う動きをしてたんだけど。

それはともかく、レースは次の中継村に辿り着くまで

見所はない。

なのでその間に僕たちは屋台をまわる事にした。

そんな時、聞き覚えのある声が僕たちを呼び止めた。


「元気そうねトール。オンブラ君も久しぶり」


そう声を掛けたのはぺスタさんだ。

ぺスタさんの顔を見るなり師匠は気まずげに頬を掻いた。


「よ、よおぺスタ。こっちに来てたのか」

「ええ。誰かさんが目覚めたのに連絡のひとつも寄越さないからお祭りついでに来ちゃったわ」

「悪かったよ。ちなみに俺が起きたのは誰から聞いたんだ?」

「ラフィカさんよ」

「あーそうか。まぁあいつの性格からしてそうだよな」

「まったく。クランハウスに来たと思ったら土下座で『あの人の子供を生ませて下さい』ってお願いされる身にもなって欲しいわ」

「すまんな。もし次に呪いの影響で倒れることがあれば、なんて約束をしてたからな」


んん?

いったい2人は何の話をしてるんだろう。

確か2人は夫婦だって事だけどそれに関係することかな?子供とか言ってたし。


「それはまた後で話すとして。

どうやら間の悪い事に早ければ今日、遅くても明日になりそうだ」

「……そう。何とか事前に防げないの?」

「遅らせることは出来ると思うけど、結局後からより大きくなって来るだけだ。

なら小さい内に叩いておいた方が良い」

「はぁ。まあそうね」


また2人で良くわからない話ををしてる。


「あの師匠。いったい何があるんですか?」

「起きたら分かる。それまでは祭を楽しむとしよう。

ほら、リーンが最初の村に着いたみたいだぞ」


またはぐらかされてしまった。

スクリーンには到着した選手達が村の人から歓迎されている姿が映し出されていた。

そのなかでもリーンさんは特に皆から親しまれてるように見えて自分の事のように嬉しくなる。

隣を歩く師匠も嬉しそうだ。


「リーンさん人気者ですね」

「この一年さんざん連れ回したからな。

護る相手が知り合いかどうかってのは意外とバカにできない影響があるんだ」

「なるほど」

「それで天狗になって腐る奴も居るがあいつは大丈夫だろう。

と、それより雷神焼き食おうぜ」


師匠は楽しそうに近くの屋台へと突撃していった。

そうしてお腹も膨れある程度お祭りも楽しんだ頃。師匠は腹ごなしついでに散歩するぞと郊外へと向かい僕らもそれに付いていった。

向かった先は以前雷神公の話を聞かせてもらった慰霊碑のある高台。

そこには何故かあの時同様に何人もの年配の冒険者達が僕らが来るのを待っていた。


「よお、早いな」

「そっちこそ。まだ祭は始まって無いぜ」

「1番気になるのは俺達の出番があるかどうかって所じゃないか?」

「ははっ、そうかも知れないな」


そんな軽口を叩き会う師匠達。

そしてここに来てようやく僕もこれから何があるのかを理解し始めた。

西の海上。一見穏やかな海が広がって居るだけに見えるけど、実際は魔力が竜巻のように渦を巻いているのが分かる。

これきっと師匠の修行で成長出来たから分かったけど、以前の僕だったら漠然とした不安を感じられるかどうかって所だろうな。

つまり街の人達はまだなにも気づいては居ないってことだ。


「師匠。急ぎ街に戻って避難勧告を出した方が良いんじゃないですか?」

「まだ何も起きていないのにか?」

「だってあれはいつ爆発してもおかしくないですよ!?」

「みんな祭で盛り上がっているのにか?」

「祭って。そんなこと言ってる場合ですか!!」

「言ってる場合なんだよ」


僕が何を言っても師匠はまともに取り合ってくれない。

師匠は今日1日どこか変だ。

まるで……そう、まるでこれから起きる災害を待ち望んでいるようにさえ思える。

ならここは師匠に頼るべきではないのかも。

踵を返して街へ駆け出そうとした僕は、しかし師匠に腕を掴まれて止められてしまった。


「まあ待て」

「離して下さい!」

「今から街に戻っても何もならん。見てみろ」

「ああっ……」


師匠の指し示す先。西の空に亀裂が走り、そこから禍々しい魔力の暴風が吹き荒れていた。


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