第80話:師匠、おはようございます
2日程謎の体調不良で倒れておりました。
味覚異常とかはなかったのでコロナではないはず。
それでも一人暮らしで動けなくなると色々大変ですね。
オンブラ君をジンさんの部屋に残してから1時間が経過した。
ここからでは一切様子が分からないけど大丈夫だろうか。
「遅いですね」
「信じてあげたんでしょ?なら待つしかないって」
「はい」
ラフィカさんに諭されながら、じっと廊下の奥の部屋に意識をさせ続ける。
ガチャッ
「!」
扉を開ける音と部屋から出てくる足音が2人分。
1人はオンブラ君だろう。そしてもう1人も考えるまでもなくジンさんだと思う。
自分の足で歩いてると言うことは無事に起きられたみたいだ。
私は居てもたっても居られなくて椅子から立ち上がり。
「師匠~~!」
「って、ラフィカさん。いつの間に!?」
さっきまで隣でのんびりお茶を啜ってたのに気が付けば廊下に飛び出して奥の人影、ジンさんに飛び掛かっていた。
まったく、平静を装っていてその実、私以上にジンさんの目覚めを待ち望んでいたんだろう。
仕方ないので私は隣で困った顔をしているオンブラ君に声をかけよう。
「オンブラ君、師匠を目覚めさせてくれてありがとう」
「いえ。お礼を言うのはむしろ僕の方です。
雷神公に会わせていただき、そして僕を信じてくれてありがとうございます」
オンブラ君はそういってお辞儀をすると、バサッと背中の翼がはためいた。
って、翼!?
「オンブラ君。その背中の翼はいったい何?」
「あ、はは。話せば長くなるんですがまぁ仕舞えなくなってしまって。
それよりも雷神公を助けないと」
「え、あ~」
ジンさんの顔がラフィカさんの胸に埋まってしまっている。
普段のジンさんなら引き剥がすのも容易のはずだけど病み上がりで力が出ないっぽい。
「ほらラフィカさん。嬉しいのは分かりますが一度離れましょう」
「やだ!私このまま師匠とひとつになる!」
「突然幼児退行しないでください、よっ」
「どわっ」
引っ張り起こしても離す気配が無かったので、仕方なくそのまま投げ飛ばした。
流石のラフィカさんもその衝撃でジンさんから手を離した。
「ふう」
「リーンさん無茶しますね」
一緒に投げ飛ばされたジンさんを見てオンブラ君が呆れてるけど大丈夫。
ジンさんはあれくらいじゃ死なないし。
それよりこれでやっと私もジンさんに挨拶が出来る。
「師匠、おはようございます」
「ん、ああ。世話をかけた。
俺が寝ている間に色々あったみたいだな」
「ええ、まぁ」
レムスに修行をつけてもらったり、ジンさん抜きで郵便の仕事をしたり、オンブラ君を帝国の暗殺部隊から助けて帰ってきて、そうかと思えば雷神公を知る旅に出たり何故かレースに出場することになったり。
そんなに長い期間じゃ無かったのに色々あった。
ぐるぐると思い出が巡る私の頭にぽんとジンさんの手が置かれた。
「よく頑張ったな」
そういって撫でてくれる手が懐かしくてちょっぴり泣きそうになるけど我慢しないと。
それよりも聞きたい事が沢山あるんだから。
「あの、師匠が寝ている間にぺスタさんにも会って来ました」
「そうか。元気にしてたか?」
「はい。それで聞いてきたんですが、師匠が雷神こって、師匠。仮面は!?」
ジンさんの顔をしっかり見て問い詰めようと顔を上げたら、そこには初めて見るジンさんの素顔があって驚いてしまった。
「部屋を出る前から外してたんだが、気付くのが遅いぞ」
「すみません。ってそれより仮面外してて大丈夫なんですか?
あれで呪いを抑えてたんですよね?」
「大丈夫かと聞かれたらあまり大丈夫じゃない。
今も立っているのがやっとだ。
だがまぁ彼のお陰で仮面が無くても死なない程度にはなった」
そう言いながら隣に居るオンブラ君の肩に手を置いた。
そっか。やっぱり彼が色々やってくれたんだ。
「ありがとう。オンブラ君」
「いえ、僕の方こそ沢山お世話になりましたし、それにこれからもよろしくお願いします」
「えっと、それは?」
ペコリと頭を下げるオンブラ君。
もちろん今後もお世話するのは全然良いんだけど、今の言い方だとそれだけじゃない気がする。
そして私の頭をぽんぽんと撫でながらニヤリと笑うジンさんに嫌な予感しかしない。
翌朝、私達は恒例の郵便配達の依頼を受けた後、全速力で街道を駆け抜けていた。
背中に感じるジンさんの重みも懐かしい。いや。
「師匠、めちゃくちゃ重いんですけど寝ている間に太りました?」
「あほ。呪いの影響だ。
仮面を変えたから今までは完全に体内に納めていた力が周囲に影響を与えてるんだ。
肉体的にも精神的にも魔力的にも数倍から10倍程度の負荷になるだろうな。
それに寝ている間は薬湯しか飲んでないんだから太る訳がない」
くっ、呪いの影響がこんな形で私にやってくるなんて。
チラリと後ろを見ると昨日までとは違う仮面を着けたジンさんが何処と無く楽しそうだ。これも呪いが弱まったからかな。
あ、そうそう。
ジンさんは今も仮面を着けたままだ。というのも、
『急に仮面を外すとみんなビックリするを通り越して誰か分からなくなるだろ?』
と言うことらしい。
それを聞いて思わず頷いてしまったのであながち間違いでもないと思う。
と、そこでジンさんから檄が飛んだ。
「オンブラ!速度が落ちてるぞ。ペースを乱すな!」
「はい!」
「まだ10歳足らずだからって容赦はしないからな。
ビシバシ行くぞ」
「はいぃ~」
これまでと違い私達の横をオンブラ君も走っている。
ジンさんを起こした後、どんな話をしたのか聞いてないけど、オンブラ君も今後は私と一緒にジンさんに鍛えて貰うことになったらしい。
「あの師匠、いくらなんでもオン君には厳しいんじゃないですか?今結構ハイペースですよ」
「安心しろ。動けなくなったらお前が背負って走るだけだ」
「それ安心できる要素がないです」
動けなくなる前提なのか。
「他人の心配が出来ると言うことはまだ余裕があるな。なら負荷を上げるか」
「ひえぇ~」
そうして今日も今日とて街道を爆走する私達。
すれ違う人達ももう見慣れてしまって笑顔で見送ってくれる。
天気も良いし絶好の訓練日和なんだけど、やっぱりジンさん重いです。




