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第66話:コロシアムだよね

【オンブラ視点】


冒険者ギルドの案内に従ってリーンさんと向かった先にあったのは重厚な外壁を持った建物。

それは僕にとっては見慣れたものだった。


(戦闘実験場(コロシアム)だよね)


ここに雷神公を知る人が居るということなんだけど、その人もまた僕と同じような人なんだろうか。

それともお父様みたいな人なのかも。

そう思いながらも入ってみたら直ぐに受付の人に手を引かれてリーンさんと別れ別れにされた。


「あの、どこに連れていく気ですか?」


この強引に連れて行かれる感じも知ってる。

多分何かと戦わされるんだよね?

そう思ってたのに返事は違った。


「VIP席よ。あ、お金とかは取らないから安心して」

「え、はぁ」


安心してと言われても突然説明もなく連れて行かれて安心なんて出来るわけがない。

もしこの人の言葉に嘘があれば直ぐに全力で抵抗して逃げ出さないと。

幸いリーンさんのお陰で大分体も回復している。

この人くらいなら何とかなるだろう。

でもそんな心配は杞憂だったようで本当にVIP席と思われる他の人達よりも上等な観客席へと案内されたのだった。

ただ最初の予想、コロシアムだっていうのは外れて居なさそうだ。

会場中央の広場に20人近い軽装備の人達がいて、彼ら彼女らが今回の競技者という事だろう。


「あっ」


リーンさんだ。

中央のゲートからリーンさんが出てくるとすかさず場内アナウンスが彼女を紹介する。


「「わあああぁぁぁぁ……」」


……すごい。

この街に来てからどこに行ってもリーンさんの名前は知り渡っていた。

今も観客席の方から「あれが噂の……」なんて声がちらほら聞こえてくる。

そんな凄い人に助けてもらっていたんだと今更ながらに実感しつつ、そんな人を騙していることにチクリと胸が痛んだ。

っと、リーンさんがこっちを見た。

更には念話が飛んでくる。


『預けてあるお金、全額私の勝ちに賭けておいて』

『わ、分かりました!』


今回の旅に出るときに「途中ではぐれる危険もあるから」と言って結構な大金を預けられた。

そんなの受け取れないと断ろうとしたんだけど、旅から帰ってきたらお返しすることを条件に渋々受け取っていた。

そのお金を全額?大丈夫だろうか。

でも信じるしかない。

僕は近くに居た職員の人に声を掛けた。


「あの、このレースって賭けの対象なんですか?」

「はい。優勝者を当てる単勝、2位3位までを当てる連勝の他、何人がゴール出来るかを当てるものやおおよそのクリアタイムを当てるものなどがございます」

「何人がゴール出来るかって、それはつまりゴール出来ない人が出てくるんですか?」

「はい。通常のレースでも毎回1人2人は脱落しておりますし、特に本シリーズのレースは難所が多くなっていますので毎回ゴールまで辿り着けるのは半数程度となっています。

その為に各所に監視員や救護スタッフが待機していますのでご安心ください」


全然安心は出来ないんだけど。

やはりここは命懸けの場所(コロシアム)って事なのかもしれない。

そんなところに突然参加させられてリーンさんは大丈夫だろうか。

……いや。

今の僕には信じることしかできない。


「あの、ではリーンさんの優勝にこちらのお金を賭けたいんですけど」

「……畏まりました。では私は手続きをしてまいりますので、どうぞそのままレースをお楽しみください。

まもなくスタートですので」


お金の入った袋を受け取った職員さんはその重みに一瞬驚きつつ一礼して去っていった。

会場の方に視線を向ければ選手たちが一列に並んで開始の合図を待っているところだ。


『位置について。よーい』パンっ!


号砲と共に各選手が翼を羽ばたかせて垂直に身体を浮かせる中、リーンさんただ一人が一気に前へと躍り出た。

それを見た観客からも驚きの声が上がる。

凄い。まるで地上を走るのと変わらない速度で空中を駆け抜けていく様は、僕たちには見えない地面がそこにあるんじゃないかと錯覚させるほどだ。

もしこのレースが100メートル走みたいな短距離ならリーンさんの圧勝だったかもしれない。

でも実際には片道数キロあるのでそうはならない。


『さあスタートダッシュを決めたリーン選手でしたが、他の選手たちも着々と追いついてきました』

『風を掴んだ鳥族のトップスピードは他の種族の追随を許しませんからね!』

『そして早くも第1の難所。浮遊岩が飛び交う谷間です。リーン選手が驚き足を止める間に後続がどんどん飛び込んでいく』

『あれはこの地域特有ですからね。初見で対応しろというのは無理が』

『おおっとリーン選手、果敢に飛び込んだ!』


スクリーンに映し出されたその先で、リーンさんがまるで後ろに目が付いてるんじゃないかと疑いたくなるほど縦横無尽に飛んでくる岩を的確に避けていく。

むしろそれに驚いた他の選手が岩の直撃を背中に受けて墜落してしまった。


『ヴェンパ選手、墜落!救護班が即座に駆けつけます』

『当たり所が悪く意識を失っているようですね』

『なお墜落しても救護班が到着する前にコースに復帰すれば特にペナルティなどはありません』

『ヴェンパ選手は……やはりダメなようです。ここでリタイアですね』


そうこうしている間に先頭は浮遊岩地帯を抜けたようだ。

リーンさんは3位。人族でこれは快挙じゃないかな。



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