第85話:もしかしてその為に?
そしてあっという間に1月が経ち、イベント当日を迎えた。
今私は王都前に作られた特設会場の選手控室に来ている。
私の周りは全員鳥族で知った顔は……あ、パンターナさんだ。
「おはようございます。パンターナさん」
「え、誰?」
私を見たパンターナさんは顔を顰めた。
「ひどい。まだ2か月くらいしか経ってないのに」
「いやそんな仮面の人に知り合いは居ないから」
「え、あ」
そうだった。
実は今日私は仮面を着けて参加してるんだった。
慌てて仮面を外して改めて挨拶した。
「すみません。リーンです」
「うん知ってた。声で誰か分かるし。でもなんで仮面?」
「それはその、雷神公に敬意を表してといいますか」
「ふむ。まあ良く分からないけどいっか。
それより今日はお祭りみたいなものとはいえレースはレース。
前回は負けたけど今回は勝たせてもらうよ」
「はい。でも私も今回は負けられない理由があるので全力で行かせてもらいます」
「うん。そうこないと」
私たちは力強く握手を交わして闘志をぶつけ合った。
そして間もなくレース開始だ。
係員の案内に従って会場へと移動した。
「「わあああああっっ」」
姿を現した私たちを見て観客席から歓声が上がった。
多分王都で手の空いている人はほとんど来ているんじゃないだろうか。
元々は『蒼天』クランが旗を振って開催したこのお祭りも第2回から国が主催になったので規模が数倍になったらしい。
あ、貴賓席にいるのはレムスの時の王子だ。名前は……なんだっけ。まあいいか。
ちなみに観客席にジンさんもオンブラ君も居ない。
ふたりは港湾都市で私たちのゴールを待っててくれている。
またここにいる人たちの一部も私たちがスタートした後に飛行船に乗って港湾都市に向かうそうだ。
私たち選手は途中の村や町に寄るのでそれで十分に先回りできる。
ただ飛行船は高いし数に限りがあるので金持ちか貴族しか乗れない。
残りの人たちはここで撮影の魔道具からの映像と実況の声を聴いていくことになる。
『皆様お待たせしました。
第5回『蒼天杯』まもなくスタートです。
実況は私、ウーギスが、解説はナルチェスでお送りします』
『ナルチェスです。よろしくお願いします』
『今回は参加選手252名中251名が鳥族を中心とした翼をもつ種族。そしてひとり人族から参加しています』
『Cランク冒険者のリーン選手ですね。
情報によりますと2か月前に【風のたまり場】で行われた最難関レースで優勝した凄腕です。
飛脚術で空を飛ぶ独特のスタイルだそうです』
『ナルチェスさん。
飛脚術はどんなスキルなんですか?』
『はい。単純に言えば空中に魔力で足場を作ってその上を走るものです』
『つまり飛行というより空中歩行に近いものなんですね』
『そうです。なので鳥族の翼で風を掴んで飛ぶのとはずいぶんと違います。
どちらが上とは言いませんが、飛脚術は魔力消費が多いのでリーン選手が王都から港湾都市まで魔力が持つのかも気になるところです。
速度を上げれば当然その分、消費も加速度的に増えますからね』
『なるほど。
そのリーン選手、今日はなぜか仮面を着けての参加です。
と。さあ、スターターが壇上に上がりました。レースは間もなくスタートです』
居並ぶ私たちの横に建てられた櫓に真っ赤な旗を持った男性が上がった。
それと同時に音楽隊によるファンファーレが鳴り響く。
パーパラパー♪パパパー♪パラパパー♪
ジャジャジャジャン!
そしてスターターが持っていた旗を大きく掲げ、そして振り下ろした。
それを合図に私たちは飛び出した。
『さあスタートです!』
『みんな奇麗な飛び上がりですね』
『えー飛行船に乗られる方は誘導に従い移動をお願いします。
こちらでは引き続き撮影の魔道具からの映像をお楽しみください』
『屋台なども出てますからね。レースを観戦しつつ今日という日を盛り上げていきましょう』
そんな声を後ろに聞きながら空中に上がった私たちはそれぞれのルートに従って分かれつつ最初の町を目指した。
「えっと、私のルートにある最初の町は……あっ」
そこは私にとって見慣れた町だった。
なにせこの1年近く何度も郵便配達で通過していたしその度に各所によって町の人たちと交流を持ってきた。
飛んできた私達を見て歓声を上げている人の中にも顔見知りの人も沢山いる。
「リーンちゃ~ん!」
「頑張って!リーンさん」
「格好いいぞ~」
「今までありがとう~~」
多くの声援に手を振って答えつつチェックポイントの町の広場に降り立ち用意された小さな花束を受け取り次の町へと向かう。
その後にたどり着いた町や村も何度も訪れたことのある場所で、誰も彼も楽しそうにそして嬉しそうに私に手を振り、更に何人かは拝むように私にお礼を言う人までいる。
楽しそうなのは分かるけど後のは?
その答えは3つ目の町のチェックポイントに着いた時に分かった。
私が回収する花束にメッセージカードが挟まれていたの。
『大恩ある雷神トール様と
その弟子リーン様へ』
たったそれだけが書いてあった。
雷神公は災厄の時に死んだ事になっている。
けどやっぱり災厄の前からジンさんの事を知っている人はあの仮面くらいじゃ正体を隠すことは出来ていなかったみたい。
それでも今までその事をおくびにも出さなかったのは、多分隠そうとしているジンさん意を汲み取ってくれていたのかな。
王都から西側の町はどこも災厄の時に『蒼天』が救援に入ってるし、私のように直接ジンさんに助けられた人も何人もいるだろう。
その人達の感謝の気持ちは10年経った今でも色褪せてはいない。
その事がこうして改めて周っているとよく分かる。
それに今では私にとっても町の人たちは顔見知りで赤の他人じゃないし、あの人たちが元気で居られていることが自分の事のように嬉しい。
ただ。そう思うのも私がジンさんの指示で町を周って親しくなったからだ。
(……もしかしてその為に全部の町を巡るように指示していたのかな?)
ありそう。
ジンさんって結構そういうこっそり仕込むの好きそうだし。
そうして内心ほっこりしながら西を目指していた視線の先で、空を切り裂くように亀裂が走った。




