第67話:リーンさんって何者なんですか?
【オンブラ視点】
モニターに集中してレースを観戦していると不意に後ろの扉が開き誰かが入ってきたのが分かった。
賭け金を預けた職員の人は既に戻ってきていたので別の人だろう。
ただ仮にもVIP席と呼ばれるここに気軽に出入りできるとなるとそれなりの権限を持った人、例えばオーナーとかかもしれない。
そう思って振り返るとそこには見知った顔の人が居た。
「こんにちはオン君。レースは楽しんで頂けていますか?」
「ぺスタさん。
はい。ただ突然リーンさんがレースに参加することになったのは驚きましたけど。
もしかしてあなたの差し金ですか?」
「どうでしょうね」
そう訊ねるとぺスタさんは曖昧に笑って答えた。
ただその目は港湾都市からここまでの道中で見せた優し気なものではなく、酷く真剣なものに見える。
「ただあなた方に、正確にはあなたに雷神公の情報を伝える前に確認しなければならない事があります」
「それはリーンさんに聞かれるとマズいことなんですね?」
「マズいのは恐らく私ではなくあなたの方ではないですか?」
「……」
ぺスタさんの問いに沈黙で応える。
もし仮に彼女が僕の秘密にしていることを聞き出そうというのであれば、リーンさんには申し訳ないけど一目散に逃げださないといけないかもしれない。
僕はいつでも魔法を発動できるように魔力を体内で練り始めた。
でもそれを見てもぺスタさんは特に構える様子はなく、淡々と質問をしてきた。
「そう警戒しなくてもあなたの秘密を暴こうなどとは思っていませんよ。
私から聞きたいのは2つだけ。
あなたは雷神公を恨んでいるのですか?そして雷神公に会ってどうしたいのですか?」
「それは……」
そう問いかけられて一瞬魔力が暴発しそうになる。
それを聞くという事は僕の正体についてある程度分かっているという事なのだから。
「なぜ僕の事を」
「ああ。別にあなたの正体を聞きたい訳では無いんです。
あなたの魔力の色を見れば大体どういう存在なのかは分かりますから」
「い、色?」
魔力に色の違いなんてあるの?
自分が何色なのかちょっと気になるけど、今はそんなことを聞く雰囲気じゃない。
「それでどうなのかしら」
「それは、えっと……正直分かりません。
少なくとも今は恨んではいませんが、実際に会ってみたら別の感情が湧き上がるかもしれないです。
それと僕としては雷神公にこそその質問をしてみたいと思っています」
「ふふっ。その答えは聞くまでもなく分かりきってる気がするけど」
「え?」
僕の回答を聞いたぺスタさんからは先ほどまでの鋭い雰囲気が消えていた。
あ、今ならこっちの質問も答えてくれるかも。
「あの、僕からも質問良いですか?」
「ええどうぞ」
「リーンさんって何者なんですか?」
「あら、知ってて一緒に居た訳じゃないのね」
「それはどういう」
「あの子は私達の妹みたいなものなの」
「そうなんですか?でもリーンさんはそんなこと一言も言ってませんでしたけど」
「そりゃまあ、まだ伝えていないもの。
レースが終わって帰ってきたら歓迎会も兼ねてその辺りの話や雷神公の話も聞かせてあげるわ。
そこに祝勝会が加わるかどうかはあの子の頑張り次第ね。
ほら。レースが動いたわよ」
「え、わっ」
スクリーンを見れば丁度リーンさんが何かの攻撃を受けたのか山の斜面に吹き飛ばされたところだった。
あ、でもさっき脱落した人と違ってちゃんと自分の両足で立ってる。
ダメージもそう無さそうだから大丈夫そうだ。
一体何が起きたんだろうと他の人を映したスクリーンを見て、すぐに原因が分かった。
「何ですかあの風の砲弾は」
「あら見えるのね。私達は暴力風と呼んでいるわ。
その名の通り風が暴力を振るってくるような光景だから。
あ、光景と言っても風の魔法が得意な人や鳥族じゃないとあれは見えないんだけどね」
「それじゃあリーンさんは」
「見えてないでしょうね。
鳥族なら見えている分、かわすのも難しくはないし上級者ならその風を受けて更に加速することも出来るわ」
その言葉の通り、先頭を飛んでいる鳥族の女性は上手く風を受け止めて飛んでいた。
でも中には受け止めきれずにバランスを崩して失速したところに更に数発受けて地面に落ちてしまった人もいる。
『おおっと、ピータ選手とクルンズ選手がここで脱落だー-!』
『ピータ選手は1つの暴力風をいなしたところで反対からのを受けきれませんでしたね。
クルンズ選手はそんなピータ選手を見て笑っているところに不意打ちを受けたようです』
『油断大敵ですね』
「はぁ。あの子たちは後で再教育ね」
なんだろう。
さっきよりぺスタさんの雰囲気が怖い気がする。
『さあ問題はリーン選手ですが、この局面をどう乗り切るつもりでしょうか』
『先ほどまともに暴力風を受けたところを見ると、彼女は風の魔法がそれほど得意という訳ではなさそうですからね。
彼女にとってここが一番の難所と言っても良いでしょう』
『両手を顔の前でクロスさせて……まさかの突撃だー-!』
『ふむ。意外と悪くない手ですよ。
真っすぐ前に進む分、後ろからの風は威力が落ちてただの追い風になっているようですし正面からのも覚悟を決めている分、当たり負けていません。
あと嬉しいのはこれなら人族とか関係ないですね』
『嬉しいというのは?』
『誰でもマネが出来るという事です。ほら、リーン選手のやり方を見たプップ選手が同じ方法で突破を試みてますよ』
プップ選手というのは、あの人か。
なるほど、鳥族でもリーンさんと同じように暴力風を無視して飛ぼうとしてるみたいだ。
でもそれは鳥族としての利点を捨てることになるみたいで、先頭のパンターナ選手みたいに加速するようには使えないらしい。
風を捉える技術を磨かなくて良い分楽なのかもしれないけど、一長一短ってところかな。
そうして無事に暴力風の空域を抜けた彼ら彼女らを待ち受けていたのは空を覆い尽くす程の大量の魔物だった。




