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第83話:最初から名乗って貰えてたら

ひとまず暗黒龍を倒した所までを話したジンさんは散歩がてら海岸に移動しつつ話を続けた。


「ここからは聞いた話になるが、暗黒龍と相討ちになって海に落ちた俺はこの辺りに偶然流れ着いたらしい」


そう言って砂浜を軽く蹴るジンさん。


「らしいというのは?」

「その時には既に呪いが俺を蝕み始めていたからな。

ぺスタが慌てて王室からあの仮面を借り受けてきて一命を取り留めたが、それから1年間俺は寝たままだった。

だから災厄直後の復興に俺は携わってないんだ」

「そうだったんですね」

「雷神公を大々的に英雄化したのもぺスタらしい。

被害を受けて絶望している人達には希望の象徴みたいなのが有るのと無いのとでは大分動きが変わるからな。

当の俺は1年後に起きたは良いものの、当時はまだ全然呪いへの耐性が無いもんだから寝たきり状態だ。全く噂の英雄とは程遠いな。

まぁ動けないなりに俺の個人資産の全てとクランの共有財産の半分を使って復興支援事業に乗り出したす提案をしてはみたものの、結局実働は俺以外の『蒼天』のメンバーだ。

立って動けるようになったのは更に1年が過ぎた頃で、その頃にはある程度復興も済んでいた。

だから言ってしまえば全体を通して俺がしたことなんて暗黒龍を撃退しただけだな。


それなのにだ。

いざ動けるようになって街に出てみれば『雷神公』って英雄の話を誰もがしてるもんだから、あの時ほど仮面があって良かったなと思ったよ。

それから急いで俺を知る人達に今後はトールではなくジンと呼ぶようにお願いして回ったな。

その後はギルドでのんびりお茶を飲みつつ、ラフィカやお前みたいに何故か俺を頼って来た奴の手助けをしながら今に至るわけだ」


しみじみと語るジンさん。

大分省略されたけど、それでも大変だったんだろうなってことは分かる。

それにジンさんは自分はなにもしてないような事を言ってるけどそれは違う。


「少なくとも私はジンさんのお陰でこうして今生きてるのですから。

助けて下さってありがとうございます」


私が畏まってお礼を言えばジンさんは照れたように手をぱたぱたと振った。

こういう自己主張しないところはジンさんらしい。


「ちなみになんで『ジン』なんですか?」

「リーンなら俺の名前のイニシャルを知ってるだろ?」

「えっと、はい。確か私の身分証にありましたよね。

『R・J・トール』これですか?」

「ああ。正確にはライネル・ジントラ・トール。それが俺のフルネームだ」

「それでジンですか。

ライネル・ジントラ・トール。ちょっと格好良いですね。

ライネル・ジントラ……ん?らい、じん……雷神トール?ああっ!」

「お察しの通りだ。雷撃魔法を愛用してたのもあって俺の元の2つ名は『雷神トール』で雷神公もそこから派生した形だな。だからトールの名前も出せなかったんだよ」


そんなところにジンさんの名前の秘密があったのか。

まぁ秘密って程大した話ではないかな。


「ただ最初からトールだって名乗って貰えてたら」

「良くも悪くも今とは違う関係になってたかもな」

「……確かに」


最初からジンさんが私の大恩人だと分かってたら気安く弟子入りなんて出来なかったかもしれないし、雷神公の後を継ぐなんて恥ずかしくて言えなかったかもしれない。

当時は何処にでも居る普通の女の子だったし。

ま、今だって大成出来た訳じゃないからそんなに変わらないかも知れないけど。


「さて、面白くもない思い出話はこれくらいにしてだ」

「いえ別につまらなくは無かったですけど」

「まあまあ。

それよりもリーンはまだ雷神公の後を継ぎたいと思っているか?」

「もちろんです」

「まったく。正体を知って幻滅しても良いんだがな」

「絶対無理です」


むしろ何処を切り取ったら幻滅出来るのか教えて欲しいくらいなんだけど。

ジンさんは仕方ないなぁとボヤキながら懐から1枚の封筒を私に差し出した。

受け取って送り主を確認すると青い鷹の封蝋が押してあった。


「えっと、これは」

「雷神公の名前を継ぐ為の重要アイテムだ」

「は?」

「まあただの来月行われる『蒼天杯』に出場するためのチケットだな。

リーンにはそれに参加してもらう」


『蒼天杯』というのは名前の通り蒼天クランが主催のイベントだ。

内容は先日行ったレースに近いもので、王都をスタートした各参加者は幾つかのコースに従い途中の村や町に寄りながら西の港湾都市を目指して飛ぶというもので、5年前から災厄の復興と鎮魂の為に始まったと聞いている。

参加者はその年活躍した鳥族の人達だ。

そこに私も混ざれという。


「でも私、鳥族じゃないですよ?」

「空を飛べるなら種族は関係無いんだよ。

例えばどこかのレースで優勝出来るくらいの腕前なら誰も文句は言わない」

「あ~なんか身に覚えが」


え、もしかして私ってその為にあのレースに出場させられてたの?!


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