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第78話:オンブラ君、分かるの?

「それじゃあお世話になりました」


私達はあれから更に2日ほど観光を行った後、港湾都市に帰ることにした。

ジンさんの事もいつまでもラフィカさんに任せっぱなしに出来ないし、起きたら聞きたい事が山積みだからね。


「トールに起きたら余り無茶するなって伝えておいて」

「はい」

「……」


ぺスタさんに挨拶していると、その後ろに隠れるように少女がじっと私を見ていた。

えっと、あ。よく見れば翼の雰囲気とかぺスタさんにそっくり。ということはぺスタさんの娘さんかな。

それにどこかで見覚えがあるような。


「あっ。この前のレースで私に勝負を挑みに来た子だ」

「はい。あの時はすみませんでした~。リーンお姉様が居ると分かったら~居ても経っても居られなくって~。

あの後お母様からもこっぴどぉく叱られました~」

「レースはちゃんと臨まないとダメだね。私で良ければいつでも相手になるし。

空が飛べるなら港湾都市にだって1日で来れるでしょ?」

「む、無理です無理ですぅ。そんな体力ある訳ないですから~」


あれ、そうなのか。

ぺスタさんの様子を見るとちょっと残念そうに首を振ってるので、まだまだ未熟だからって事みたいだ。


「ならそれくらい余裕でこなせる程度の体力付けて、飛行技術だって先日のレースをぶっちぎりで優勝できるくらいになったら相手になるよ」

「分かりました。頑張って修行します!」

「うん、頑張ってね。

それじゃあ今度こそ」

「お世話になりました~」


『蒼天』の皆に見送られてクランハウスを出た私達は一度麓の町に寄って乗合馬車に乗り込んだ。

馬車に乗り込んだ後でふと気付いたようにオンブラ君が話しかけてきた。


「そういえば」

「なに?」

「結局雷神公の話をあんまり聞けませんでしたね」

「え、あぁ。そっか」


思えばオンブラ君には私がぺスタさんから聞いた話を伝えてはいない。

あの時彼は泥酔していたし記憶が残っているのかも怪しいけど。

私としてはあの時の話でジンさんが雷神公だと確信が持てたので、その後パンターナさんからはお茶やご飯の時に思い出話程度に雷神公の話を聞かせてもらったけど、それも災厄の前の事で最近の事はほとんど無かった。


『最近の事に関しては私よりあなたやラフィカさんの方が詳しいでしょ?』


なんて笑って言っていた。

って、そうそう。ラフィカさんもジンさんが雷神公だったことを知ってるんだよね。

教えてくれれば良かったのに。

帰ったら何か奢って貰おう。うん。


「雷神公なんだけど、どうやら今も生きてるみたいなんだ」

「え、じゃあ元気なんですか!?」

「いや、元気かと言われたらそうじゃないけど」

「やっぱりそうなんですね」

「やっぱり?」

「あ、いえ。なんでもないです」


聞き返すと慌てて手を振って何でもないというオンブラ君。

でも今の言い方だと雷神公は死んでるか、瀕死の状態だって思ってたって事だよね。

あ、そっか。

オンブラ君も暗黒龍の呪いについて知っているのかもしれない。

彼自身も『暗黒~』って風魔法とか負荷魔法を使うし、それを学ぶ過程で暗黒龍の事を知ったとしても不思議ではない。

それなら雷神公に会うっていうのも暗黒龍にまつわる事柄に触れることで自分の魔法への理解を深める事が目的なのかも。

ただジンさんが暗黒龍の話をしてくれるかは微妙かな。雷神公の事だって伏せてたくらいだし。

何より起きてくれないと話も出来ないんだけどね。

そうして帰りの道中は多少魔物が出た程度で何事も無く、私達は無事に港湾都市へと帰って来た。


「ただいま~」

「あ、おかえりなさい」


家の戸を開けて帰宅の挨拶をすると、奥からラフィカさんの返事が返って来た。

どうやらずっとジンさんとこの家の面倒を見てくれてたみたい。

廊下とかも綺麗でちゃんと掃除されているのが見て取れる。

奥のジンさんの部屋から出てきたラフィカさんは、私達が旅に出る前と変わらず元気そうだ。


「長い事留守にしてすみません」

「いいのいいの。むしろもっと長くても良かった位よ」

「師匠はまだ起きてはいないんですか?」

「ええ。肉体的には何も問題ないようなんだけどね」

「そうですか」


もしかしたらこの旅行中に目覚めてくれているかも、なんて思ったりもしたけどそんなことも無かったようだ。


「では師匠にも帰宅の挨拶をしてきます。

オンブラ君も一緒に来て。私の師匠を紹介してあげる」

「はい」

「あ、なら私も一緒に行くわ」


みんなでジンさんの部屋を訪ねた。

部屋に入るとジンさんは変わらずに静かにベッドに寝たままで、横の机の上には作りかけの編み物が置いてあった。多分ラフィカさんが看病の間にやっていたんだろう。というか、ラフィカさん、裁縫出来たんだ。


「師匠。ただ今戻りました」

「……」


声を掛けてももちろん返事はない。

むしろ静かすぎて生きているのを疑うレベルだ。

だから隣のオンブラ君が驚いた顔をしているのも不思議じゃない。

でもその後に出てきた呟きに私達は驚かされた。


「……この人が雷神公、なんですね」

「オンブラ君、分かるの?」

「はい。彼を蝕んでいる呪いが暗黒龍のものだって言うのは分かります。

そして暗黒龍の呪いを受けている人と言ったら雷神公その人しか居ません。

今もなお正気を保って生きているのは凄いですね。この仮面のお陰でしょうか」

「うん『封呪の仮面』って言うんだって」


じっと見つめるオンブラ君。

って、初見でそこまで分かるのか。凄いな。

私なんて変な仮面だなぁくらいにしか思ってなかったのに。


「でもなぜ目覚めないんですか?」

「あ、それは仮面を一時的に外してしまったからその副反応だって聞いてるよ」

「え?」


私の答えを聞いて驚き、そして考え込んでしまった。

そしてまた仮面を見つめること数分。

ぽつりと「ああそうか」と呟いた。そして。


「もしかしたら雷神公を起こせるかもしれません」

「本当に!?」


まさかオンブラ君はそんなことまで出来るの!?

確かに呪いに詳しいようだし、可能性はある気がする。

それにこれまで一緒に居て彼が嘘を言うとも思えない。


「ただその為には僕と雷神公の2人だけにさせてください」

「それは……」


一瞬視線を交差させる私とラフィカさん。

何をするのかは分からないけど、私達に見せられない何かがあるんだろう。

ただ彼がジンさんに悪意を持った行為をするとは考えられない。

何より本当にジンさんを起こせる可能性があるなら賭ける価値はあると思う。

私は考えた末に頷いた。

ラフィカさんも私を信じてくれたみたい。


「分かったわ」

「悪戯しちゃダメよ」

「はい。ありがとうございます」


そうして私達はオンブラ君をジンさんの部屋に残して居間に戻った。



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