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第72話:ボス討伐特典

はぁ、ふぅ。

ちょっと全力でやりすぎたかもしれない。

流石にボスの原形が残ってない威力は、ね。

それにこれじゃあ飛脚術で会場まで戻るのもしんどい。


「あ~あ。レースは負けかな」


スタートの時にパンターナさんに大見栄切った訳だけど、そのパンターナさん含め他の選手とはかなり距離が離れてしまった。

多分まだゴールまでは辿り着いていないけど、浮遊岩の場所くらいには居るんじゃないかな。

上を見ればまだ魔鳥がぴぃぴぃ飛び交ってるし、また地上を走って行っても不可視の多分風の攻撃が飛んでくる領域を今の状態で抜けるのは骨が折れる。その頃にはきっとトップの人がゴールしているだろう。


「リーン選手。棄権しますか?」


やってきた救護班の人にそう問われたけど、うーん。

私は自分の足を見た。

……まだ走れる、よね?魔力も残り少ないけどジンさんとの特訓のお陰で飛脚術でただ空を走るだけなら多分会場まで行ける。全速力は出せないかもしれないけど。

それなら棄権する必要はないと思う。


「いいえ。折角ですから自分の足でゴールしてきます」

「分かりました。ご武運を」


離れていく救護班の人を見送りながら深呼吸をひとつ。

さてやりますか。

と思った時、ふと師匠の言葉が頭を過ぎった。


『負けるかもしれないと思っているのに戦う奴を馬鹿と言うんだ。

戦うなら勝て。負ける可能性を考える暇があったら勝てる手段を探せ。

それでも勝てる可能性が無いのであれば……一目散に逃げろ。それが一番被害が少ない』


そうだよね。負けが確定した訳じゃないんだから。

でも勝てる手段、かぁ。

ふと地面にキラリと光るものを見つけた。

これさっきのボス鳥の魔石だね。あぶない、回収せずに行ってしまう所だった。

……ボス?


『ウキーッ』『ボスボス!』『ボスリーン!』

「……あぁ」


以前バードモンキー達から急にボス呼ばわりされるようになったのは、確かシンミアを討伐し終えた後だった。

それならボス鳥を倒した今なら上空を飛んでいる魔鳥達も私をボスとして認識してくれないかな。


「あなたたち。私の言葉が分かるかしら!」

「ピィ?」「ピィーー」

「「ピィピィピィ♪」」


何となく分かるっぽい。よかった。

魔鳥達は私の近くに来ても攻撃することも無く楽しそうに鳴いているしこれなら。


「お願い。私を競技場まで送り届けて欲しいの」

「ピィーピィ、ピ!」


少し大きめの個体が私の足元に飛んできた。

どうやら背中に乗れってことみたい。


「ありがとう!」

「ピィーーッ」

「「ピィーーッ」」


私が背中に乗るとすぐさま飛び進んでくれた。

しかもその周りを他の魔鳥達がガードするように飛んでくれている。

お陰で一切の抵抗を受けることなく不可視の攻撃が飛んでくる空域を突破出来た。


「ピィィ」


と、そこで私を乗せていた魔鳥が弱々しい鳴き声を発した。

周りの魔鳥達もちょっと困った様子を見せている。

きっと浮遊岩の飛んでるこの場所には入りたくないんだろうな。

でも。


「何弱気になってるのよ。

安心なさい。私が魔力で強化してあげるから」

「ピィ!」


レムスに特訓を受けてる時は私が強化してもらう側だったけど、そのお陰で感覚は何となくつかめている。


「行くわよ。気合入れなさい!」

「ピピィ!」

「ほかの皆もありがとう。流石に強化できるのは一人だけだからみんなはここで戻って。

出来れば他の冒険者に狩られずに長生きするのよ」

「「ピィーー」」


魔鳥達は敬礼するように右の翼をぴっと立てたかと思うとその流れで急旋回してきた道を戻っていった。

そして私を乗せた魔鳥と共に意を決して飛び込んでいた。



…………



レースも大詰め。

会場では少し前からスクリーンも閉じられて誰がトップで戻ってくるのか全く分からない状態になっている。

観客たちは今か今かと待ちわびている。

だがそれも終わり遂に選手たちが肉眼で見える位置に現れた。


『さあ最終コーナーを周って選手たちが姿を現しました!

先頭はパンターナ選手。その後ろにはボルン選手とバッティ選手が続きます』

『リーン選手の姿がありませんね。

棄権したという連絡は受けていませんが、やはりボス戦の影響でかなり遅れを取っているようです。

ここまで来ると優勝は絶望的。完走できるかどうか、というところでしょう』

『完走できるのが3人から4人しか居ないという波乱のレースとなりました今戦。

このままパンターナ選手がゴールまで駆け抜けるのか!』

『いえ待ってください。

後ろから凄い勢いで魔獣が1体飛んできます!』

『すぐさま警備隊が飛び立ち……あっ。魔獣の背中になにかいます。

あれは……リーン選手です! なんとリーン選手、魔獣に乗って登場しました。

かと思えば魔獣の背から飛び上がってそのまま飛脚術で飛んできます。

魔獣の方はそれを見送って来た道を帰っていくようです』


ふぅ、あぶないあぶない。

ここまで送ってもらったのに警備隊に倒されるとか後味悪いものね。

さあレースもあと1キロ足らずってところかな。

あの子のお陰で多少は休憩出来たし、後は気合の勝負ね。

ここからなら会場の放送の声も何とか聞こえる。


『どうやらリーン選手、魔獣を手懐けてその背に乗って飛んできた模様です。

これは大会のルール的にどうなのでしょうか』

『はい。大会規約にはテイムした魔獣を連れ込んではいけないとあります』

『ということはリーン選手は失格、ですか?』


えっ。そうなの?

聞いてませんでした、じゃやっぱダメかな。


『ただ規約には、レース中の障害などについては選手の自己判断に基づき解決することとあります。

今回の場合は元からテイムしていた魔獣という訳ではなく、あくまでレース中の障害物をうまく利用しただけとも取れます』

『あ、たった今運営本部から問題なしとの判定が下りました。つまりは』

『私達はレースの結果を見届けるのみです』


ほっ。良かった。

そして言ってる間に残り200メートル。

フラフラ飛んでいる2人を追い越し残るは1人。


「パンターナさん!」

「リーン。まさかそんな手で追いついて来るとは思ってもみなかったよ」

「ボス討伐特典みたいなものです。まあ偶然なんですけどね」

「運も実力の内。さあ残り100メートルだ。ここまで来たら結果で示すのみ」

「負けません!」


最終ゴールラインに向けて私達は最後の魔力を振り絞って飛び込んでいった。

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