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第81話:休み!!?

オンブラ君が正式にジンさんの弟子入りをしてから1月ほどが経った。

この頃になるとオンブラ君も師匠の出す課題をしっかりこなして若干余裕があるほどだ。

私なんて今でもヒィヒィ言ってるのに凄い。


「僕はその、種族的に人より強靭ですから」


そういって背中の翼を羽ばたかせた。

オンブラ君の種族は表向き龍人族としてある。

実際には違うんだけど、いくらなんでも魔人だなんて言えないしね。

そうして今は裏庭から薬草(毒草)を採取して朝食の用意中だ。

オンブラ君も毎日の事だからずいぶん手馴れてきた。ただ。


「オン君。毒草だけじゃなくてちゃんと薬草も採らないとダメだよ」

「う、はい」


ちょっと目を離すと採取する草に偏りが出来るんだよね。

指摘をしたらちゃんと薬草を摘み始めるあたり、ちゃんと見分けは付いているらしい。

毒草の方が苦くて美味しくないと思うんだけどそこは好みの問題なんだろうか。

無事に薬草採集を終えて居間に戻ればジンさんがパンとかを用意してくれている。


「師匠。薬草採集終わりました」

「おうご苦労さん。こっちはあらかた準備が出来てるから、採って来たのを軽く水洗いしてボウルに盛り付けてくれ」

「はーい」


そうして美味しく朝食を頂きつつ今日の予定なんかを話し合うのがいつもの日課だ。


「師匠、今日はどんな修行をします?

郵便は昨日帰って来たところですし、ロムルス様のところにでも行きますか?」

「いや、今日は休みだ」

「「休み!!?」」


師匠からあり得ない発言が飛び出したせいで私とオンブラ君が揃って驚きの声を上げてしまった。

師匠が休みって。


「え、どこか体調がよろしく無いんですか?」

「それとも呪いの影響で耐えられなくなったとか」


私達が心配そうにそう聞くとジンさんは苦笑いしながら答えた。


「いやいや。俺の体調はいつも通りだから。

そうじゃなくて、お前達。今日が何の日か分かってるか?」

「「??」」

「ったく、これも修行漬けにしてきた弊害か。

いいか。今日は、復陽日だ。つまり年明け。新年。分かるか?」

「「……ああっ」」


私達の国では太陽の動きから1年を計算している。

太陽の出ている時間は300日くらいで周期的に長くなったり短くなったりしていて、1周で1年としている。

そして一番短い日、つまり今日の事をこれから日差しが回復してくるという意味も込めて復陽日と呼び、この日に限ってはほとんどの人が仕事を休んで家で家族と過ごすのが習わしだ。


「まさか師匠がそういうのを気にするとは思ってませんでした」

「ふむ、なるほど。つまりリーンは今日はいつもの10倍くらい厳しい修行がしたいと」

「いえいえいえ。めっそうもない」


しっかり否定しておかないとジンさんなら本気でやりかねないから危ない。

でもそっかぁ。今日は修行は休みかぁ。

ただ休みって何をすれば良いんだっけ。


「ということで俺はこの後ちょっと出かけてくるが、折角だ。お前達も来るか?」

「はい」

「お供しますけど、どこに行くんですか?」

「雷神公の墓参りだ」


にやりと笑っていうジンさん。

って、雷神公ってジンさんの事だったんですよね?

それなのにお墓って。

いやまぁ世間的には雷神公は死んだことになっているし慰霊碑と並んでお墓も建てられてますけど。

ジンさんは自分のお墓をどういう想いで見るんでしょうか。

ともかく朝食を終えて支度をした私達は揃って家を出て西の海を一望できる岬へと向かいました。

そこは10年前に雷神公が暗黒龍に挑む直前、最後に地上に降り立った場所だと言われており、慰霊碑もそこに建てられることになりました。

今はなぜか大勢の人たちがシートを広げてまるでお花見のようにお酒を飲みかわしながら自由に過ごしていた。

そのうちの何人かが私達に気が付いて声を掛けて来る。


「よお、ジン。来たか!」

「子供2人連れてくるとはお前も立派な所帯持ちになったもんだ」

「嫁さんとは相変わらず別居中みたいだけどな」

「あんま放って置くと捨てられるぞ~」

「「がはははっ」」


う~ん、まだ昼にもなってないのに完全に出来上がってる感じがする。

というか、あれ?


「師匠って結婚してたんですか!?」

「まあ、な。式とかは挙げてないが嫁と子供はいるぞ」

「そうだったんですか。でも私、もう師匠とは半年以上一緒に居るのに会った事無いんですけど」

「ん?ぺスタには会ったんだろ?」

「ぺスタさん?なんでここで、って。もしかしてぺスタさんがそうなんですか!?」

「まあな。あ、そうか。俺があいつに最後に会ったのはお前が来るより前の祭りの時が最後だったからな」


そっかぁ。ぺスタさんがジンさんのお嫁さんだったんだ。

ならぺスタさんの娘のバンボラちゃんもジンさんの娘ってことになる。多分。ジンさんには似てないけど。


「あの、どうして一緒に暮らさないんですか?」

「お互いにやるべきことがあるからな。

それに、会いたくなったらいつでも会える。

あと束縛するのもされるのも嫌だからな。これくらいの距離が丁度良いのさ」


そういうものなのか。

私だったら毎日一緒に居たいって思うけど、人それぞれなんだろうね。


「おいジン。そろそろ始めるか」


そういってジンさんの首に腕を回したのはギルドの受付にいるおじさんだ。

その顔は赤くなっていてもうだいぶお酒を飲んでるのが分かる。


「まったく、始めるも何も好きに始めてるでしょ」

「それはそれよ。ともかくお前が挨拶しないと始まらないだろ」

「はぁ。仕方ないなぁ。リーン達も一緒に来い」

「え、はい」


呆れ交じりにジンさんは慰霊碑の前の壇上へと向かった。

するとそれまでどんちゃん騒ぎをしていた人達が静まり返ってジンさんに注目した。

ジンさんはいつの間にか持っていたジョッキを胸の位置に置きながら声を張り上げた。


「暗黒龍の襲来から10年。みんなよく生き抜いてくれた。

お陰様で街は以前の活気を取り戻す事が出来たと思う。

と、偉そうな事を言ってるが、俺は一番肝心の最初の1年は寝てて何も出来てないんだけどな。

だから本当にここに居ない人も含め、多くの人の尽力があっての今だ。

俺はこの街にみんなを誇りに思う。

さて、今日はみんなに一つ報告がある」


そう言ってジンさんはおもむろに仮面に手を掛けて外して見せた。

途端に上がる小さな歓声とどよめき。

それを無視してジンさんは話を続けた。


「ここにいるリーンとオンブラのお陰でこうして仮面を外しても問題ない状態になった。

皆には多くの心配と面倒を掛けたと思う。本当に今までありがとう。

まあとはいっても、万全には程遠いから昔の力を発揮することは当分出来ないだろう。

だけどそこは『雷神公の後を継ぎます』と宣言した者が居るからそいつに今後は託そうと思う」


ニヤッとこちらを見て笑うジンさん。

何というか物凄く嫌な予感しかしない。

具体的には明日からの修行が10倍になったりとか。


「まあ長くなったが去年1年お疲れ様でした。

今年1年も大いに楽しく街を盛り上げていこう。

乾杯!」

「「乾杯!!」」


ジンさんの掛け声と共に全員が手に持ったグラスを掲げた。



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