第7話:立っているのがやっとです
私はジンさんの後に続いて街の中を歩いていた。
え、身体強化?それが全然ダメだったから。
『魔力を身体に流すことは学校で習っただろう。
それを今出来る最大出力でやってみろ』
そう言われてその通りにやった結果、私は一歩も歩けなくなった。
学校で習った魔力の循環は『瞑想』と呼ばれる行為で、安静な状態で行うのが常だった。
なので魔力循環を行ったうえで歩けと言われたら、歩いた瞬間、循環が途絶えてしまった。
冒険者は常に魔物に襲われる危険があるので危険地帯に居る間は魔力循環を切らすのは殺してくれと言っているようなものらしい。
なるほど、確かに今の私は冒険者としては赤ん坊同然だったようだ。
「予想はしていたがやはり無理か」
そう呟いたジンさんは私に切り上げさせると付いて来いと言った。
そして今どこに向かっているかというと。
「衣装屋?」
案内された店の中には各種庶民用の服が陳列されていた。
男性用も女性用もあって、一部大人の下着なんかも置いてあった。
あんなスケスケなの、誰が着るんだろう。
「おい、こっちだ」
「あ、はい」
ジンさんに呼ばれて慌てて店の奥に向かう。
そこに居たのは身長180センチの大柄な女性。
更に激しく主張するのは鳩胸。あ、これは文字通り鳩の胸の事だ。
そして何よりも背中には鈍色の翼。
「……鳥族」
私の呟きにニッコリと笑う女性。
「鳥族を見るのは初めて?」
「えと、遠目ではあったんですけど」
「まあそうでしょうね。この地域に住んでいたならレースは見ているでしょうし。
にしても。あなたまぁた若い子を引っ掛けたのね」
ジンさんを見ながらため息をついた。
ま、また?
突然ジンさんにロリコン疑惑が持ち上がったけど、よく考えればジンさんが私を誘惑したり勧誘したことはない。
むしろ私が嫌がるジンさんに無理を言って一緒に居てもらってる状態だ。
だからそんな疑惑は事実無根な訳で。
でももしかしたら前科持ちの可能性はある、のかな。
「人聞きの悪い事を言うな。今回も俺から声を掛けた訳じゃない」
「分かってるわ。冗談よ。それで今日は何を?」
「この子にあうサイズでCランクを一式頼む」
「C?大丈夫なの?」
「問題ない。この子の希望だ」
「はぁ。分かったわ」
なにやら私の分からない話でトントン拍子で何かが決まったようだ。
お姉さんが私に向かって手招きしてくる。
「じゃあいらっしゃい。折角だから一番良いの選んであげるわ」
「え、あの」
「行ってこい」
どうしたら良いのか分からなくてジンさんを見ると首を縦に振られた。
この人はジンさんとも仲が良いようだし、それなりに信用しても良い人って事みたいだ。
お店のバックヤードへと案内され、体のサイズを測られていく。
「私はチョーネよ。あなたは?」
「リーンです」
「そう。リーンは彼に随分と無理難題を言ったみたいね」
「え?」
さっきの短い会話でそんなことまで分かったんだろうか。
そこまで心が通じ合っているって事はチョーネさんはジンさんの彼女だったりするのかな。
「はい、これに着替えて。それから彼の所に戻るまで下手に魔法は使わない方が良いわよ」
チョーネさんは私に黒いタンクトップにスパッツ、手足につけるリストバンドを渡すと謎の言葉を残してジンさんの所に戻っていった。
さっきのはどういう意味だったんだろう。
ま、とにかく着替えよう。
広げてみると基本黒一色。ただよく見ると刺繍が入っている。植物の蔓っぽい不思議な模様だ。
「えっと、着替え終わりました」
バックヤードから出てきた私をジンさんとチョーネさんがじっと見つめる。
あの、この服身体のラインがよく分かるからあまりじっと見られると恥ずかしいんですけど。
「特に着心地に違和感はないな?」
「はい。生地はサラサラしていて触り心地も良いですし」
「そうか。よし。では『起動』」
「え……うひゃっ」
ジンさんの言葉に反応して刺繍の部分に光が走ったかと思った瞬間、体内の魔力が暴走を始めた。
私の意思とは関係なく魔力が全身を物凄い勢いで駆け巡る。
普通、魔力が暴走したらすぐに体外に噴き出して気絶するんだけど、さっき着た服が魔力が外に出るのを防いでいるようだ。
お陰で全身が熱病のように熱くなり、頭はぐわんぐわんと振り回されて立っていられなくなる。
倒れそうになったところをさっとジンさんが支えてくれた。
「し、師匠」
「落ち着け。じっとしてれば治まる」
「は、はい」
じっと我慢していると5分ほどでグラグラしていた意識はクラクラくらいまで落ち着いてきた。
体内の魔力の暴走は変わらず私の身体は熱いままだ。
今はジンさんに支えてもらって立っているのがやっとで自力で立つのも厳しい。
「そ、それで師匠。これは?」
「強制的に魔力を循環させる魔導服だ。
その循環させる強度でAからFまでランク分けしてある」
「それでさっきCって言ってたんですね。Cはどれくらいなんですか?」
「熟練の冒険者ならダイエット代わりに使えるレベルだ」
「えーっと」
そんな例えじゃよく分からないんだけど。
「Eランクの冒険者程度なら常時全力の魔力を最高速で循環をしているのと同じだ」
「あ、それなら」
つまりGランクの私には過ぎた代物で動けなくなるのも当然って事なんだ。
じゃあ何でジンさんはこれを私に着させたんだろう。
「言っただろう。循環系魔法は慣れれば何とかなるものなんだ。
今のお前には全力を最高速の3倍くらいで循環させてるから倒れそうになったり動けなくなってるんだ。
それでも3日もすれば日常生活はそつなく熟せるようになる」
「み、3日!?」
それはこの状態が3日も続くって事かな?
な、なるほど。これは確かにスパルタだ。
これ一歩間違えば拷問にも使えるんじゃないかな。
結局私がひとりで立っていられるようになったのはそれから1時間後。
というかずっとここにお邪魔している訳にも行かないのだけど、歩こうとするとまだクラクラしてまるで病人のようだ。
ちなみに店を出るときはこの上から元の服を着てます。




