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第62話:どうして屋台がないんだろうね

切り立った山肌を前にして私が取った行動はといえば、何も特別な事なんかなくていつも通り。

そういつも通りに戻ったところだ。……オンブラ君には悪いけど。


「さあ、オン君。遠慮せずに背中に乗って」

「え、でも」

「さあさあ早く」


若干渋っていたオンブラ君だけど、自分だけ山道を歩いていく訳にもいかないので仕方なく私の背中に乗った。


「じゃあ行くよ。しっかり掴まっててね」

「はい。でも重くないですか?」

「師匠に比べたら凄く軽いから大丈夫。

まぁ見てて。よっと」


言いながらまずはウォーミングアップがてら階段を上るようにテクテクと歩いて見せる。


「わ、すごい」

「ねっ。じゃあここからは加速して行くから落とされないようにしてね」

「は、はい」


オンブラ君の返事を聞いてから私はどんどん加速させていく。

とは言っても別に急ぐ訳でもないから全速力を出す必要はないか。

横を見ればぺスタさんが翼を広げて楽しそうに並走……並飛行?している。


「リーンさん。なかなかに良い飛行速度ですね」

「ありがとうございます。

ぺスタさんも飛んでる姿が凄く綺麗です」

「ふふふっ。

そうだ。折角なのでコボブレッザまで競走しませんか?」

「競走……良いですね。やりましょう」


ぺスタさんと頷き合い、足に魔力を込めて一気に駆け上がる。

私のすぐ横ではぺスタさんが風の魔力を身に纏って更に加速していた。

あれは雷纏ならぬ風纏なのかな。

それにしても速い。

翼で上に向かって飛ぶのって大変だって聞いたことがあるのに、そんなこと物ともせずに飛んでいる。

私の全力の身体強化ではジリジリと離される一方だ。

多分横方向への競走なら勝負にもならなかっただろう。

こうなったら魔力付与も掛けてみるか。


「うわっ」

「っ、ごめんオン君。大丈夫?」

「は、はい。なんとか」


いけないいけない。

ぺスタさんとの競走は楽しいけど、一緒にいるオンブラ君を危険にさせちゃダメだよね。

私1人なら万が一墜落してもかすり傷くらいですむけどオンブラ君も無事で済むとは限らない。

なので安全には十分注意しながら飛ばないと。

後ろを振り返って私達を見たぺスタさんはくすりと笑って少しペースを落としてくれた。

お陰で完全に引き離されることなく私達はコボブレッザの町に到着した。

時刻はちょうど夕暮れ時で山の斜面が真っ赤に彩られていた。


「わぁ」

「すごい。綺麗だね」

「はい!」


オンブラ君を背中から下ろしつつ景色に感動していたらぺスタさんが近付いてきた。


「無事にこの時間に間に合って良かったわ。

ようこそ、コボブレッザの町へ」


にっこり笑いながら言うぺスタさん。

急に競走しようって持ち掛けてきたのはこの景色を見せてくれようとしてたんだ。


「素敵な景色ですね」

「そうでしょう。明け方もまた違った趣があるから楽しみにしてて」

「はい!」

「じゃあ私は学校に寄ってから帰るからここで。

また会いましょう」

「はい、ありがとうございました」


ぺスタさんはひらりと手を振ると颯爽と町のなかに入っていった。

それを見送った私達もまちのなかへと向かった。

ちなみに門での受付はごく簡単なものだった。


「この町の住民は大半が鳥族であったり飛べる種族なんだ。

だからここは外から来た人をチェックするだけで基本出入りはフリーなのさ。

『我らを縛る鎖はない。我らを閉じ込める檻はない』

それがここの信条だ。

お陰で自由過ぎる気風だが、犯罪を容認してる訳じゃないから間違えないでくれよ」

「はい」


そういって笑う門番の人も鳥族だし今も上空から町に降りたっている人も鳥族で、本当に鳥族が多いのがよく分かる。


「この時間から『蒼天』の人に会いに行くのも良くないから今日はゆっくり休んで明日の朝に訪ねようか」

「そうですね」


まずは宿の部屋を取ってみると食事は朝食のみだったので外に食べに出た。

何を食べようかなと大通りを歩いてて気付いたのは港湾都市でも王都でもあった屋台がなかった。


「どうして屋台がないんだろうね」

「そうですね。文化の違いでしょうか」

「それは野鳥が多いからさ」

「え?」


私たちの疑問に答えてくれたのは横で武器屋を営んでいたおじさんだ。


「屋根の上にも何羽も居るが、食べ物を持て外を歩いていると奴らが奪いに来るんだよ」

「どれどれ?」


試しに荷物袋からドライフルーツを取り出してみると……

すぐにバサバサバサって数羽が飛んできてサッと掠め取って行ってしまった。


「ほらな」

「あはは。でもこれ、奪いに来たところを捕まえれそうなんですけど」

「ああ。そうして鳥と人との熱いバトルが日々繰り広げられてるのがここの風物詩だ。

屋台を出してるとキリがないから販売は店内でってことになったんだよ。

あ、ちなみに野鳥を捕まえて精肉店に持っていくと高くはないが買い取ってもらえるぞ。

捕まえるようの罠や武器も置いてるから興味があるなら見ていきな。

ただ使うなら町の外でほかの人に当たらないように気をつけてくれよ」


店内を覗いてみれば大小さまざまな弓矢が置いてあったり、果ては釣り竿まで置いてある。

どうやら釣り針に餌をつけて魚じゃなくて鳥を釣るらしい。

あっちに置いてある籠と棒のセットはギャグかな。



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