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第73話:勝てば英雄、ですね

ゴールラインを示す線。

正確には半径1メートルくらいで描かれた円の中に着地することでゴールとなる。

私とパンターナさんはそこに向けて飛び込むように頭から突撃……って普通に硬い地面に見えるけどまずくない?

ええい、今更減速なんてしてられない。

ならいっそ覚悟を決めて突っ込む!


「ふんっ」

ドカッ!ゴロゴロゴロッ


ダメ押しで空中を蹴って地面に突撃した私はその勢いのまま吹き飛び観客席の壁まで転がってようやく止まることが出来た。


「いっててて。頭打った。って、勝負はどうなったの?」


何とか起き上がってみると、なぜかシンと静まり返る場内。

パンターナさんもゴールの円の中から呆然と私を見ている。

これはまたやらかしたかな?円の中に止まらないと無効だったとか、ね。

そう不安になったところで歓声が爆発した。


『優勝は、リーン選手だああぁぁぁ!!』

『『うおおおおぉおおおぉぉぉぉぉぉ!!!』』


私が優勝?

そうぼぉっとしてたらパンターナさんが近づいて来て手を差し出してきた。

なので慌てて握手を返す。


「おめでとう、リーン。まさか最後に着地を無視して突っ込むとは思わなかったわ」

「ありがとうございます。自分でもちょっと無茶したかなって思ってます」

「全く、普通はああやって優雅に着陸するものよ」


視線の先では残りの選手たちが降りてきたところで、地面に落ちる前にクルっと身体を反転させて優雅に足から地面に立っていた。

点数で言えば10.0って感じだ。

それに比べて私と来たら何ともまぁ無様な墜落に見えた事だろう。

よく見ればゴールの地面が凹んでるし。

でも。


「勝てば英雄、ですね」

「そういうことよ。誰もあなたを笑う人なんていないわ」

『3位ボルン選手と4位バッティ選手も無事にゴールイン。

これにて全選手がゴールしましたので、引き続き表彰式を行いたいと思います』


そこからは職員の人に指示されたまま表彰式に参加し、優勝賞金と記念の盾を受け取り、大会は幕を閉じた。

めでたしめでたし。

って何か忘れてるような……あっ。

そうだよ、別に私レースに出たくてここに来たんじゃなかった。


「パンターナさん。雷神公の件、とあと私の噂についても教えてくれるんですよね?」

「もちろんさ。といってもここじゃ何だから移動するよ」

「今度はちゃんと行く前に行き先を教えてください」

「安心しなって。あんたの祝勝会と歓迎会を兼ねた会を『蒼天』のクランハウスでやるだけさ」

「ほっ。それなら」


『蒼天』のクランハウスなら雷神公の話も聞けるし今度こそ大丈夫か。

私は観客席に行っていたオンブラ君と合流しつつパンターナさんの後をついて行った。

向かった先にあるのは5階建ての立派な建物。


「ここが」

「そうさ。ようこそ『蒼天』のクランへ」


そう言いつつ扉を開けるパンターナさん。すると。


パンッ、パンッ、パンッ♪

「「ようこそ『蒼天』のクランへ」」


1階は食堂兼大広間みたいになっていたようで、そこに大勢の人たちがテーブルに乗りきらない程の大量の料理と共に私達を歓迎しようと待ち構えていた。

その中には見知った顔の人も居る。


「ってぺスタさんがどうしてここに?」

「あら言ってなかったけど、私『蒼天』のサブマスターだから」

「ええっ!?」

「さあ、そんなところに突っ立ってないで早く入って。

みんなあなたに会えるのを楽しみにしてたんだから」


まだ全然状況が飲み込めてないけどひとまず言われた通り奥の席へと移動するとすかさずコップを持たされた。


「え~では、新たな妹リーンとの出会いを祝して。乾杯!!」

「「乾杯!!」」

「か、かんぱい?」

「うっひょお~待ってたぜ~。ほら食え食え~」

「ちょっとトロッポ。こういう時は主賓のリーンちゃんが一口食べてから!」

「おっとすまねぇ。てことだリーン。ガブッと行ってくれ。そっちの少年もな」

「は、はぁ」


流されるままに目の前のチキンに齧り付く。

あ、美味しい。

ってそうじゃなくて。


「あの、聞きたい事がまた増えたんですけど。妹ってどういうことですか?

それにこんなに歓迎される理由も分かりません。

どちらかと言えば私の方が皆さんにお礼を言わないといけない立場なんです。

10年前の『黒き災厄』では雷神公に命を助けて頂き、その後もずっとトール様に支援頂いたお陰で今こうして元気にやっていけてます。本当にありがとうございます」

「まあまあ良いってことよ」

「そうね。こうして笑顔を見せてくれるだけで頑張った甲斐があったってものよ」

「固っ苦しい話はなしなし」

「トールの奴もこんな可愛い子を助けられたんだから浮かばれるってものだよな」


私がお礼を言うと、みんなから笑顔が返って来た。

それは嬉しいんだけど、トール様が浮かばれるって?


「あの、ここにはトール様はいらっしゃらないのですか?

というか、生きて、いらっしゃいますよね?

だってつい最近もお手紙を送らせて頂きましたし」

「「…………」」


静まり返る会場。

これじゃあまるで。


「リーンさん。落ち着いて聞いてね」

「は、はい」


ぺスタさんが私の肩に手を置いてゆっくりと話してくれる。


「トールはね。このクランのマスターなの」

「それがいったい……え?」


あれ、おかしいな。

確か『蒼天』のクランマスターって言えば。


「もしかして」

「そう、雷神公の事よ」

「でも雷神公は10年前に亡くなっている訳で、でもトール様は私からの手紙を受け取っている筈で、そもそも災厄孤児への支援が始まったのは災厄の後ですから雷神公が出来るはずがなくて、えっとだから」

「落ち着いて」

「は、はい」


コップを手渡され、中のお茶をグイッと飲み干す。

一瞬お酒じゃないんだなって思ってしまって、お陰で少し冷静になれた。


「要するに、雷神公は今も生きてるのよ。

元気か、と聞かれたらあんまりそうでもないんだけどね。先日も何か事件に巻き込まれて大怪我を負って寝込んでるみたいだし。

あ、命に別状はないから安心してね」

「はぁ」


大怪我をしたっていうのは心配になるけど、生きていてくれたのは本当に嬉しい。

それにトール様が雷神公だってことは10年前からずっと私を助けてくれていたって事だしいくら感謝してもし足りない。



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