第59話:ぺスタさんも来たんですか?!
休憩を終えた馬車に乗って再び私達は王都を目指している。
その私の横には先ほど知り合った女性、ぺスタさんが座っていた。
ただ馬車に乗ってるだけだと退屈だろうということで話をさせてもらっていた。
「え、じゃあぺスタさんも『風の溜まり場』に行くんですか?」
「行くというか帰るが正しいけどね。
今回は仕事で港湾都市に行ってただけで、普段はあまり外には出ないから。
あ、それとあの街の正式名称は『コボブレッザ』よ。
まあ『風の溜まり場』の方が一般に知られてるんだけどね」
「あ、はい。すみません」
そうだよね。
自分の故郷を俗称じゃなくて正式名称で呼ばれた方が良いに決まってるよね。
「まあ特に拘りがあるって訳じゃないんだけど、長老とかは煩いからね。
それでリーンさん達はコボブレッザに何をしに行くの?観光?」
「はい。私は港湾都市から王都にかけてしか行ったことが無かったので行ってみようって話になりまして」
「そう。あそこは急峻な山道が多いから歩いていくのは大変だけど頑張りましょうね。
この地域では鳥系の魔獣が最も多い場所でもあるし」
鳥系の魔物かぁ。
やっぱり素早いんだろうな。私の飛脚術で対応できるだろうか。
それとオンブラ君は山道とか行けるかな。
「ねぇ、オン君は山登りとか大丈夫?」
「えっと、はい。登ったことは無いですけど体力はそれなりにあると思うので大丈夫だと思います」
誰が追手かも分からないので道中はオンブラ君のことはオン君って呼ぶことにしてある。
でもまぁ先日の追手から逃げてた時も私が追い付くまで結構な距離を逃げ続けられたんだから確かに問題はない気がする。
風の魔法も使えるみたいだし、いざとなったら自分の背中に追い風を当てて楽に歩くことだって出来そうだしね。
そんな感じで和気あいあいと話していた所に御者台から声が掛かった。
「お客さんの中に腕の立つ人は居るかい?」
「何かありましたか?」
「ああ。前方に魔物が屯しているっぽいんだ。
運賃に色付けるからできるなら倒して欲しい。無理なら大きく迂回をすることになる」
魔物かぁ。
王都に続く道だからあまり出ないとは言えゼロではないからね。
運が悪かったと言えばそうなんだけど。
えっと、この中で言えば商人風の男性たちは顔を青くして首を振ってるから無理か。
ぺスタさんは先生だって話だし、なら私の出番だね。
勝てなくても私の脚力なら誘導しつつ撒くことも出来るだろう。
「それなら私冒険者なので行ってきますよ。
倒せるかは見てみないとですけど、街道から引き離すのは問題なく出来ます」
「そうかい。済まねえな」
一旦馬車を止めてもらって私は馬車を降りた。
「あ、オン君は待っててね」
「はい。お気をつけて」
「うん」
オンブラ君を馬車に残して私は馬車の前に出た。
さて魔物は……あれかな。遠目だけど確かにいるっぽい。
10……20体くらい?
「あれはワーウルフね」
「って、ぺスタさんも来たんですか?!」
隣を見ればいつの間にかぺスタさんがまるで散歩でもするように自然体で立っていた。
学校の先生だって言ってたのに大丈夫なんだろうか。
「さあ、所詮Eランクの魔物だから油断はせずにさっさと倒してしまいましょう」
「は、はい」
そう言ってすぐさまぺスタさんは駆け出してしまった。
って、ぺスタさん速い!
慌てて追いかける私。魔物の群れはもうすぐだ。
でもぺスタさん武器は?手ぶらに見えたんだけど魔法で戦うんだろうか。
「『風の鞭』」
短い詠唱と共にぺスタさんの右手の周辺が揺らいだ。
あれは魔導具?いや、恐らく魔法で空気を操ってるんだ。
魔力の流れを見れば確かに鞭のようなうねりが見える。
「先制攻撃は頂くわよ。はっ!」
「ぎゃいんっ」
ぺスタさんが大きく右手を振るうとまだ10メートルくらい距離があった魔物の1体が吹き飛ばされた。
相手の攻撃が届かない中距離から不可視の攻撃が放てるのは中々に脅威だ。
私が雷の魔法で同じことをやろうとしたら距離による減衰が酷くて大したダメージにはならなさそうだ。
私に出来るのはまだまだ至近距離からの攻撃のみ。
「突撃します!」
「分かったわ。なら後ろは任せて」
ぺスタさんを追い抜き一気に加速して前に出る。
敵はワーウルフ。二足歩行も出来る身長2メートルの狼の魔獣と言えば良いのか、通常の狼の魔獣に比べると筋力と耐久力に優れときに武装をする知恵もあったりする。
ただ二足歩行になってしまったせいか俊敏さという意味では若干退化しているんだよね。
そのせいで飛び込んできた私に対応しきれない。
「ふっ」
私は足を止めることなくワーウルフ達の脇をすり抜けるように走りながらその脇腹や太もも、そして首筋をなで斬りにしていく。
そうして駆け抜けた後で振り返れば、ばたばたと死んではいないものの戦闘不能になったワーウルフが倒れていた。
無事だったワーウルフも私とぺスタさんに挟まれた形になりオロオロとしている。
「ガルルッ」
と、どうやら私よりもぺスタさんの方が危険ではないと判断したようだ。
群れのリーダー格がひと鳴きすると生き残った者たちが一斉にぺスタさんへと襲い掛かっていった。
「馬鹿ね。散り散りに逃げれば良かったのに」
そう言いつつぺスタさんは再び右手を振った。
ただ今度はさっきみたいに鞭の一撃ではなく魔物の群れを巻き込むような形だ。
「吹き飛びなさい!」
ゴウッ
一瞬にして暴風が吹き荒れワーウルフ達が居た場所に小さな竜巻が発生した。
すぐに納まったその場所にはワーウルフ達の血と肉片だけが残されていた。
うーん、最近の先生って強いんだね。




